物語の幕は上がらない(本編完結 番外編更新中)

わらびもち

文字の大きさ
71 / 99

不意に訪れた現実

 カレンデュラ家を出てすぐのこと、リンデン家の騎士により捕獲されたレオナルドはそのまま屋敷へと連行され、今度は物置部屋ではなく地下にある牢へと押し込められた。勝手に抜け出したばかりか、よりもよってカレンデュラ家を訪れたことに夫人の怒りは頂点に達し、凄まじい迫力で責め立てる。烈火のごときその気迫にレオナルドは反論することもできず、ただ大人しく成すがままとなった。

 そうして数日が過ぎ、ようやく牢から出された。湯で体の汚れを落とされ、清潔な服に着替えてようやくひと息ついたところで今度は夫人の前へと連れて行かれることになる。夫人の彼を見る目は胸が凍りつくほど冷たい。そこには母親としての情など一片もなく、まるで他人か、それ以下を見るような光が宿っていた。

「レオナルド、お前とクロエ様の婚約は解消されました。お前の婿入り先は無くなりましたので、当主交代の時期になりましたらお前をこの家から除籍します。以降は平民としてお過ごしなさい」

「は…………?」

 母の言葉を即座に理解できずレオナルドは唖然と硬直した。しかし夫人はその反応を一瞥することもなく、冷ややかに言葉を続ける。

「住む場所と働く場所は用意してあげるから安心なさい。それと、もう結婚相手をこちらで決めることはしません。好きな相手を妻に迎えるといいわ。よかったわね? 望まない政略結婚をしなくて済んで……」

 蔑んだ母の目に、そこでようやく我に返ったレオナルドは慌てた様子で詰め寄る。

「お、お待ちください、母上! 婚約解消とはどういうことですか!? それに……何故、私が除籍されて平民とならねばならないのです……!」

「あなた、それ本気で言っているの? だったら凄いわね……」
 
 息子の反応に至極呆れた様子を見せる夫人に、レオナルドは困惑しながら尚も詰め寄る。

「納得できません! どうして婚約を解消せねばならないのです!? クロエは私を愛していたはず……。なのに、こんなのおかしい!」

「……婚約中に不貞を犯していると知っても愛が冷めないとでも?」

「えっ……? な、なぜ、それを母上が知って……」

 母がすでにシェリーの存在を知っていたとは思いもせず、レオナルドはあからさまに動揺した。そんな息子に夫人は呆れたようにため息をつく。

「ここ最近のあなたの様子の変化におかしいと思わないわけがないでしょう? ただの町娘に随分と傾倒しているようね? それで、婚約者を蔑ろにして下賤な娘を寵愛する男を愛し続ける稀有な女性なんて、どれくらいいると思う? 少なくともクロエ様は“そう”ではなかったということよ。ゲテモノ趣味は父親譲りかしら……なんて情けない」
 
 シェリーのことを愚弄されたことよりも、ゲテモノ趣味と言われたことよりも、クロエが自分を愛していないという事実を突きつけられたことが一番堪えた。何があっても、何をしても、クロエは自分を好きでいてくれるはず――そんな根拠のない自信に満ちていたレオナルドはそれが理由で婚約を解消されたと知っても、とうてい現実を受け入れられなかった。

「そんな……貴族なら愛人の一人や二人いてもおかしくないではありませんか! そのくらいで婚約解消するなんて納得できません!」

「……あなたの立場でそれが許されるはずがないと、何故分からないの? こちらはお願いして婿入りさせてもらう立場なのよ? 丁重に扱わねばならないのに、そこまで蔑ろにして何故見放されないと思ったの? クロエ様は別にあなたでなくともいいのだと、何故分からないの?」

 それを言われた途端、頭を殴られたような衝撃がレオナルドに走る。よくよく考えれば分かることだった。いや、レオナルド自身も婚約当初はよく分かっていたことだった。それなのに何故か今の今までそれを自覚していなかったのだ。

「あ…………」

 不意に、頭を覆っていた靄が晴れたような不思議な感覚に襲われた。視界が開け、現実がはっきり見えた気がした瞬間、レオナルドの胸に湧き上がったのは激しい後悔だった。

あなたにおすすめの小説

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。

和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。 「次期当主はエリザベスにしようと思う」 父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。 リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。 「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」 破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?  婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。

旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?

白雲八鈴
恋愛
 我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。  離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?  あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。  私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?

私は善意に殺された・完結

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。