物語の幕は上がらない(本編完結 番外編更新中)

わらびもち

文字の大きさ
83 / 99

望まない手紙

 封蝋を割った瞬間、かすかなため息が零れた。
 真っ白な紙の上に並ぶ見慣れた文字。かつてはこの文字に胸を高鳴らせた日もあった。しかし、今では驚くほど何も感じない。
 午後の光がカーテン越しに差し込み、手紙の上に淡い影を落とす中、クロエはゆっくりと文面を追った。
 謝罪。後悔。自らの浅はかさ。そして――惨めな日々を送る現状と、こちらに助けを求めるような言葉の数々。
 読み進めてもクロエの表情は動かなかった。眉ひとつ寄せることなく、ただ呆れたように目を細める。

「今更、反省されてもね……」

 唇に浮かんだのは嘲りではなく、冷めきった諦観だった。
 手紙の送り主はかつての婚約者、レオナルド。平民の女シェリーに傾倒し、クロエの殺害計画を企て、カレンデュラ家を乗っ取ろうと企んだとんでもない男である。未遂で済んだこともあり、事を荒立ててリンデン家に累が及ぶのは本意ではなかった。ゆえに婚約の解消のみに留め、彼の処遇はリンデン家に委ねた。彼の家は問題を起こした息子を王都の屋敷から追い出し、領地に軟禁したらしい。そして当主交代の際には家から除籍し、平民に降ることが決まっているとのこと。甘い処置にも見えるが、華やかな社交界を好んでいた彼にとっては辛いことだろう。これからの人生で、己の過ちを悔いながら生きてほしい。

 クロエは読み終えた手紙を、ためらいもなく屑籠へと放り込んだ。返事など書くつもりはない。
 
(もう他人なのだから手紙はいらないと伝えているのに……まったく、ご当主は随分と息子に甘いようね)

 この手紙は領地にいるリンデン公爵より送られてくる。使われている封蝋は当主のものだ。息子可愛さか、それとも過去の自分と息子を重ねて憐れんでいるのか。いずれにしても今まで関わってこなかった当主が、今更ながら息子のために動いているのを見ると皮肉に思えてならない。

 こうして反省の手紙を送らせるあたり、リンデン公爵はひょっとすると息子と復縁させたいのかもしれない。
 そうでなければ元婚約者に手紙を、それも何通も送るなどという恥知らずな真似はしないはずだ。
 本当に迷惑なので、「もう送らないでほしい」と何度もやんわり伝えているのに、まったく分かってもらえていない。いや、分かったうえでわざとしているのかもしれない。

「……一度お会いして、はっきりと伝えた方がよさそうね」

 そうしてクロエは紙とペンを机の上に置き、リンデン公爵宛てに書状をしたためた。

あなたにおすすめの小説

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。

和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。 「次期当主はエリザベスにしようと思う」 父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。 リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。 「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」 破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?  婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

さようなら、わたくしの騎士様

夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。 その時を待っていたのだ。 クリスは知っていた。 騎士ローウェルは裏切ると。 だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。