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望まない手紙
封蝋を割った瞬間、かすかなため息が零れた。
真っ白な紙の上に並ぶ見慣れた文字。かつてはこの文字に胸を高鳴らせた日もあった。しかし、今では驚くほど何も感じない。
午後の光がカーテン越しに差し込み、手紙の上に淡い影を落とす中、クロエはゆっくりと文面を追った。
謝罪。後悔。自らの浅はかさ。そして――惨めな日々を送る現状と、こちらに助けを求めるような言葉の数々。
読み進めてもクロエの表情は動かなかった。眉ひとつ寄せることなく、ただ呆れたように目を細める。
「今更、反省されてもね……」
唇に浮かんだのは嘲りではなく、冷めきった諦観だった。
手紙の送り主はかつての婚約者、レオナルド。平民の女シェリーに傾倒し、クロエの殺害計画を企て、カレンデュラ家を乗っ取ろうと企んだとんでもない男である。未遂で済んだこともあり、事を荒立ててリンデン家に累が及ぶのは本意ではなかった。ゆえに婚約の解消のみに留め、彼の処遇はリンデン家に委ねた。彼の家は問題を起こした息子を王都の屋敷から追い出し、領地に軟禁したらしい。そして当主交代の際には家から除籍し、平民に降ることが決まっているとのこと。甘い処置にも見えるが、華やかな社交界を好んでいた彼にとっては辛いことだろう。これからの人生で、己の過ちを悔いながら生きてほしい。
クロエは読み終えた手紙を、ためらいもなく屑籠へと放り込んだ。返事など書くつもりはない。
(もう他人なのだから手紙はいらないと伝えているのに……まったく、ご当主は随分と息子に甘いようね)
この手紙は領地にいるリンデン公爵より送られてくる。使われている封蝋は当主のものだ。息子可愛さか、それとも過去の自分と息子を重ねて憐れんでいるのか。いずれにしても今まで関わってこなかった当主が、今更ながら息子のために動いているのを見ると皮肉に思えてならない。
こうして反省の手紙を送らせるあたり、リンデン公爵はひょっとすると息子と復縁させたいのかもしれない。
そうでなければ元婚約者に手紙を、それも何通も送るなどという恥知らずな真似はしないはずだ。
本当に迷惑なので、「もう送らないでほしい」と何度もやんわり伝えているのに、まったく分かってもらえていない。いや、分かったうえでわざとしているのかもしれない。
「……一度お会いして、はっきりと伝えた方がよさそうね」
そうしてクロエは紙とペンを机の上に置き、リンデン公爵宛てに書状をしたためた。
真っ白な紙の上に並ぶ見慣れた文字。かつてはこの文字に胸を高鳴らせた日もあった。しかし、今では驚くほど何も感じない。
午後の光がカーテン越しに差し込み、手紙の上に淡い影を落とす中、クロエはゆっくりと文面を追った。
謝罪。後悔。自らの浅はかさ。そして――惨めな日々を送る現状と、こちらに助けを求めるような言葉の数々。
読み進めてもクロエの表情は動かなかった。眉ひとつ寄せることなく、ただ呆れたように目を細める。
「今更、反省されてもね……」
唇に浮かんだのは嘲りではなく、冷めきった諦観だった。
手紙の送り主はかつての婚約者、レオナルド。平民の女シェリーに傾倒し、クロエの殺害計画を企て、カレンデュラ家を乗っ取ろうと企んだとんでもない男である。未遂で済んだこともあり、事を荒立ててリンデン家に累が及ぶのは本意ではなかった。ゆえに婚約の解消のみに留め、彼の処遇はリンデン家に委ねた。彼の家は問題を起こした息子を王都の屋敷から追い出し、領地に軟禁したらしい。そして当主交代の際には家から除籍し、平民に降ることが決まっているとのこと。甘い処置にも見えるが、華やかな社交界を好んでいた彼にとっては辛いことだろう。これからの人生で、己の過ちを悔いながら生きてほしい。
クロエは読み終えた手紙を、ためらいもなく屑籠へと放り込んだ。返事など書くつもりはない。
(もう他人なのだから手紙はいらないと伝えているのに……まったく、ご当主は随分と息子に甘いようね)
この手紙は領地にいるリンデン公爵より送られてくる。使われている封蝋は当主のものだ。息子可愛さか、それとも過去の自分と息子を重ねて憐れんでいるのか。いずれにしても今まで関わってこなかった当主が、今更ながら息子のために動いているのを見ると皮肉に思えてならない。
こうして反省の手紙を送らせるあたり、リンデン公爵はひょっとすると息子と復縁させたいのかもしれない。
そうでなければ元婚約者に手紙を、それも何通も送るなどという恥知らずな真似はしないはずだ。
本当に迷惑なので、「もう送らないでほしい」と何度もやんわり伝えているのに、まったく分かってもらえていない。いや、分かったうえでわざとしているのかもしれない。
「……一度お会いして、はっきりと伝えた方がよさそうね」
そうしてクロエは紙とペンを机の上に置き、リンデン公爵宛てに書状をしたためた。
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