どうして許されると思ったの?

わらびもち

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大使からの手紙

「それでも、彼女が自ら墓穴を掘って下さった時期と、大使様の訪問の時期が被るとは思いませんでしたわ。夫人には普通に罪を問うつもりでしたのに、あんな見え透いた罠を張り、自らわたくしに断罪される機会を作ってくださるとは……」

 なんて気が利く方なのでしょうか、と言ってシスティーナは花が咲き誇るような笑みを浮かべた。

「レイモンド様の前妻の人生を弄び、幼馴染の令嬢方を悪の道へと唆し、長きに渡ってフレン家に害を及ぼし続けた悪女の幕引きとしては些か温いかもしれませんが……」

 そう言って、お茶をひと口飲み、ふっと息をついた。

「長年執着し続けたレイモンド様にはもう二度と会えないという事実。そして、好きでもない男と閨を共にし続けない事実は彼女にとって耐えがたき苦痛でありましょう。大使様は、夫であったミスティ子爵のように大切にはしてくださらないでしょうから」

 報復とはいえ、残酷なことに手を染めながらも、罪悪感ひとつ見せずに平然としている。
 まさに人の上に立つ者の器――サリバンはそう感嘆せずにはいられなかった。

「……時間がかかったけど、これでやっとフレン家を蝕んでいたの除去が済みましたわ」

「時間がかかったなどとはとんでもない。これだけの短期間で、ここまで邸内を出来るのは奥様くらいです。ほんとうに……貴女様は素晴らしき淑女でございますわ」

 サリバンの誉め言葉にシスティーナは思わず綻んだ。
 その表情は、年頃の少女そのもののようにあどけなく可愛らしいものであった。


 それからしばらくして、システィーナのもとに王家からの報せが届いた。
 報せには二つのことが記されていた。一つは、帝国との条約が無事に締結されたこと。もう一つは、元ミスティ子爵夫人エルザが、大使の新たな妻となるという話だった。

(妾ではなく、妻……。大使様はよほど彼女を気に入ったのかしら?)

 大使が気に入った女性を妻にするという話は、システィーナも当然知っていた。
 だが、実際に妻に迎えられた女性というのは少なく、たいていは妾として引き取られていくらしい。

「それと、大使様から、フレン伯爵夫人へのお手紙をお預かりしております」

「わたくしに?」

 王家の使者は片膝をつき、深々と頭を垂れる。その手には、封蝋の押された細長い手紙。
 彼はそれを恭しくシスティーナの前へと差し出した。

「何卒よろしくお伝え申し上げるよう、仰せつかっております」

「そう……分かりました」

 手紙を手渡した使者は、再び深々と頭を下げ、静かに邸を後にした。

(どうして、大使様が……皇帝陛下の弟君がわたくしに手紙を?)

 システィーナの白魚のような指先にふと力が入る。
 彼女の顔にはいつにない険しさが潜んでいた。

 手紙の蝋を割る音が室内に響く。彼女は視線を手紙の文面へと落とし、眉間にごくかすかな皺を寄せる。
 そのわずかな表情の変化すら、周囲の侍女たちは気づいていない――だが、彼女の心には波紋が広がっていた。

 やがて、彼女は手紙を折りたたみ、静かに立ち上がった。

「部屋を整えなさい。すぐに来客があるでしょう」

 それだけを告げると、システィーナは背筋を伸ばし、再び窓の外へ視線を投げた。

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