どうして許されると思ったの?

わらびもち

文字の大きさ
132 / 136

悪女に手を出した時点で終わっている

 あの日、システィーナを罠に嵌めようとして逆に捕らえられてしまったエルザは、夫から離縁を言い渡された挙句、見知らぬ男の閨へと連れてかれ、あれよという間にその男によって異国の地まで連れ去られてしまった。
 誰もエルザにそうなった経緯について説明しないから、彼女は今になっても何故自分がこのような目に遭っているのか分かっていなかった。ただ、システィーナが全て企んだと、あいつはとんでもない悪女だと内心毒づいていた。

 そんなエルザに現実を教えたのは、彼女を連れ去った男──帝国皇帝の弟だった。
 家に帰して、と騒ぐエルザに自分の置かれている立場を突きつけたのだ。

『はて……其方はベロア家の娘を怒らせ、その罪で国を追放されたと聞いておる。あの国に其方の居場所などないのではないか?』

『は? どうして、あの女をちょっと怒らせたくらいで、そんな大袈裟なことを言うの?』

『大袈裟……? 其方こそ何を言っておる。ベロアについては俺もよく知っているが、あれほど冷酷で狡猾な男は他に見たことがない。我が兄、皇帝よりも恐ろしい男だよ、あれは。娘はそんな父親にそっくりだと聞く。それを怒らせて、あの国で生きていられると思うのか?』

『え…………?』

『其方は貴族家の夫人だったと聞く。それなりの身分を持つ女すら貢ぎ物にできるくらい、ベロアの娘は力を持っているというわけだ。それを怒らせて、只で済むと思う方がおかしいぞ。』

 なぜだろう。いろんな人に何度も言われてきたのに、このとき、彼に言われて初めてそれを理解した。
 こんな状況下に陥ったせいというのもある。

 システィーナあの女はとんでもない悪女、というのは悪口だけに留まらない。それは真実だった。
 とんでもない悪女に手を出したから、自分はこんな目に遭っているのだと。
 この時、心の底からそれを理解した。

 しかし、理解したところでもう遅い。

『諦めろ、助けなんて来ない。誰も来るわけがない。ベロアを怒らせた者となど誰も関わりたくないからな』

 その瞬間、全身の血が凍るような感覚に襲われた。

 それでも家に帰ることを諦めきれないエルザは何度か脱走を試みた。
 しかしながら、そんなことが出来るほど皇族の住まう宮殿の警備が甘いはずもない。
 警備兵に幾度なく阻まれ、部屋へと連れ戻される。

 皇弟はそんなエルザを叱ることはしない。脱走したことについて触れることもない。
 どうでもいいのだ。エルザが帰りたいと思っていようと、いまいと。
 だって彼女はただの”貢ぎ物”だから。所有物を配慮するという発想すらない。

 エルザは皇弟への貢ぎ物から妾となった。妃ではないので、公務は一切ない。
 彼女の仕事は皇弟の夜の相手を務める、それだけだ。六番目の妻なので、周囲はエルザのことを『第六夫人様』と呼ぶ。彼女を名前で呼んでくれるのは、ここでは皇弟と、他数人だけ。

 他数人というのは、彼女と共にここへ連れてこられた従姉のパメラと、あの館で彼女と戯れていたあの男。
 二人共システィーナに暴挙を働こうとした罪でエルザ付きの従者としてここに連れてこられた。
 従者といっても宮殿の使用人は事足りているので、二人は下女と下男としてここにいる。
 男の方はこんな場所に連れてこられた怒りを最初の方はエルザへとぶつけていたが、しばらくすると姿を見なくなった。見目は良いので、地位の高い女官の愛人となったとか、妃の愛人になったとかの噂は聞く。

 一方、パメラの方は下女として宮殿の雑用を押し付けられているらしい。
 本来ならば寵姫たるエルザの前に顔を出すことは許されない身分だが、時折女官として紛れ込み、エルザへ危害を加えようとする。その度に折檻をされるのだが、懲りずに何度も繰り返す。

 もう、パメラにはエルザに怒りをぶつける以外にこの状況への鬱憤を晴らす方法はないのだろう。
 あの時、エルザが余計な助言さえしなければ……レイモンドの妻は無理でも同格の家に嫁ぐことは可能だったかもしれない。

 そうすれば今頃は貴族家の夫人として優雅な生活を送っていたかもしれない。
 今、自分がこんな目に遭っているのはエルザのせいだ――そう思うたびに、恨みと憎しみが募っていく。

 この宮殿の者達はパメラが女官に混じってエルザに近づくのを完全には防いでくれない。
 それについてもエルザは文句を言ったのだが、困ったような顔で流されてしまう。
 丁寧に対応していても、内心ではどこの馬の骨とも分からない女に仕えるのが面白くないのだろう。
 だからこうして鬱憤を晴らしているのだ。

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。

和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。 「次期当主はエリザベスにしようと思う」 父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。 リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。 「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」 破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?  婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。