だから言ったでしょう?

わらびもち

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毒を盛られたライアス

「ライアス隊長に食事に誘われちゃった~! 何着てこっかな~?」

 アニーはその日もライアスに差し入れを届けたが、珍しく彼からお礼に食事の誘いがあったのだ。

 意中の相手とのデート。アニーは目一杯お洒落して行こうとウキウキしていた。

 弾む気持ちのまま仕事にとりかかろうとしたその時、急に廊下が騒がしくなった。

「ここに、アニーという女性はいるか?」

 憲兵の制服を着た厳つい男が数人、事務室の扉を開けて中に入ってきた。
 彼等はアニーを見るなり周囲を囲み、腕を掴む。

「君がアニーだな? ライアス卿への毒殺容疑で身柄を確保させてもらう!」

「は? 毒殺!? ライアス隊長を? えっ、どういうこと!?」

「先ほどライアス卿が部屋で血を吐き倒れた。調べたところ直前まで食していた菓子より毒物が検出された。その菓子は君が彼に渡したものだな?」

「へっ……? な、なんで毒……!? アタシ毒なんて知らない! 何それ! どういうこと!?」

「詳しくは署で聞こうか。おい、連行しろ」

 憲兵の中でも一番年配の男が指示を出すと、その部下と思しき男がアニーに手錠をはめる。そしてなすすべもなくそのまま連行されていった。


 
 ライアスがアニーに毒を盛られた事件はその日のうちに東方師団中に知れ渡った。

「聞いた? ライアス隊長と事務方の若い子が#_不倫の末の毒殺事件_・__#!」

「聞いた! というか、師団中その話でもちきりよ! あれでしょう? あの茶髪の女の子! 人前でもかまわず隊長に差し入れ渡してたよね? 将軍の娘婿に手出ししようとか正気じゃないわ~」

「正気じゃないからこんな事件起こしたんでしょう? 隊長がなんて狂ってるわよね~」

 普段よりライアスと親し気な様子を見せ、個人的な差し入れまでしていたアニーを信じる者は誰もいない。

 それどころか二人は不倫関係にあり、今回の事件は痴情のもつれの末に起こったと噂になっていた。

「隊長はあんな綺麗な奥さんがいるのに、なんであんな地味な子と不倫しちゃったのかな?」

「さあ? そういうのが好みだったんじゃないの?」

「ふーん? 別に可愛くもなかったけどね?」

「貴族より平民の方が付き合ってて楽だったんじゃない? ほら、隊長って元平民だし。奥さんと結婚して貴族になったらしいじゃない?」

 ライアスは元は平民の一般兵でしかなかった。
 
 たまたまその強さを師団長に見初められ、将軍に娘婿として薦められたおかげで貴族となり隊長にまで登りつめた。東方師団でも異例の大出世である。

「その不倫相手の女の子って憲兵に連れてかれたんでしょう? これからどうなっちゃうのかしらね?」

「そんなの処刑に決まってるでしょう? 平民が貴族を毒殺しようとしたんだもの、処刑は免れないわよ! それに連座もあるかもね?」

「連座? 何それ?」

「知らないの? 平民がお貴族様を手にかけたとなれば一族処刑なんだよ!」

「一族処刑!? え? 一族って、両親とか兄弟とか!?」

「親戚も含むんじゃない? どこまでかは定かじゃないけど」

「うわっ、エグい~! じゃあその子の一族は皆処刑なの? うわぁ、馬鹿な娘のせいで可哀想~!」

 前代未聞の事件は、アニーを知らない団員達までもが好き勝手に噂するほど広まっていた。
 
 そして彼女達の会話は一見残酷なようで的を射たものである。
 それくらい二人の関係は悲しい結果を招くものだということを、知らないのはライアスとアニーだけであった。

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