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怪しい招待状
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深夜の書斎は静寂と燭火の揺らぎに包まれていた。
重厚な机の上には整然と並んだ羊皮紙と帳簿。豪華な椅子に身を預け、セシリアは一心不乱にペンを走らせていた。
窓の外には月が雲間からのぞき、邸の庭に淡い銀の光を落としている。
セシリアの目元には疲れの色も見えるが手の動きは迷いなく、正確だった。
ふと、手を休めたその時に控えめなノック音が響く。
「……入りなさい」
扉が静かに開き、ガーネット邸の執事が現れた。彼の手には銀の盆に乗せられた封蝋付きの封書がある。
それを見たセシリアは眉をわずかにしかめた。
「…………それは、何?」
セシリアの鋭い声に執事はわずかに肩を震わせたが、ためらいながらも口を開いた。
「はい……王家から夜会の招待状が届きました。つい先ほど、使者が当家へこの招待状を……」
銀盆に載せられた封書が燭台の明かりにかすかに輝く。
セシリアは羽根ペンを置き、短くため息をついた。
「こんな時間に、しかも急ぎで届くなんて……嫌な予感しかしないわね」
夜会の招待状がこんな夜更けに届き、しかも急ぎの使者が来るなんてまずありえないことだ。
それほど急いで招待客を集めないといけない夜会なんて、何かがありますと言っているようなもの。
「はい、わたくしめもそう思います……。こんな夜更けに夜会の招待状を送ってくるなど信じられません。されど、王家からの招待を無下にするは……」
「ええ。王家を相手に行かないという選択肢はないもの……」
セシリアの目には疲れとも倦怠ともつかぬ影が宿っていた。
この忙しい時に、何が待ち構えているか分からないという到底楽しめそうにもない夜会に参加しなければならないなんて……。
「……貴方はもう下がっていいわ。その封書はそこに置いてちょうだい」
「かしこまりました、奥様」
執事が静かに退室すると、扉の閉まる音が再び静寂を部屋に戻す。
窓の向こう、雲の合間に覗く月が変わらず煌々と室内を照らしている。
セシリアは銀の盆に置かれた封書を手に取り、しげしげと見つめた。
厚手の羊皮紙には重厚な赤い封蝋が施されている。蝋は丁寧に溶かされ、楕円形の印章が深く押し込まれていた。
彼女の指先が封蝋に触れた時、わずかな緊張が走った。
「この印は───」
王冠の下に、二輪の薔薇。そして、盾を抱く双頭の鷲。
セシリアの瞳がかすかに揺れる。
「まさか……」と、唇が声にならない囁きを形作る。
それは国王の妻、王妃だけが用いる紋章。王国の中でも限られた者にしか届かぬ尊き印。
セシリアは封を切らぬまま手元でその封書を見つめ続け、しばらくすると静かに息を吸い込み心を落ち着けると、ペーパーナイフを手に取った。
封蝋の端に刃を差し込み、慎重に滑らせる。封が割れた瞬間、わずかに香が立ちのぼった。
白檀に似た、淡く気品のある香り。それだけで、手紙が宮中の奥深く、王妃の私室から発せられたことを物語っていた。
羊皮紙を開く指がかすかに震える。そこには美しい筆致で夜会への誘いが綴られていたが、その行間には抗えぬ意志のようなものが滲んでいた。
「場所は王宮、そして日時は……は? 明後日ですって……!?」
思わず苛立ちを含んだ声が漏れた。手紙を持つ指がぴんと張り詰め、羊皮紙がかすかに震える。
「無礼にもほどがあるわ。準備も整えられないほどの急な招待を――」
先程も感じたように、王妃の筆致は優美そのものだがその背後に容赦なき権威が見え隠れしている。
明後日。たったそれだけの猶予しかない。衣装の仕立て直しは間に合わない。従者の手配も、贈り物の選定も、そもそも自分が夜会に呼ばれる理由すら見当がつかない。
「新しい衣装を仕立てる時間も無い程の日数で誘うなんてどうかしているわ……!」
唇を噛みしめながら、セシリアは手紙をそっと机に置いた。王妃の意図は何なのか。
どうして、これほどまでに急を要する誘いを寄こしてきたのか――
「……まさか。」
セシリアの瞳が何かに気づいたように細められる。
まさかと思うが、王妃の狙いは……
「……ッ!! 王妃様ほどの御方からの直々の招待、断るなんていう選択肢は用意されていないわ。たとえ準備が整わなくとも、王家の方を相手に失礼があってはいけない」
セシリアの手の中で封書が静かにくしゃりと音を立てて潰れた。
指先に込められた力がそのまま彼女の心を映しているかのように……。
重厚な机の上には整然と並んだ羊皮紙と帳簿。豪華な椅子に身を預け、セシリアは一心不乱にペンを走らせていた。
窓の外には月が雲間からのぞき、邸の庭に淡い銀の光を落としている。
セシリアの目元には疲れの色も見えるが手の動きは迷いなく、正確だった。
ふと、手を休めたその時に控えめなノック音が響く。
「……入りなさい」
扉が静かに開き、ガーネット邸の執事が現れた。彼の手には銀の盆に乗せられた封蝋付きの封書がある。
それを見たセシリアは眉をわずかにしかめた。
「…………それは、何?」
セシリアの鋭い声に執事はわずかに肩を震わせたが、ためらいながらも口を開いた。
「はい……王家から夜会の招待状が届きました。つい先ほど、使者が当家へこの招待状を……」
銀盆に載せられた封書が燭台の明かりにかすかに輝く。
セシリアは羽根ペンを置き、短くため息をついた。
「こんな時間に、しかも急ぎで届くなんて……嫌な予感しかしないわね」
夜会の招待状がこんな夜更けに届き、しかも急ぎの使者が来るなんてまずありえないことだ。
それほど急いで招待客を集めないといけない夜会なんて、何かがありますと言っているようなもの。
「はい、わたくしめもそう思います……。こんな夜更けに夜会の招待状を送ってくるなど信じられません。されど、王家からの招待を無下にするは……」
「ええ。王家を相手に行かないという選択肢はないもの……」
セシリアの目には疲れとも倦怠ともつかぬ影が宿っていた。
この忙しい時に、何が待ち構えているか分からないという到底楽しめそうにもない夜会に参加しなければならないなんて……。
「……貴方はもう下がっていいわ。その封書はそこに置いてちょうだい」
「かしこまりました、奥様」
執事が静かに退室すると、扉の閉まる音が再び静寂を部屋に戻す。
窓の向こう、雲の合間に覗く月が変わらず煌々と室内を照らしている。
セシリアは銀の盆に置かれた封書を手に取り、しげしげと見つめた。
厚手の羊皮紙には重厚な赤い封蝋が施されている。蝋は丁寧に溶かされ、楕円形の印章が深く押し込まれていた。
彼女の指先が封蝋に触れた時、わずかな緊張が走った。
「この印は───」
王冠の下に、二輪の薔薇。そして、盾を抱く双頭の鷲。
セシリアの瞳がかすかに揺れる。
「まさか……」と、唇が声にならない囁きを形作る。
それは国王の妻、王妃だけが用いる紋章。王国の中でも限られた者にしか届かぬ尊き印。
セシリアは封を切らぬまま手元でその封書を見つめ続け、しばらくすると静かに息を吸い込み心を落ち着けると、ペーパーナイフを手に取った。
封蝋の端に刃を差し込み、慎重に滑らせる。封が割れた瞬間、わずかに香が立ちのぼった。
白檀に似た、淡く気品のある香り。それだけで、手紙が宮中の奥深く、王妃の私室から発せられたことを物語っていた。
羊皮紙を開く指がかすかに震える。そこには美しい筆致で夜会への誘いが綴られていたが、その行間には抗えぬ意志のようなものが滲んでいた。
「場所は王宮、そして日時は……は? 明後日ですって……!?」
思わず苛立ちを含んだ声が漏れた。手紙を持つ指がぴんと張り詰め、羊皮紙がかすかに震える。
「無礼にもほどがあるわ。準備も整えられないほどの急な招待を――」
先程も感じたように、王妃の筆致は優美そのものだがその背後に容赦なき権威が見え隠れしている。
明後日。たったそれだけの猶予しかない。衣装の仕立て直しは間に合わない。従者の手配も、贈り物の選定も、そもそも自分が夜会に呼ばれる理由すら見当がつかない。
「新しい衣装を仕立てる時間も無い程の日数で誘うなんてどうかしているわ……!」
唇を噛みしめながら、セシリアは手紙をそっと机に置いた。王妃の意図は何なのか。
どうして、これほどまでに急を要する誘いを寄こしてきたのか――
「……まさか。」
セシリアの瞳が何かに気づいたように細められる。
まさかと思うが、王妃の狙いは……
「……ッ!! 王妃様ほどの御方からの直々の招待、断るなんていう選択肢は用意されていないわ。たとえ準備が整わなくとも、王家の方を相手に失礼があってはいけない」
セシリアの手の中で封書が静かにくしゃりと音を立てて潰れた。
指先に込められた力がそのまま彼女の心を映しているかのように……。
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