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義母からの申し出(キアラ視点)
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「ごめんなさいね、キアラさん。馬鹿息子が貴方に迷惑ばかりかけて……」
「いいえ、お義母様が謝る必要はございません。領地の仕事をするのは性に合っておりますし、デイビット様に愛されることは全く期待していないので」
義母はあの夫の母親とは思えない程良識ある方だ。
見下してもいい平民の嫁にこうやって頭を下げてくれるほどに。
「でも、それでは子が成せないでしょう? 貴族家の嫁という立場は跡継ぎを産まないと肩身が狭いものです。わたくしも中々子を授からなくて社交界では散々嫌味を言われました。貴族家出身のわたくしですらそうなのです。貴女はもっと言われているのではなくて?」
義母の言う通り、社交界で貴族達は子を成せていない私を好き勝手に馬鹿にしてくる。
それもだいぶネチネチとしつこい。あしらうことは出来るがそろそろ疲れてきた。
「ええ、中々厳しいお言葉を頂戴しておりますわ。ですが旦那様は私との共寝は拒否されますし、この先も受け入れてはくれないでしょう……。困りましたわね……」
嫁ぐ前から夫の性格や言動に問題があることは把握していた。
一人の女性をしつこく追い回していることも。
でも貴族たるもの責務は果たしてくれるだろう、と軽く考えてしまった。
愛情深く抱かれることはなくとも子作りには協力してくれるだろう、とも。
いざ嫁いでみたらその希望が簡単に打ち砕かれ、唖然としたのは今も忘れない。
既婚者になってからも変わらず一人の女性に付き纏い、何故かその女性と子作りをするなどと妄言を吐く夫。
こんな非常識な男の妻になってしまったと絶望した。
当然のように初夜を拒否され、いまだ白い結婚のままだ。
「それなんだけど……ねえ、キアラさん、先ほどわたくしがデイビットに言った言葉は覚えているかしら?」
「え? どの言葉でしょうか?」
「世継ぎは妻の胎から産まれるもの、という言葉よ。そう、ブルーギル伯爵夫人である貴女の産んだ子が跡継ぎになるの。そして跡継ぎというのは、その家の血を引いていればそれで構わないのよ」
「…………お義母様、それはどういう意味でしょう?」
「いつまでも子作りから逃げるような情けない男の子種にこだわる必要はない、という意味よ。ブルーギル伯爵家の血を引く男は他にもいるのだから」
義母の放った衝撃発言に私は唖然としてしまった。
つまりは夫以外の男性から子種を貰って孕め、と。
おそらくそれはブルーギル伯爵家の分家の男性のことを指しているのだろう。
確かにそれであればブルーギル伯爵家の血を引く子は出来る。
だけどそれは夫の子ではない。不義の子だ。
まさか姑から不貞を促されるとは、と私は言葉に詰まってしまった。
「貴女がデイビットを愛していて、操を立てているというのなら無理強いはしないわよ」
「いえ、私はデイビット様にそのような感情は持っておりません。ですが……それは不貞ですよね? 愛していないといえど、流石に夫以外の子を宿すわけには……」
「でもこのままでは貴女はずっと子を産めないままよ。デイビットは頑固だからいくら説得しても無理だと思うの。それに子がいないという理由で貴女は離縁される可能性だってある。理不尽にもね」
義母の言うことはもっともだ。
あの意固地で人の話を聞かない夫相手ではいつまで経っても閨を共になんて出来やしないだろう。
そして理不尽にも3年子が産まれない場合は離縁される可能性だってある。
私の生家は貴族との繋がり欲しさに私をここへ嫁がせた。
実際そのおかげで貴族相手の商売の幅が広がり、新たな店舗も増えている。
しかしそれも私が離縁されてしまえばどうなるか。
考えただけでゾッとする。
「ですが、夫以外の子を孕んだと知られれば私はどうなるか……」
この国では不貞は罪ではないので罰は下らない。
だが世間の目はそうはいかないだろう。夫以外の子を孕んだふしだらな女だと嘲笑され、軽蔑されてしまうのは困る。生家にも迷惑をかけてしまう。
「安心して。決して外には漏れないようにするわ。ブルーギル伯爵家当主の座は息子にあるといっても、まだまだ実権を握っているのはわたくしよ。それくらい何てことないわ」
確かにこの家で実権を握っているのは義母だ。
当主である夫は何もしないし、私も領地経営をしているとはいえまだまだ義母に教わる部分は多い。
義母がその気になれば内密に事を進めることくらい簡単だろう。
だけど、こんなとんでもない話を信じていいものか。もし私を騙そうとしているなら受けるべきではない。
「お義母様は、自分の息子の子供に跡を継いで欲しいとは思わないのですか……?」
一般的な親であれば、我が子に跡を継いで欲しいものだろう。
義母の言う方法で子を産んだとして、その子はブルーギル伯爵家の血を引いていても義母の血は引いていない。
そんな赤の他人とも言える子を跡取りにして義母に何の得があるのだろう?
「キアラさん、わたくしの望みはこのブルーギル伯爵家を繁栄させることよ。亡くなった夫が大切に守ってきたこの家を、わたくしはどうしても守りたいの。それが叶うのであれば、跡継ぎが息子の子でないことなどどうでもいいわ。亡き夫と同じブルーギル伯爵家の血を引いている子であればそれでいいのよ」
亡くなった夫を語る義母はまるで恋する乙女のようだった。
ああ、この人は今でも先代伯爵を愛しているのか。
先代伯爵が守ったこの家を守るため、役に立たない息子を切り捨てるほどに―――。
そうであるならば私も……。
「分かりましたお義母様……。その申し出、有難くお受けします。私は必ずブルーギル伯爵家の血を引く子を産んでみせますわ」
己の地位を盤石なものにし、生家の繁栄を成し遂げたい私。
ブルーギル伯爵家を存続し、繫栄させたい義母。
互いの望む方向はきっと同じ。
ならばその悪魔のような申し出を受けてもなんら心配はない。
義母が望む、ブルーギル伯爵家を最も盛り立てられるであろう私を手放すはずがないのだから。
「流石だわキアラさん。その覚悟、ブルーギル伯爵家の夫人として相応しいわ」
眩いまでの笑顔を向ける義母は、今までで一番美しかった。
亡き夫の愛した家を守るため手段を選ばぬその姿勢を尊敬する。
私も手段を選んでいられない。妻に向き合うこともせず、ただひたすら一人の令嬢を追いかけている夫に何かを期待するのは間違っている。
私の胎から産まれる子がこのブルーギル伯爵家の跡継ぎとなるのだ。
そこに夫は関係ない。潤沢な資産を持つ商会の娘である私こそが、この家には必要なのだから。
「いいえ、お義母様が謝る必要はございません。領地の仕事をするのは性に合っておりますし、デイビット様に愛されることは全く期待していないので」
義母はあの夫の母親とは思えない程良識ある方だ。
見下してもいい平民の嫁にこうやって頭を下げてくれるほどに。
「でも、それでは子が成せないでしょう? 貴族家の嫁という立場は跡継ぎを産まないと肩身が狭いものです。わたくしも中々子を授からなくて社交界では散々嫌味を言われました。貴族家出身のわたくしですらそうなのです。貴女はもっと言われているのではなくて?」
義母の言う通り、社交界で貴族達は子を成せていない私を好き勝手に馬鹿にしてくる。
それもだいぶネチネチとしつこい。あしらうことは出来るがそろそろ疲れてきた。
「ええ、中々厳しいお言葉を頂戴しておりますわ。ですが旦那様は私との共寝は拒否されますし、この先も受け入れてはくれないでしょう……。困りましたわね……」
嫁ぐ前から夫の性格や言動に問題があることは把握していた。
一人の女性をしつこく追い回していることも。
でも貴族たるもの責務は果たしてくれるだろう、と軽く考えてしまった。
愛情深く抱かれることはなくとも子作りには協力してくれるだろう、とも。
いざ嫁いでみたらその希望が簡単に打ち砕かれ、唖然としたのは今も忘れない。
既婚者になってからも変わらず一人の女性に付き纏い、何故かその女性と子作りをするなどと妄言を吐く夫。
こんな非常識な男の妻になってしまったと絶望した。
当然のように初夜を拒否され、いまだ白い結婚のままだ。
「それなんだけど……ねえ、キアラさん、先ほどわたくしがデイビットに言った言葉は覚えているかしら?」
「え? どの言葉でしょうか?」
「世継ぎは妻の胎から産まれるもの、という言葉よ。そう、ブルーギル伯爵夫人である貴女の産んだ子が跡継ぎになるの。そして跡継ぎというのは、その家の血を引いていればそれで構わないのよ」
「…………お義母様、それはどういう意味でしょう?」
「いつまでも子作りから逃げるような情けない男の子種にこだわる必要はない、という意味よ。ブルーギル伯爵家の血を引く男は他にもいるのだから」
義母の放った衝撃発言に私は唖然としてしまった。
つまりは夫以外の男性から子種を貰って孕め、と。
おそらくそれはブルーギル伯爵家の分家の男性のことを指しているのだろう。
確かにそれであればブルーギル伯爵家の血を引く子は出来る。
だけどそれは夫の子ではない。不義の子だ。
まさか姑から不貞を促されるとは、と私は言葉に詰まってしまった。
「貴女がデイビットを愛していて、操を立てているというのなら無理強いはしないわよ」
「いえ、私はデイビット様にそのような感情は持っておりません。ですが……それは不貞ですよね? 愛していないといえど、流石に夫以外の子を宿すわけには……」
「でもこのままでは貴女はずっと子を産めないままよ。デイビットは頑固だからいくら説得しても無理だと思うの。それに子がいないという理由で貴女は離縁される可能性だってある。理不尽にもね」
義母の言うことはもっともだ。
あの意固地で人の話を聞かない夫相手ではいつまで経っても閨を共になんて出来やしないだろう。
そして理不尽にも3年子が産まれない場合は離縁される可能性だってある。
私の生家は貴族との繋がり欲しさに私をここへ嫁がせた。
実際そのおかげで貴族相手の商売の幅が広がり、新たな店舗も増えている。
しかしそれも私が離縁されてしまえばどうなるか。
考えただけでゾッとする。
「ですが、夫以外の子を孕んだと知られれば私はどうなるか……」
この国では不貞は罪ではないので罰は下らない。
だが世間の目はそうはいかないだろう。夫以外の子を孕んだふしだらな女だと嘲笑され、軽蔑されてしまうのは困る。生家にも迷惑をかけてしまう。
「安心して。決して外には漏れないようにするわ。ブルーギル伯爵家当主の座は息子にあるといっても、まだまだ実権を握っているのはわたくしよ。それくらい何てことないわ」
確かにこの家で実権を握っているのは義母だ。
当主である夫は何もしないし、私も領地経営をしているとはいえまだまだ義母に教わる部分は多い。
義母がその気になれば内密に事を進めることくらい簡単だろう。
だけど、こんなとんでもない話を信じていいものか。もし私を騙そうとしているなら受けるべきではない。
「お義母様は、自分の息子の子供に跡を継いで欲しいとは思わないのですか……?」
一般的な親であれば、我が子に跡を継いで欲しいものだろう。
義母の言う方法で子を産んだとして、その子はブルーギル伯爵家の血を引いていても義母の血は引いていない。
そんな赤の他人とも言える子を跡取りにして義母に何の得があるのだろう?
「キアラさん、わたくしの望みはこのブルーギル伯爵家を繁栄させることよ。亡くなった夫が大切に守ってきたこの家を、わたくしはどうしても守りたいの。それが叶うのであれば、跡継ぎが息子の子でないことなどどうでもいいわ。亡き夫と同じブルーギル伯爵家の血を引いている子であればそれでいいのよ」
亡くなった夫を語る義母はまるで恋する乙女のようだった。
ああ、この人は今でも先代伯爵を愛しているのか。
先代伯爵が守ったこの家を守るため、役に立たない息子を切り捨てるほどに―――。
そうであるならば私も……。
「分かりましたお義母様……。その申し出、有難くお受けします。私は必ずブルーギル伯爵家の血を引く子を産んでみせますわ」
己の地位を盤石なものにし、生家の繁栄を成し遂げたい私。
ブルーギル伯爵家を存続し、繫栄させたい義母。
互いの望む方向はきっと同じ。
ならばその悪魔のような申し出を受けてもなんら心配はない。
義母が望む、ブルーギル伯爵家を最も盛り立てられるであろう私を手放すはずがないのだから。
「流石だわキアラさん。その覚悟、ブルーギル伯爵家の夫人として相応しいわ」
眩いまでの笑顔を向ける義母は、今までで一番美しかった。
亡き夫の愛した家を守るため手段を選ばぬその姿勢を尊敬する。
私も手段を選んでいられない。妻に向き合うこともせず、ただひたすら一人の令嬢を追いかけている夫に何かを期待するのは間違っている。
私の胎から産まれる子がこのブルーギル伯爵家の跡継ぎとなるのだ。
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