真実の愛は素晴らしい、そう仰ったのはあなたですよ元旦那様?

わらびもち

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不法侵入②(レヴィアス視点)

「はあ……王女が変わったとは?」

「私が愛したリリアーヌは虫も殺せぬ優しくか弱い女性だったんだ……。なのに今はどうだ? 隣国で妊婦を毒殺するような悪女へと変わってしまった! それにその時誤って飲んでしまった毒の影響で日に日に醜くなってゆく……そんな女を妻として愛せるわけがない!」

 つまり王女の性根が実は恐ろしく、しかもどんどん外見がブスになっていくから嫌になったと? 
 呆れた言い訳だな……。

「それなのに久しぶりに会ったビアンカの姿ときたら……益々美しくなり色香も増し、以前よりもずっと魅力的になっていた! それで思ったのだよ、私が本当に愛するのは彼女なのだと……!」

 こいつ人の奥さんに対して何気持ち悪いこと言ってんの?
 ビアンカの言った通り頭に満開の花畑が咲いているんだろうな……。

「……貴方が妻を愛するのは勝手ですが、妻が愛しているのは僕ですよ? だからその愛は無駄でしかありませんね」

「なっ……若造が! ちょっと容姿がいいからといって調子に乗るな! どうせその顔で彼女を誑かしたんだろう!? それで愛されているだなんて自惚れもいいところだ! だいたいこの邸だって我が家が支払った慰謝料で購入したものなんだぞ? なら私にだって住む権利があるはずだろう!?」

 こいつ何言ってんの……?
 え? どうしてここにお前が住むような話に飛躍するの?
 こいつの思考が意味不明だ……。
 1年とはいえこんな奴の妻をやっていたビアンカは相当苦労したんだろうな……。

「あー……色々言いたいことはありますけど、まずこの邸は慰謝料で購入したものじゃありませんよ? 最初は小さな1軒屋だったんですが、妻の父君が結婚祝いに改修してくれてここまでの広さになったんです。あ、ちなみに慰謝料はもうありませんよ? 全部使ってしまいましたからね」

「は? お前を買う……? どういう意味だ!?」

「僕は元男娼です、それでビアンカが身請けしてくれたんですよ。僕がいた店は高級店ですからね。そこまで上位の方にいなかった僕でも身請けには相当な金額を使います。彼女は大金はたいてまでというわけですよ。……分かります? 彼女がそれだけ僕を愛してくれている証拠ですよ?」

「だっ……男娼だと!? なんて汚らわしい……! そんな汚れた体でビアンカの夫になるなんて……」

「ええ、彼女はそんな汚れた僕でも受け入れて愛してくれますよ? ちょっと過去に汚点があるくらいで心変わりする貴方とは違ってね……」

 僕の言葉に一瞬俯くも、すぐに顔をあげてまた意味不明な言葉を吐いた。

「ビアンカは……本当はお前みたいな汚れた男よりも高貴な私の方がいいはずだ! そうだ……きっと嫌なはずだ……! お前のような売春夫に触れられるのは……」

「いいえ? 妻は毎晩喜んで床を共にしてくれますよ? それに『愛している』や『大好き』という言葉も毎日かかさず伝えてくれます。……貴方は彼女と床を共にしたことは? 愛の言葉を囁かれたことはありますか?」

 ないだろうな。お前とは白い結婚だったと聞いてるし、実際彼女は処女だった。
 それにお前のことも気持ち悪い男だった言っていたしな。

「そ……それは……。私が初夜にビアンカを抱かないと宣言したから……」

「初夜に花嫁に向かってそんな宣言した時点で無理ですね。そんなこと言われて傷つかない女性がいます? そして自分を傷つけた男を愛せます? 無理でしょうね」

 傷ついた顔でこちらを見るが今更だ。
 
 なによりビアンカから直接「気持ち悪い」と言われたはずなのに、どうして自分が選ばれるなんて思うのだろう? 

 本当に理解不能な思考をしているな……。

「それでも……やり直したい。公爵になれないのならせめてビアンカと慎ましく暮らしたいんだ……」

 せめて? 自分からビアンカを裏切っておいて、なに図々しいこと言っているんだ!?

「……貴方にはもう何を言っても届きそうにない。無駄な会話はここまでにしましょう。ちょうど警備兵も到着したようですしね……」

 警備兵の制服を身に着けた数人の男が門をくぐりこちらに向かって来るのが見えた。

 ビアンカを傷つけたこの男に一言文句を言いたくて話をしたのだが、予想を超えて頭のおかしい奴だったな。
 これ以上会話していると頭がおかしくなりそうだ。廃嫡されて当然だろうこんな奴。

 いまだにギャアギャア喚く男に警備兵が猿轡を噛ませて担いでいった。
 
 あ、忘れるところだったが奴が乗ってきた馬も一緒に連れて行ってもらおう。
 
 暗くて分からなかったがよく見ると白馬だった。
 まさか自分のことを白馬の王子に見立てていないよな? 気持ち悪っ……。

「旦那様、あのおっさんまたここに来るんじゃないですか……?」

 警備兵を見送ったジェニーが僕の元に来て嫌そうな顔で呟く。
 相当あの男が嫌いなんだろうな。その気持ちは分かる。

「いや、おそらくもうここには来ないだろう」

 人の邸に侵入しようとして警備兵に連行されたなんて貴族にとって醜聞でしかない。
 しかも相手は高位貴族のアルシア公爵家だ。当主がこれ以上あの男を野放しにするとは思えない。

 僕の言葉にジェニーは「それならいいですけど……」と返し、邸の方を一瞥した。
 
 彼女はあの男が妊娠中のビアンカに危害を加えないかが心配なのだろう。
 口は悪いが主人想いの優しい子だ。

「ああ、大丈夫だ。それにもし来てもまた僕が相手をするよ。ビアンカにはもう二度と会わせないから安心していい。さあ、邸に戻ろうか」

 早く戻り愛しい妻の寝顔を見て心を落ち着かせたい。
 
 僕は釈然としない様子のジェニーを促し、邸へと足を運んだ。

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