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真実の愛の結果
「あら……? これって……」
すっかり大きくなったお腹を撫で、椅子に座り大衆紙を読んでいると、ある記事が目に入りました。
“アルシア公爵子息、リリアーヌ王女に刺されて重傷”
「ローズ館にてアルシア卿と鉢合わせたリリアーヌ王女が激高し、持っていた短剣で滅多刺しに……? まあ……!?」
あまりにも衝撃的な事件に私は驚愕し、大衆紙を持ったまま震えてしまいました。
するとそんな私を心配したレヴィアス様が慌てて傍へと駆け寄ってくれたのです。
「どうしたビアンカ! 何かあったのか!?」
「レヴィアス様……! これ、この記事……!」
震える手でレヴィアス様に大衆紙を渡し、件の記事を見せると彼は「ああ……」と呟きました。
「ローズ館……か。娼館での刃傷沙汰はよくあることだよ。ただ、それを起こしたのが公爵家の人間と王女だったからこうやって記事にまでなったんだろうな」
「……娼館? このローズ館とは娼館の名称なのですか?」
「ああ、僕が元いた店から少し離れた場所にある中流階級向けの娼館だよ。アルシア卿は王女という最愛がいながら娼婦を買いに行ったんだろうね」
「まあ……! あれほど真実の愛だと謳っておりましたのに……。ひどい心変わりですわ!」
私を追い出すほどリリアーヌ王女殿下を愛していながら簡単に娼婦に手を出すなんて……。
元々好感度はマイナスでしたけど、さらに見損ないましたわ!
そういえば私を正妻にして王女殿下を第二夫人に、と気持ち悪い提案をしてきたこともありましたね。
あの辺りから王女殿下への気持ちが薄れていたのかしら……?
その程度で薄れるようなものを真実の愛と呼べるのでしょうか?
「所詮その程度の愛だったんだろう。中身はおろか外見も醜くなったらもう愛せない程度のね」
外見?
王女殿下の性根が悪いというのは元夫から聞きましたけど、外見も醜くなったとはどういうことでしょう?
「外見も、とは?」
「アルシア卿が言っていたんだが、王女は毒の影響で外見が日に日に醜くなっているそうだよ」
「毒の影響? ……王女殿下はすぐに解毒薬を飲んだのでは?」
ある程度、毒についての知識は教養で習っております。
少なくても私が知る限りの毒はすぐに解毒薬を飲めば後遺症はないものがほとんど。
それとも私が知らない王家所有の秘毒があるのかしら?
「これはあくまで僕の想像なんだが、容姿の衰えに毒は関係ないと思うよ。 王女は単に手入れされていないだけじゃないかな?」
「え? どういうことです?」
手入れされていないって……。それは……身だしなみを整えられていないということですか?
「実はさ、あまり公にされていないけど国王陛下って割と金に汚いんだよね……。ほら、昔さ、僕の家が大公家に慰謝料請求された時、何故か王家がしゃしゃり出てきたじゃない? あれって王命出す代わりに慰謝料の何割かを王家が貰ったらしいんだよ」
「えっ……! そんなことが……!?」
確かにあれは不思議でした。
いかに大公殿下が王族といえども、あくまであの件は大公家とターナー家との間での出来事。
貴族間の出来事に王家が介入することは滅多にありません。それがまさかお金欲しさにしたことだとは……。
「王家って割と貧乏だからね。でさ、そんな金に汚い国王陛下が出戻りの王女に金を使うと思う? 多分必要最低限しか使わないと思うよ。少なくとも身だしなみを整えるための資金はないだろうね。髪も肌も磨かないと衰える一方だし、皺も出来る。でも世話されて当然の王女やアルシア卿はそんなの知らないから勝手に毒のせいにしているんじゃないか?」
「それは……確かにそうかもしれませんね」
考えの足りないあの人らしいわ。
それにあの……被害者意識が強く自分の理想と違うと勝手に悲観する性格は、お変わりないのね……。
「あら……? そういえばさっきアルシア卿から聞いたと言っていたけど、レヴィアス様はいつあの人と会ったの?」
レヴィアス様が私と一緒に元夫と対面したときは王女の外見には触れていなかったはず。
いつそんな話を聞いたのかしら?
「ああ、君に心労をかけたくなくて黙っていたんだけど、あの後一度だけ邸に来たんだよ。そこで王女の外見云々について話したんだ。聞いていて不愉快だったけどね。……真実の愛を語るなら、相手の外見がどう変わろうが愛し続けるのが道理じゃないかと僕は思うからさ」
「……レヴィアス様は、私の外見が変わってしまっても愛してくださるの?」
年をとれば容姿は衰えてしまいます。それは人間であればある程度仕方のないこと。
でもそれでレヴィアス様から愛されなくなったら……と考えるととても恐ろしいです。
「そんなの当然じゃないか。いくら容姿が変わろうと愛しい人であることに変わりはないもの。君の外見はもちろん美しいが、何より好きなのは僕を一途に愛して大切にしてくれるところだ。ビアンカは僕が年をとって髪も薄くなり皺も出来たら嫌いになるかい?」
「いいえ、私もレヴィアス様の外見がどんなに変わろうとずっと愛しておりますわ。貴方を嫌いになることなど有り得ません」
どんなに離れてもずっと忘れられなかったほど愛した御方。
そこまで愛しい貴方のことを、外見が変わったくらいでどうして嫌いになどなれましょうか。
元夫もそれくらい王女殿下のことを一途に愛してほしかったです。
周囲にどれだけ蔑まれようと王女殿下へ変わらぬ愛を捧げていたのに、中身や外見が変わったくらいで潰えてしまう程度のものだったのですね。あの人が語った『真実の愛』というのは……。
ですが、その『真実の愛』によって私は本当に愛する方と幸せになれました。
元夫の『真実の愛』に対して私は「貴方がた以外に何の利益ももたらさない」と言いましたけど、撤回させていただきましょう。
だって、結果的に私にだけ利益をもたらしましたのですから。
「ああ……真実の愛とは素晴らしいものだったですのね……」
私の小さな呟きは、誰にも聞こえないまま風に消えていきました。
(了)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これにて完結です。
お読みいただきありがとうございました!
すっかり大きくなったお腹を撫で、椅子に座り大衆紙を読んでいると、ある記事が目に入りました。
“アルシア公爵子息、リリアーヌ王女に刺されて重傷”
「ローズ館にてアルシア卿と鉢合わせたリリアーヌ王女が激高し、持っていた短剣で滅多刺しに……? まあ……!?」
あまりにも衝撃的な事件に私は驚愕し、大衆紙を持ったまま震えてしまいました。
するとそんな私を心配したレヴィアス様が慌てて傍へと駆け寄ってくれたのです。
「どうしたビアンカ! 何かあったのか!?」
「レヴィアス様……! これ、この記事……!」
震える手でレヴィアス様に大衆紙を渡し、件の記事を見せると彼は「ああ……」と呟きました。
「ローズ館……か。娼館での刃傷沙汰はよくあることだよ。ただ、それを起こしたのが公爵家の人間と王女だったからこうやって記事にまでなったんだろうな」
「……娼館? このローズ館とは娼館の名称なのですか?」
「ああ、僕が元いた店から少し離れた場所にある中流階級向けの娼館だよ。アルシア卿は王女という最愛がいながら娼婦を買いに行ったんだろうね」
「まあ……! あれほど真実の愛だと謳っておりましたのに……。ひどい心変わりですわ!」
私を追い出すほどリリアーヌ王女殿下を愛していながら簡単に娼婦に手を出すなんて……。
元々好感度はマイナスでしたけど、さらに見損ないましたわ!
そういえば私を正妻にして王女殿下を第二夫人に、と気持ち悪い提案をしてきたこともありましたね。
あの辺りから王女殿下への気持ちが薄れていたのかしら……?
その程度で薄れるようなものを真実の愛と呼べるのでしょうか?
「所詮その程度の愛だったんだろう。中身はおろか外見も醜くなったらもう愛せない程度のね」
外見?
王女殿下の性根が悪いというのは元夫から聞きましたけど、外見も醜くなったとはどういうことでしょう?
「外見も、とは?」
「アルシア卿が言っていたんだが、王女は毒の影響で外見が日に日に醜くなっているそうだよ」
「毒の影響? ……王女殿下はすぐに解毒薬を飲んだのでは?」
ある程度、毒についての知識は教養で習っております。
少なくても私が知る限りの毒はすぐに解毒薬を飲めば後遺症はないものがほとんど。
それとも私が知らない王家所有の秘毒があるのかしら?
「これはあくまで僕の想像なんだが、容姿の衰えに毒は関係ないと思うよ。 王女は単に手入れされていないだけじゃないかな?」
「え? どういうことです?」
手入れされていないって……。それは……身だしなみを整えられていないということですか?
「実はさ、あまり公にされていないけど国王陛下って割と金に汚いんだよね……。ほら、昔さ、僕の家が大公家に慰謝料請求された時、何故か王家がしゃしゃり出てきたじゃない? あれって王命出す代わりに慰謝料の何割かを王家が貰ったらしいんだよ」
「えっ……! そんなことが……!?」
確かにあれは不思議でした。
いかに大公殿下が王族といえども、あくまであの件は大公家とターナー家との間での出来事。
貴族間の出来事に王家が介入することは滅多にありません。それがまさかお金欲しさにしたことだとは……。
「王家って割と貧乏だからね。でさ、そんな金に汚い国王陛下が出戻りの王女に金を使うと思う? 多分必要最低限しか使わないと思うよ。少なくとも身だしなみを整えるための資金はないだろうね。髪も肌も磨かないと衰える一方だし、皺も出来る。でも世話されて当然の王女やアルシア卿はそんなの知らないから勝手に毒のせいにしているんじゃないか?」
「それは……確かにそうかもしれませんね」
考えの足りないあの人らしいわ。
それにあの……被害者意識が強く自分の理想と違うと勝手に悲観する性格は、お変わりないのね……。
「あら……? そういえばさっきアルシア卿から聞いたと言っていたけど、レヴィアス様はいつあの人と会ったの?」
レヴィアス様が私と一緒に元夫と対面したときは王女の外見には触れていなかったはず。
いつそんな話を聞いたのかしら?
「ああ、君に心労をかけたくなくて黙っていたんだけど、あの後一度だけ邸に来たんだよ。そこで王女の外見云々について話したんだ。聞いていて不愉快だったけどね。……真実の愛を語るなら、相手の外見がどう変わろうが愛し続けるのが道理じゃないかと僕は思うからさ」
「……レヴィアス様は、私の外見が変わってしまっても愛してくださるの?」
年をとれば容姿は衰えてしまいます。それは人間であればある程度仕方のないこと。
でもそれでレヴィアス様から愛されなくなったら……と考えるととても恐ろしいです。
「そんなの当然じゃないか。いくら容姿が変わろうと愛しい人であることに変わりはないもの。君の外見はもちろん美しいが、何より好きなのは僕を一途に愛して大切にしてくれるところだ。ビアンカは僕が年をとって髪も薄くなり皺も出来たら嫌いになるかい?」
「いいえ、私もレヴィアス様の外見がどんなに変わろうとずっと愛しておりますわ。貴方を嫌いになることなど有り得ません」
どんなに離れてもずっと忘れられなかったほど愛した御方。
そこまで愛しい貴方のことを、外見が変わったくらいでどうして嫌いになどなれましょうか。
元夫もそれくらい王女殿下のことを一途に愛してほしかったです。
周囲にどれだけ蔑まれようと王女殿下へ変わらぬ愛を捧げていたのに、中身や外見が変わったくらいで潰えてしまう程度のものだったのですね。あの人が語った『真実の愛』というのは……。
ですが、その『真実の愛』によって私は本当に愛する方と幸せになれました。
元夫の『真実の愛』に対して私は「貴方がた以外に何の利益ももたらさない」と言いましたけど、撤回させていただきましょう。
だって、結果的に私にだけ利益をもたらしましたのですから。
「ああ……真実の愛とは素晴らしいものだったですのね……」
私の小さな呟きは、誰にも聞こえないまま風に消えていきました。
(了)
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これにて完結です。
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