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孫娘
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「お初お目にかかります国王陛下。急な申し出にも関わらずお会いしてくださったこと、深く感謝いたします」
言葉自体は恭しいが、態度はちっとも恭しくない大男。それが国王に急な謁見を申し込んできた人物であった。もう老人といってよい年齢にも関わらず、鍛え上げられた肉体と白髪の無い髪、そして体中から滲み出る覇気が老いを感じさせない。
威風堂々を体現しているような大男の隣にいるのは燃えるような赤毛の美青年だ。
気品を感じさせる容貌と佇まいはどう見ても高貴な身分であることを物語っている。大男の身分だけでもお腹いっぱいなのに、彼の身分を想像すると胃が痛くなりそうだ。間違いなくただならぬ身分の持ち主だ。
そして背後に控えるのは執事服を着た青年と、何故か青褪めた顔のヘブンズ伯爵がいる。
なんで伯爵がこの大男と共にいるのだろう?
もう突っ込みどころが多すぎる。嫌な予感がヒシヒシとして、今すぐこの場から逃げ出したい気持ちに駆られる。
国王は胸に渦巻く感情を抑え、極力冷静を装った。
そうでもしないとみっともない行動をとってしまいそうだったから。
「……貴公の申し出を断る者など大陸中探してもおらぬことでしょう。こちらこそお会いできて光栄です、シーグラスの御老公……」
心の中で「冷静に、冷静に」と唱えながら挨拶をする。少し嫌味っぽくなってしまったが、相手は不作法にもいきなり訪問してきたのだからこれくらいは許されるだろう。普通はいち国王に急な謁見など許されるはずがないのだから。
この大男の名はエイドリアン・レオン・シーグラス。
大陸一の大国である帝国公爵家の前当主にして、大陸一の大商会の創設者。
帝国の西にある港を大陸一の貿易港へと変え、国に多大な利益をもたらした“西海の覇王”。
商会の長の座を嫡男に譲り隠居の身でありながらも、いまだに帝国で絶大な権力を持つ人物だ。
これだけの肩書でもうお腹いっぱいだが、国王が恐れているのはここではない。
いくらこの国が帝国に比べてちっぽけといえど、この肩書だけではただの貴族で商人にすぎない。
小国といえども立場としては国王の方が上だ。
「ははっ、ご冗談を。ただの隠居爺に対して大袈裟な!」
豪快に笑い飛ばすシーグラス翁。それに対して国王は苦笑いしか返せない。
ただの隠居爺であったなら、どんなによいか……。
国王はそっとため息をついた。
「本日はどのようなご用向きで……?」
恐る恐るといった様子で国王が尋ねる。
何故この人が訪ねてきたのか全く心当たりがないが、絶対に怒らせてはいけない人物だということは分かる。
何故なら、この老人にはさる権力者の血が流れているからだ。
こんな小国如きではとても太刀打ち出来ないほどの大物の血が……。
「いや、実は儂の孫娘の事で参った次第でしてな」
「御老公の御令孫の事、ですか……?」
ここで国王はもしや、と何かを思いつきハッとなった。
(シーグラス翁の孫娘ということは……帝国公爵家のご令嬢? もしや、我が王家に輿入れしたいという話か……!?)
その発想に思わずニヤけそうになった。
大陸中に名を轟かせるシーグラス家と縁戚関係になれるというのは願ってもない話だ。
その豊かな財力は勿論のこと、何よりかの権力者の一族とも縁続きになれる。
(帝国貴族の公女ともなればやはり世継ぎである王太子が相手となるべきだ。既に婚約者がいるがここは身を引いてもらおう。これは国の為だからな。何せシーグラス翁の孫娘ともなれば、王太子の現婚約者である我が国の公爵令嬢とは比べ物にならないほどの大物だ)
国王はニヤニヤと笑いながらそんな妄想を繰り広げていた。
ニヤけ顔を表に出さないと決めたばかりなのに抑えきれない。
なにせシーグラス翁はのような大物の孫娘が輿入れするなど夢のような話だから。
しかし、そんな煌めく妄想とは全く違うことをシーグラス翁が口にする。
そしてそれは国王を奈落の底に突き落とすものであった。
「儂の孫娘、アリッサ・フロンティアが何やら理不尽な婚姻を押し付けられていると耳にしてな。真偽を確かめる為にこうして参ったというわけです」
「……………………へ?」
国王は思わず王族にはあるまじき間の抜けた返事をしてしまった。
アリッサ・フロンティア? 何故ここでその名前が出てくるのか……。
しかも孫娘って…………。
最悪な想像をしてしまい、国王はニヤけ顔から一転して顔色が真っ青になった。
「アリッサ・フロンティアとは……フロンティア子爵の息女のことですか……?」
震える声を絞り出すようにそう尋ねる。
頼むから同姓同名の別人であってほしいと願う国王だが、そんな都合のいいことなどあるはずもない。
無情にもシーグラス翁は力強く頷いて肯定の意を示した。
「左様。アリッサは嫁に行った我が娘メリッサの子だ」
国王の顔色はもう真っ青を通り越して真っ白となった……。
言葉自体は恭しいが、態度はちっとも恭しくない大男。それが国王に急な謁見を申し込んできた人物であった。もう老人といってよい年齢にも関わらず、鍛え上げられた肉体と白髪の無い髪、そして体中から滲み出る覇気が老いを感じさせない。
威風堂々を体現しているような大男の隣にいるのは燃えるような赤毛の美青年だ。
気品を感じさせる容貌と佇まいはどう見ても高貴な身分であることを物語っている。大男の身分だけでもお腹いっぱいなのに、彼の身分を想像すると胃が痛くなりそうだ。間違いなくただならぬ身分の持ち主だ。
そして背後に控えるのは執事服を着た青年と、何故か青褪めた顔のヘブンズ伯爵がいる。
なんで伯爵がこの大男と共にいるのだろう?
もう突っ込みどころが多すぎる。嫌な予感がヒシヒシとして、今すぐこの場から逃げ出したい気持ちに駆られる。
国王は胸に渦巻く感情を抑え、極力冷静を装った。
そうでもしないとみっともない行動をとってしまいそうだったから。
「……貴公の申し出を断る者など大陸中探してもおらぬことでしょう。こちらこそお会いできて光栄です、シーグラスの御老公……」
心の中で「冷静に、冷静に」と唱えながら挨拶をする。少し嫌味っぽくなってしまったが、相手は不作法にもいきなり訪問してきたのだからこれくらいは許されるだろう。普通はいち国王に急な謁見など許されるはずがないのだから。
この大男の名はエイドリアン・レオン・シーグラス。
大陸一の大国である帝国公爵家の前当主にして、大陸一の大商会の創設者。
帝国の西にある港を大陸一の貿易港へと変え、国に多大な利益をもたらした“西海の覇王”。
商会の長の座を嫡男に譲り隠居の身でありながらも、いまだに帝国で絶大な権力を持つ人物だ。
これだけの肩書でもうお腹いっぱいだが、国王が恐れているのはここではない。
いくらこの国が帝国に比べてちっぽけといえど、この肩書だけではただの貴族で商人にすぎない。
小国といえども立場としては国王の方が上だ。
「ははっ、ご冗談を。ただの隠居爺に対して大袈裟な!」
豪快に笑い飛ばすシーグラス翁。それに対して国王は苦笑いしか返せない。
ただの隠居爺であったなら、どんなによいか……。
国王はそっとため息をついた。
「本日はどのようなご用向きで……?」
恐る恐るといった様子で国王が尋ねる。
何故この人が訪ねてきたのか全く心当たりがないが、絶対に怒らせてはいけない人物だということは分かる。
何故なら、この老人にはさる権力者の血が流れているからだ。
こんな小国如きではとても太刀打ち出来ないほどの大物の血が……。
「いや、実は儂の孫娘の事で参った次第でしてな」
「御老公の御令孫の事、ですか……?」
ここで国王はもしや、と何かを思いつきハッとなった。
(シーグラス翁の孫娘ということは……帝国公爵家のご令嬢? もしや、我が王家に輿入れしたいという話か……!?)
その発想に思わずニヤけそうになった。
大陸中に名を轟かせるシーグラス家と縁戚関係になれるというのは願ってもない話だ。
その豊かな財力は勿論のこと、何よりかの権力者の一族とも縁続きになれる。
(帝国貴族の公女ともなればやはり世継ぎである王太子が相手となるべきだ。既に婚約者がいるがここは身を引いてもらおう。これは国の為だからな。何せシーグラス翁の孫娘ともなれば、王太子の現婚約者である我が国の公爵令嬢とは比べ物にならないほどの大物だ)
国王はニヤニヤと笑いながらそんな妄想を繰り広げていた。
ニヤけ顔を表に出さないと決めたばかりなのに抑えきれない。
なにせシーグラス翁はのような大物の孫娘が輿入れするなど夢のような話だから。
しかし、そんな煌めく妄想とは全く違うことをシーグラス翁が口にする。
そしてそれは国王を奈落の底に突き落とすものであった。
「儂の孫娘、アリッサ・フロンティアが何やら理不尽な婚姻を押し付けられていると耳にしてな。真偽を確かめる為にこうして参ったというわけです」
「……………………へ?」
国王は思わず王族にはあるまじき間の抜けた返事をしてしまった。
アリッサ・フロンティア? 何故ここでその名前が出てくるのか……。
しかも孫娘って…………。
最悪な想像をしてしまい、国王はニヤけ顔から一転して顔色が真っ青になった。
「アリッサ・フロンティアとは……フロンティア子爵の息女のことですか……?」
震える声を絞り出すようにそう尋ねる。
頼むから同姓同名の別人であってほしいと願う国王だが、そんな都合のいいことなどあるはずもない。
無情にもシーグラス翁は力強く頷いて肯定の意を示した。
「左様。アリッサは嫁に行った我が娘メリッサの子だ」
国王の顔色はもう真っ青を通り越して真っ白となった……。
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