理不尽には理不尽でお返しいたします

わらびもち

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凡庸な国王の杜撰な計画

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 アリッサの住まう国、王国の現王はだと評されていた。
 特段秀でたものも無ければ特段劣ったところもない凡人であると。
 だが、別にそれで問題は無いのだからと貴族も平民も特に思うところは無かった。
 平和に暮らせていけるのならそれで構わないと。

 だが、政治に関わる大臣は違った。なまじ先王が頭の回転が速く狡猾な人物で、国外だろうと国内だろうと問題を難なく処理できる能力もあっただけに次代が凡庸な王ということにひどく失望した。

『貴方様は先王陛下とは違い視野が狭いのですから博打のような政策は考えなさいますな』

『先王陛下でしたらこの程度の問題はすぐに解決しましたよ? 些か努力と研鑽が足りぬのではないですかな?』

 長く仕えていた大臣達はこぞって先王と比較し、現王の力量の無さを嘆く。
 他者が引くほどのずる賢い性根ゆえ名君とは呼べないが、政治能力は優れていた先王。大陸一の国家である帝国との貿易を成立させたのも先王だった。

 先王の悪辣さに比べると現王の平々凡々とした政治はなんとも物足りない。
 もちろん現王もそんな臣下の不満は感じ取っており、自分も父親のように何かを成し遂げたいと様々な事に手を出そうとするが大抵反対されて終わる。

 それもそのはず。古株の大臣達は長く政治の世界に身を置いてきただけあって瀬能よりも先を見通す目はある。先王よりも能力の劣る現王が、先王と同等の事を成そうとしては成功するよりも国内が混乱する可能性の方が高い。下手をすると自国よりも力のある国家へ喧嘩を売って戦争に発展する、という事態だって想定できる。

 だったら文句など言わなければよいのだが、先王のやり方に感服していた身としてはどうしても不満を口にしてしまう。そしてその不満をぶつけられ続けた現王が彼等を排除しようと考えるのは当然のことだった。

 “自分に協力的な臣下のみを議会に置き、先王の頃から仕えている老害を排除してしまおう”

 口煩い老害共を政治の世界から追い出してしまえばこんなにも悩むことは無い、と考えた現王は密かに自分に忠実な臣下達と会合を開き計画を立てることにした。

『あの老害共の力を削ぎ、余に忠実な其方達を中心に置く為にはどうしたらよいか……』

 現王がそう問いかけると、臣下の一人が一つの案を出す。

『やはり我等と彼等では身分に差があります。下位貴族の我等では高位貴族の彼等に意見することは難しい。せめて我等の身分が同等であったならまだ対抗できるかと』

 この意見に他の者も「確かにそうだ」と同意を示す。
 ならこの者達を陞爵させればいいかというと、実はそんな簡単な話ではない。
 何故なら高位貴族家の数は法律で決まっており、いくら王といえども勝手にその数を増やすことは出来ないからだ。

 だから下位貴族である彼等に爵位を高位貴族まで格上げさせたいとするならば、まずその分高位貴族家の数を減らさなければならない。例えば彼等を伯爵にさせたいのであれば現存する伯爵位を持つ者から爵位を取り上げるか、下位貴族まで爵位を下げる必要がある。

『それは難しいでしょう。高位貴族家の数は国法で定められております。現存する家が何らかの罪を犯して爵位を没収もしくは降格処分を受けない限り、我々が陞爵する道は無いかと。ですがそのような事が運よく起こるとも思えません。ならば別の方法を模索した方がよろしいのでは……』

 話をしている最中、王はあることを思い出した。
 
 父の友人であるヘブンズ家の老当主がを何度も申し出ていることを。

(何だったか……そうだ、確かどこぞの家の娘を自分の親戚の侯爵家に嫁がせるよう王命を下してくれとかなんとか……)

 ヘブンズ伯爵は王家に多額の寄付金をしてくれる有難い相手ではあるが、やはり父親と比べてくるし口煩いしで王は彼を疎んじていた。毎回会う度にそんな訳の分からない懇願をしてくるところも苦手だ。あまり内容をよく覚えていないが、とにかく完全な私怨によるものだとは理解している。

 いくら父親の友人だった相手で、今も尚多額の寄付金をしてくれるとはいえ私怨で王命を下すわけにはいかない。そう言っていつも断ってはいるものの、いかんせんしつこい。

 だが、これは使える。上手く利用すればヘブンズ家の爵位とその親戚とかいう侯爵家の爵位を没収できるかもしれない。

 王が考え付いた策は実になものだった。
 滅茶苦茶な要求をしてきたヘブンズ伯爵と、その親戚とかいう侯爵に難癖つけて処罰し、その爵位を没収するというものだ。子供が思いつく程度の幼稚で杜撰な策であるが、王はこれで上手くいくと考えてしまった。

 それというのもヘブンズ伯爵の方が先に子供の我儘と思うほどの理不尽な要求をしてきたからだ。最初にこれを耳にした時は王も思わず「は? とうとうボケたか?」と口にしてしまいそうになったのだが、何度も聞いているうちに感覚が麻痺しつつあった。

 先にあちらが理不尽な要求をしてきたのだから、こちらも理不尽な対応を返していいのでは?

 そう考えた王は一旦ヘブンズ伯爵の要望を聞き入れ王命を下し、後でこれについて難癖付けて処罰を下してやろうという何とも杜撰な案を思いついた。聞けばその親戚の侯爵とやらは下賤な女を偏愛するあまり長年貴族家当主の務めすら果たさない愚か者だというではないか。こちらも何らかの難癖をつけるに適した逸材だと喜んだ。

 すっかりと頭が麻痺した王はフロンティア子爵家に何とも理不尽な王命を下してしまったというわけだ。彼のミスはフロンティア家をと軽んじ、それ以上を詳しく調べなかったこと。確かに家自体はただの下位貴族家だが、子爵の妻であるは知らないでは済まされないほど大きなものであった。当然その血を継ぐアリッサもただの子爵令嬢と甘く見てはいけなかったのだ。

 後に王は何もかも失うことになるのだが、この時の彼は何も知らず輝かしい未来だけを夢見ていた。自分を貶す老害共を政治の中心から追い出し、忠臣のみに囲まれ褒め称えられる未来を──。
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