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ワインと秘密の会合
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「陛下、此度の件は上手くいきそうで何よりです」
「ついに我等も領地を手にする時がきましたか……。それもこれも全て陛下の御力の賜物。流石は名君と謳われし陛下にございます」
ここは王宮にある国王専用のサロン。簡単に人が立ち入れないよう設計されており、密談をするにはもってこいの場所だ。
国王はここで臣下数名と共にワインを嗜みながら会議を行っていた。
といっても、中身はただの結果報告にすぎない。
「なに、全ては単純で素直な伯爵と侯爵のおかげよ。こんな有り得ない甘言に引っかかってくれるとはな……」
そう言い終えると国王はクイとグラスを傾けワインを一気に飲み干した。
グラスが空になると侍従がそっと新しいワインをそこへと注ぐ。
「おっしゃる通りです。あのように騙されやすくては高位貴族など務まりますまい」
「ええ、本当に。相応しくない者がいつまでもその身分にいることはよろしくない。国の為にも早々にその座から退いてもらわねば」
臣下が同調すると国王は気分が良くなり思わず笑みをこぼした。
やはり自分を敬い従う臣下はよい。こういう臣下を傍に置くべきだと改めて思う。
「老害と恋愛脳がその座を退く時が予定より早くなるだろう。其方達が高位貴族の仲間入りをする日も近いな」
国王から喜ばしい情報を告げられ臣下から「おお……!」と歓声があがる。
「望外の喜びに存じます……! このご恩に報いるよう、生涯陛下にお尽くし致しますぞ」
自分を敬う言葉に国王は「うむ」と満足そうに頷いた。
我等の輝かしい未来へ、と一同が改めて乾杯をしようとグラスを掲げた時───
「失礼いたします! ご歓談中誠に申し訳ございません。陛下、急ぎお伝えしたき事が……」
使用人がノックもせずいきなり扉を開けて部屋へと入って来た。
その不作法さに顔を顰める国王だが、使用人の焦った表情を見て咎めるよりも先に「何事か?」と問う。
「実は今しがた謁見を求めてきた方がおりまして……」
「何? 今日は謁見の予定など入っていないはずだ。先触れも無しに来るなど無礼な……いったい何奴だ?」
「はい、それが……」
使用人がこそっと耳打ちすると、国王は一瞬で顔を強張らせた。
「は……? 今、何と申した?」
聞き間違いかと思い国王は再度使用人に問う。
自分の聞き間違いであってほしかった。それほど今耳にした訪問者の名はとんでもないものであったから。
「いえ、ですから…………が、お見えになっております」
だが、悲しいことに使用人の口からは同じ名が出るだけだった。
王である自分さえ滅多に会うことの出来ないそうそうたる面々の名が──
「どういうことだ!? なんでそんな重要人物が王宮へ?」
「理由は分かりません。ただ、すぐにでも陛下にお会いしたいと……」
声を荒げて困惑する国王の姿に同席していた臣下達は戸惑いを覚えた。
国王をここまで狼狽えさせるなど、一体どんな大物が来たのだろう……。
「……分かった。すぐに向かう。悪いが其方達はもう帰るとよい」
思いつめた顔でそう言い放つ国王に臣下達は何も言えなかった。
焦った様子で部屋を出て行く国王を見届けた後、彼等は互いに顔を見合わせる。
「何だ? 一体何があったのだろうか?」
「分からないが、もうここを出た方がいいだろう。いつまでも留まっているわけにもいかないしな」
「それもそうか……。なら……」
おもむろに臣下の一人がワイン瓶を手に持ち、中身を自分のグラスへと注いだ。
そして透き通った赤紫色の液体が入ったグラスを傾け、クイと一気に飲み干した。
「おいおい、何下品な事をやっているんだ?」
「いや、このワインすごく高価な物だからな。俺程度の財力では飲める機会もそうそうない。だから帰る前に戴いていこうかなと……」
「だからってそれは少し卑しい行動じゃないか? 折角高位貴族になれるかもしれないんだ。品性は大事にした方がいい」
「分かっている。だから陛下の御前では慎んだじゃないか? この瓶のラベルを見た瞬間からたまらなかった……。この帝国産のワインは世の権力者達が愛飲している幻の一品だからな」
「え? これってそんな凄いワインなのか? 確かに今まで飲んだ中で一番美味いと思ったが……」
「だろう? これは帝国の中でもとある商会しか取り扱っていないものだ。俺達のような身分の者じゃ手が出ない高級品だぞ、飲まなきゃ損だって」
そう言って彼はもう一人の臣下のグラスにワインを注いだ。
その際瓶に貼られたラベルの模様を目にし、あることに気づく。
「……黄金の獅子のマーク? あれ? これって帝国皇家の紋章……? なんでワインにこの紋章が使われているんだ?」
ラベルに描かれた黄金の獅子を見て臣下はとあることに気づく。
それはこの紋様が帝国皇家の証だということ。皇家以外の、しかもいち商会が扱っていいようなものではないと。
「ああ、それはこの商会の創設者が帝国皇家の血縁者だからだよ。皇帝自らこの紋章を使用することを許可したって結構有名な話だぞ。お前も聞いたことないか? “西海の覇王”エイドリアン・レオン・シーグラスの名を……」
ワイン片手に臣下達がそんな会話を繰り広げている時、退出した国王はまさにその人物に会おうとしていることを彼等は知らない。
そしてそれが彼等にとっての輝かしい未来を刈り取ってしまうものであることも……
「ついに我等も領地を手にする時がきましたか……。それもこれも全て陛下の御力の賜物。流石は名君と謳われし陛下にございます」
ここは王宮にある国王専用のサロン。簡単に人が立ち入れないよう設計されており、密談をするにはもってこいの場所だ。
国王はここで臣下数名と共にワインを嗜みながら会議を行っていた。
といっても、中身はただの結果報告にすぎない。
「なに、全ては単純で素直な伯爵と侯爵のおかげよ。こんな有り得ない甘言に引っかかってくれるとはな……」
そう言い終えると国王はクイとグラスを傾けワインを一気に飲み干した。
グラスが空になると侍従がそっと新しいワインをそこへと注ぐ。
「おっしゃる通りです。あのように騙されやすくては高位貴族など務まりますまい」
「ええ、本当に。相応しくない者がいつまでもその身分にいることはよろしくない。国の為にも早々にその座から退いてもらわねば」
臣下が同調すると国王は気分が良くなり思わず笑みをこぼした。
やはり自分を敬い従う臣下はよい。こういう臣下を傍に置くべきだと改めて思う。
「老害と恋愛脳がその座を退く時が予定より早くなるだろう。其方達が高位貴族の仲間入りをする日も近いな」
国王から喜ばしい情報を告げられ臣下から「おお……!」と歓声があがる。
「望外の喜びに存じます……! このご恩に報いるよう、生涯陛下にお尽くし致しますぞ」
自分を敬う言葉に国王は「うむ」と満足そうに頷いた。
我等の輝かしい未来へ、と一同が改めて乾杯をしようとグラスを掲げた時───
「失礼いたします! ご歓談中誠に申し訳ございません。陛下、急ぎお伝えしたき事が……」
使用人がノックもせずいきなり扉を開けて部屋へと入って来た。
その不作法さに顔を顰める国王だが、使用人の焦った表情を見て咎めるよりも先に「何事か?」と問う。
「実は今しがた謁見を求めてきた方がおりまして……」
「何? 今日は謁見の予定など入っていないはずだ。先触れも無しに来るなど無礼な……いったい何奴だ?」
「はい、それが……」
使用人がこそっと耳打ちすると、国王は一瞬で顔を強張らせた。
「は……? 今、何と申した?」
聞き間違いかと思い国王は再度使用人に問う。
自分の聞き間違いであってほしかった。それほど今耳にした訪問者の名はとんでもないものであったから。
「いえ、ですから…………が、お見えになっております」
だが、悲しいことに使用人の口からは同じ名が出るだけだった。
王である自分さえ滅多に会うことの出来ないそうそうたる面々の名が──
「どういうことだ!? なんでそんな重要人物が王宮へ?」
「理由は分かりません。ただ、すぐにでも陛下にお会いしたいと……」
声を荒げて困惑する国王の姿に同席していた臣下達は戸惑いを覚えた。
国王をここまで狼狽えさせるなど、一体どんな大物が来たのだろう……。
「……分かった。すぐに向かう。悪いが其方達はもう帰るとよい」
思いつめた顔でそう言い放つ国王に臣下達は何も言えなかった。
焦った様子で部屋を出て行く国王を見届けた後、彼等は互いに顔を見合わせる。
「何だ? 一体何があったのだろうか?」
「分からないが、もうここを出た方がいいだろう。いつまでも留まっているわけにもいかないしな」
「それもそうか……。なら……」
おもむろに臣下の一人がワイン瓶を手に持ち、中身を自分のグラスへと注いだ。
そして透き通った赤紫色の液体が入ったグラスを傾け、クイと一気に飲み干した。
「おいおい、何下品な事をやっているんだ?」
「いや、このワインすごく高価な物だからな。俺程度の財力では飲める機会もそうそうない。だから帰る前に戴いていこうかなと……」
「だからってそれは少し卑しい行動じゃないか? 折角高位貴族になれるかもしれないんだ。品性は大事にした方がいい」
「分かっている。だから陛下の御前では慎んだじゃないか? この瓶のラベルを見た瞬間からたまらなかった……。この帝国産のワインは世の権力者達が愛飲している幻の一品だからな」
「え? これってそんな凄いワインなのか? 確かに今まで飲んだ中で一番美味いと思ったが……」
「だろう? これは帝国の中でもとある商会しか取り扱っていないものだ。俺達のような身分の者じゃ手が出ない高級品だぞ、飲まなきゃ損だって」
そう言って彼はもう一人の臣下のグラスにワインを注いだ。
その際瓶に貼られたラベルの模様を目にし、あることに気づく。
「……黄金の獅子のマーク? あれ? これって帝国皇家の紋章……? なんでワインにこの紋章が使われているんだ?」
ラベルに描かれた黄金の獅子を見て臣下はとあることに気づく。
それはこの紋様が帝国皇家の証だということ。皇家以外の、しかもいち商会が扱っていいようなものではないと。
「ああ、それはこの商会の創設者が帝国皇家の血縁者だからだよ。皇帝自らこの紋章を使用することを許可したって結構有名な話だぞ。お前も聞いたことないか? “西海の覇王”エイドリアン・レオン・シーグラスの名を……」
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