理不尽には理不尽でお返しいたします

わらびもち

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私は自分の身を守っただけ

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 アリッサはずっと怒っていた。

 十人中十人が理不尽だと思うような王命に抗うことなく受け入れる父親に。
 私怨を会ったことも無い自分にぶつけ、不幸を願ってくるヘブンズ伯爵に。
 国益と全く関係の無い婚約を王命まで使って強制させようとする国王に。

 全員自分がそういう目に遭うわけではないからと、他人事として理不尽を押し付けてくる。自分よりも身分や立場の低いアリッサならば言う事を聞くだろうと権力を行使する。

 その傲慢さに、こちらへの配慮の無さに、大義の無い言い分に腹が立って仕方がない。

 こちらを理不尽な目に遭わせるつもりなら、自分達だって理不尽な目に遭えばいい。むしろそういう覚悟も無いのに相手にだけそれを求めるなど笑止千万だ。

 だから父親には王命まで行使して強制的に女装させ、人前に出させるという理不尽な辱めを受けさせた。父親に関してはこれで許そう。残るはヘブンズ伯爵と国王だ。

 バーティ侯爵に関しては、彼が常識的な対応をとってくれていたなら何もする気はなかった。婚約はしないまでも、そのままそっとしておくつもりだった。

 だが蓋を開けてみればヘブンズ伯爵と共犯だったそうなので、こちらも相応の対応をさせて頂くことに決めた。それでなくとも恋人がいるのに色目を使ってきて気色悪いったらない。そもそも恋人がいるのに他の女に心を移しそうになる男なぞ屑だ。不誠実の塊だ。それだけでも許せない。

 ただ、こちらは特に策を弄せずとも
 むしろよく今まで露見しなかったものだと感心してしまう。国王の真の目的を調べる為、そして交渉の材料となるかもしれないと始めたバーティ侯爵家の調査で、ここまでの事案が見つかるとは流石のアリッサも想像すらしていなかった。

 この情報を母親経由で祖父へと伝達し、あちらも調が終わったようで早々に王宮へと乗り込むとの報せが届いたときは笑いが止まらなかった。
 これでやっと、あの無意識に傲慢な王と見当違いの恨みを向けるヘブンズ伯爵に思い知らせてやれる。自分達がいつまでも安全圏にいると思うのは幻想だと。

 自分達を超える権力が現れたらあっという間に格下の存在に陥るのだと、その身をもって知ってもらおう。

「アリッサ……その顔怖いんだが……」

「あら、ごめんあそばせ。お祖父様達が王宮へと向かったと聞いて嬉しくてつい……」

「えっ……!? ち、義父上が王宮に……?」

 娘の仄暗い笑みを見てしまった子爵が恐る恐る声をかけると耳を疑うような答えが返ってきた。

「何を驚いていらっしゃるの? 以後はお祖父様にお頼みすると申し上げたではありませんか」

「そ、それは……そうだが、まさか本当に実行に移すとは……」

 父親のぬるい考えにアリッサは分かりやすくため息をつく。
 そういう貴族にあるまじき甘っちょろい思考が今回の事態を招いた原因だろうと。

「こうでもしないと国の最高権力者に歯向かう真似なんて出来ないでしょう? 権力には権力をぶつけませんとお話になりませんわ」

「そうだけど流石に国際問題とか色々……って、ちょっと待て、先ほど『お祖父様』と言ったか? え? 義父上以外にも誰か来るのか……!?」

「お父様、“来る”ではなく“来ている”です。おそらく既にお祖父様達は王宮で国王陛下に謁見している最中かと」

「え? え? 義父上が既にこの国に? しかも王宮で国王陛下に謁見しているだと!?」

「ええ、その場に同席できないことが残念でなりませんわ」

「そんな修羅場に同席したいって……お前正気か!? 私なんて想像するだけで嘔吐しそうなのに……。それにいったい誰が義父上に随行しているんだ? ドミニク公子あたりか?」

「さあ? 多分そうでしょうけど、私も存じ上げておりませんので。予想ですけどドミニク従兄様にいさま以外にもいらっしゃるかと。多分……が」

 皇族が!? と叫んだ子爵はそのまま気を失いそうになった。
 自分が発端となった事が国家間の問題にまで発展している。事の重大さを今更認識し震えが止まらない。

「こんなことになるなんて……。爵位を返上してでもあんな王命突っぱねるべきだった……!」

「今更ですよ、お父様。いい加減覚悟を決めてください」

 使える権力があるというのにそれを行使しようとせず娘を屑男の生贄にしようとした結果がこれだ、とアリッサは冷めた目で父を一瞥した。

「お父様が私を守ってくれませんでしたので、自分の身は自分で守りました。その結果国を巻き込んでの大事になったとしてもお父様に文句を言う権利はありませんわ」

「そ、それは……悪かった。反省している。それでも国を巻き込むのは……」

「何も国民を巻き込んではいないのですからいいではありませんか? 巻き込んでいるのは王族とその他貴族だけです」

「それが一番駄目じゃないか!?」

「人の心配よりご自分の心配でもなさったら? この件が終わったらお祖父様はお母様に離婚を勧めるかもしれませんよ?」

「えっ………………」

 そうなることを予想していなかったのか子爵は娘の指摘に唖然とするのだった……。
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