理不尽には理不尽でお返しいたします

わらびもち

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真実は①

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 もし、過去に戻れるとしたら、あんな馬鹿げた王命など絶対に出さなかった。

 国王は混乱する状況の中、現実逃避のようにそんなことを考えていた。
 知らなかったといはいえ帝国皇家の血を引く令嬢に、平民の愛人に傾倒するあまり長く独身生活を貫いている貴族当主としての責務を放棄した屑男との婚約を命じてしまったという現実を受け入れられず心の中で後悔ばかりしていた。

 だが、一度下した命令を取り下げる真似など出来ない。
 それをするということは玉座から退くことを意味する。こんなことで退位しては一生の笑い者だ。それどころか後世まで“愚王”の名で語り継がれてしまう。

 だからなんとしてもこの王命に正当な理由があったことにしなくてはならない。
 それで目の前に並ぶ絶大な権力を保持する面々に納得してもらわなくてはならない。

 国王は散々頭を悩ませた結果、名案と言っていいほどの理由を思いついた。

「実はフロンティア子爵令嬢とバーティ侯爵の婚約は亡き先王の遺言にありましてな。それを知った時は余も理不尽な内容だと頭を抱えたものです。しかしながら先王が死の間際に遺した願いは叶えなくてはならない義務がある。なので、苦渋の決断を下し、ご令嬢を彼の物と婚約させたようとしたまでです……」

 我ながら苦しい言い訳だが、これなら責任を亡くなった先王に押し付けることが出来る。亡くなった父親に申し訳ないという気持ちは国王には全くない。生前から家族を顧みることのなかった父だ。親子の情などあるはずもない。だから責任を押しつけようとも罪悪感など一つも湧きやしない。

 それに先王の遺書に記載されていたことなど半分も遂行していない。
 遺言書の内容など公表されるものでもないので、不利になりそうなものは全て無視した。だから別に遺言を叶える必要性などないのだが、しおらしく亡き父の願いを叶えたいとでも言っておかなければこの場をやり過ごせない。

 まあ、その件についてはそもそも遺言に記載されてすらいないのだが……。

「ほお、先王の遺言ですか……」

 流石のシーグラス翁とはいえ「遺言書を見せろ」などという不作法な真似はしないだろう。もし見せろと言われたら全力で拒否する。書かれていないことがバレてしまうからだ。


「確か数十年前にこちらにいるヘブンズ伯爵のご息女がフロンティア子爵の過ちにより儚くなられたとお聞きしました。それで伯爵が親友である先王陛下に頼み、フロンティア子爵に自分と同じ苦汁を味合わせたいと願ったらしいですね。つまり、ご息女と同じように恋人のいる男のもとへと嫁がせ、ご息女と同じように不幸な結婚生活をさせろと。遺言にはそのような事が記載されているということですか?」

「え!? あ、は、はい……その通りです」

 帝国のノア皇子の指摘に国王は心臓が口から飛び出そうだった。
 どうして他国の人間がそんな細かい部分まで知っているのか。その時忘れていた存在が目の端に映った。

(まさかヘブンズ伯爵が喋ったのか!? それどころじゃないから存在を忘れていたが、そもそもどうしてシーグラス翁と一緒にいるんだ……?)

 今の今まで放置していたが、何故ヘブンズ伯爵がシーグラス翁と共に王宮を訪れ、話し合いの場に同席しているのだろうか。

しかも様子がおかしい。まるで痴呆が入ってしまったかのように呆けており、心ここにあらずといった様子だ。国王のことはおろか、シーグラス翁や帝国の皇子すら目に入っていないように見える。

「それについても大分おかしな点がありますが……あえて言及することもないでしょう。既に崩御された先王陛下の倫理観について指摘することは無礼でしょうから」

 暗に「お前の父ちゃん頭おかしいな!」と言いたいのだろう。
 
 だが敢えてそれについて反論する気はない。何の情も無い父親がどれだけ悪く言われても構わないし、そもそも遺言書にそんな記載は無いのだ。ヘブンズ伯爵が煩かったのと、爵位没収という目的を叶える為にあんな馬鹿げた王命を下した。そこに先王の遺志は関わってすらいない。

(そういえば……フロンティア子爵一家には当初父上の遺志で王命を下したと伝えていたな。今思い出した……。だから忘れていたな)

 適当な嘘で臣下を言いなりにする。
 それがどれだけ非道で卑劣な所業かを国王は理解していない。
 そしてそれがどういう形で自分に返ってくるのかも……。

「一つお聞きしたいのですが、ヘブンズ伯爵のご息女が嫁ぎ先で自ら世を儚んだというのは、?」

「は……? それは、どういう意味でしょうか?」

「そのままの意味ですよ。実はヘブンズ伯爵のご息女の嫁ぎ先である彼の国に問い合わせたところ、そのような事実はないとの回答を得ましてね。いったいどうして事実が捻じ曲げられて伝えられたのかと……」

 皇子の発言に国王は一瞬頭が真っ白になった。

 ヘブンズ伯爵の娘は嫁ぎ先で自ら死を選んだと聞いたはず。
 それに当時の記録にもそのような事が記載されて……

(いや、余は当時の記録を読んだ覚えがない……。特に興味も無かったから、ヘブンズ伯爵から聞いた話を鵜呑みにして……)

 国王は額に脂汗を垂らし俯いた。

 もし、皇子の言う通りその事実が無かったとしたらもっと不味いことになる。
 
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