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同じ顔の男
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「馬鹿な……。父が……どうしてそんなことを……」
あまりのことに国王は敬語を使うことも忘れ、頭を抱える。
ここで「父がそんなことをするはずがない」と言えればよかったのだが、あいにくあの狡猾で卑劣な父ならやりかねない。誰を騙そうが悲しませようが意に介さないような悪辣な男だ。母だって何度あの男に泣かされてきたことか……。
しかしいくら最低な父だったとしても意味の無い嘘はつかない。
それは分かっている。あの父が嘘をつくのは自己保身の時だけだ。
だとするとその嘘は己を守る為? いったい何から?
(いや、待てよ……。そもそも皇子の言っていることは本当なのか? 彼の国へ行ったと言うが、それについて何の証拠も無い。亡くなった父がこんな大掛かりな嘘をついていたというよりも、この皇子が壮大な嘘をついているという可能性の方が高い)
今回下した王命“フロンティア令嬢の婚約”はフロンティア子爵がヘブンズ伯爵の娘サラにろくでもない男を紹介し、それが原因で死なせてしまった罪を償うという目的の為だ。まあ、それは建前で本音は別にあるのだが……先ほどの皇子の話を聞く限りだとそもそもその罪自体が存在しないことになってしまう。
ヘブンズ伯爵の娘が夫に冷遇されていたか否かは別として、自殺でなく他殺であるならフロンティア子爵には何の罪も無い。その大事件がフロンティア子爵が企てたというならまだしもその可能性は限りなく低いと思われる。
そもそもどうして皇子はこんな話をし始めたのか。
きっとそれはフロンティア子爵令嬢が婚約する意味を根本から失くす為だろう。
いくら帝国が圧倒的な財力や軍事力を誇るといっても他国の王を相手に「王命を撤回しろ」と命じることなど出来ない。だからこそ遠回しに王命を下した理由が“存在しなかった”とし、王命撤回を促すつもりなのだろう。
考えているうちに落ち着きを取り戻した国王は皇子に「今の話に証拠はあるのですか?」と指摘してやろうと思い、顔を上げる。しかし国王が口を開くより先に、皇子が自分の背後にいる者を手招きした。
「いきなりこのような話を聞いてさぞ驚かれたことでしょう。先ほどの話が真実かどうかは彼の国に問い合わせていただければ分かるかと思います。ですが、貴国の先王陛下が事実を捻じ曲げた証拠については存在しません。ですが、その理由となるべきものはこの者を見ていただければ分かるかと」
皇子に促されてやって来たのは頭からフードを被った背の高い人物。
その体つきから男性と思しきその人物は皇子の隣に立ち、フードを外してその顔を国王の眼前に晒した。
「は………………? え? ええっ……!? そ、その顔は…………」
有り得ない状況に困惑し、目を見開いて男を指差す。
男の顔は国王と同じだった。
髪色と瞳の色は違うが、顔の造形は驚くほどそっくりだ。
年齢は10ほど下だろうか、かつての自分が過去からやって来たかのような錯覚を覚えるほど似ている。
「どうして……。どうして余と同じ顔をしているんだ!? これではまるで…………」
そこで国王は自分と瓜二つの男の顔を悲哀に満ちた眼差しで見つめるヘブンズ伯爵に気づいた。よくよく見ると伯爵とその男の髪と瞳は同じ色合いをしている。
その時、国王の脳裏に最悪の想像が浮かんだ。
自分と瓜二つの顔、ヘブンズ伯爵と同じ髪と瞳の色、まさか……まさかこの男は……。
「彼はサラ嬢の忘れ形見。そして陛下、貴方の実の弟君でいらっしゃいます」
告げられた事実に国王は自分の最悪の想像が当たっていたと絶望し、愕然と肩を落とすのだった……。
あまりのことに国王は敬語を使うことも忘れ、頭を抱える。
ここで「父がそんなことをするはずがない」と言えればよかったのだが、あいにくあの狡猾で卑劣な父ならやりかねない。誰を騙そうが悲しませようが意に介さないような悪辣な男だ。母だって何度あの男に泣かされてきたことか……。
しかしいくら最低な父だったとしても意味の無い嘘はつかない。
それは分かっている。あの父が嘘をつくのは自己保身の時だけだ。
だとするとその嘘は己を守る為? いったい何から?
(いや、待てよ……。そもそも皇子の言っていることは本当なのか? 彼の国へ行ったと言うが、それについて何の証拠も無い。亡くなった父がこんな大掛かりな嘘をついていたというよりも、この皇子が壮大な嘘をついているという可能性の方が高い)
今回下した王命“フロンティア令嬢の婚約”はフロンティア子爵がヘブンズ伯爵の娘サラにろくでもない男を紹介し、それが原因で死なせてしまった罪を償うという目的の為だ。まあ、それは建前で本音は別にあるのだが……先ほどの皇子の話を聞く限りだとそもそもその罪自体が存在しないことになってしまう。
ヘブンズ伯爵の娘が夫に冷遇されていたか否かは別として、自殺でなく他殺であるならフロンティア子爵には何の罪も無い。その大事件がフロンティア子爵が企てたというならまだしもその可能性は限りなく低いと思われる。
そもそもどうして皇子はこんな話をし始めたのか。
きっとそれはフロンティア子爵令嬢が婚約する意味を根本から失くす為だろう。
いくら帝国が圧倒的な財力や軍事力を誇るといっても他国の王を相手に「王命を撤回しろ」と命じることなど出来ない。だからこそ遠回しに王命を下した理由が“存在しなかった”とし、王命撤回を促すつもりなのだろう。
考えているうちに落ち着きを取り戻した国王は皇子に「今の話に証拠はあるのですか?」と指摘してやろうと思い、顔を上げる。しかし国王が口を開くより先に、皇子が自分の背後にいる者を手招きした。
「いきなりこのような話を聞いてさぞ驚かれたことでしょう。先ほどの話が真実かどうかは彼の国に問い合わせていただければ分かるかと思います。ですが、貴国の先王陛下が事実を捻じ曲げた証拠については存在しません。ですが、その理由となるべきものはこの者を見ていただければ分かるかと」
皇子に促されてやって来たのは頭からフードを被った背の高い人物。
その体つきから男性と思しきその人物は皇子の隣に立ち、フードを外してその顔を国王の眼前に晒した。
「は………………? え? ええっ……!? そ、その顔は…………」
有り得ない状況に困惑し、目を見開いて男を指差す。
男の顔は国王と同じだった。
髪色と瞳の色は違うが、顔の造形は驚くほどそっくりだ。
年齢は10ほど下だろうか、かつての自分が過去からやって来たかのような錯覚を覚えるほど似ている。
「どうして……。どうして余と同じ顔をしているんだ!? これではまるで…………」
そこで国王は自分と瓜二つの男の顔を悲哀に満ちた眼差しで見つめるヘブンズ伯爵に気づいた。よくよく見ると伯爵とその男の髪と瞳は同じ色合いをしている。
その時、国王の脳裏に最悪の想像が浮かんだ。
自分と瓜二つの顔、ヘブンズ伯爵と同じ髪と瞳の色、まさか……まさかこの男は……。
「彼はサラ嬢の忘れ形見。そして陛下、貴方の実の弟君でいらっしゃいます」
告げられた事実に国王は自分の最悪の想像が当たっていたと絶望し、愕然と肩を落とすのだった……。
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