理不尽には理不尽でお返しいたします

わらびもち

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あの時のアリッサの言葉

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 最後の手紙を読み終えると、国王はこの事件の真相に気づき頭を抱えた。

「ああ、そうか……。そういうことであったか……」

 父がサラに送った最後の手紙……いや、警告文に書かれていた“あの女”。
 それが誰であるのかすぐに分かった。母だ。父は陰で母のことを“あの女”呼ばわりしていた。

 今ここで口には出来ないが、サラを亡き者にしたのは母の指示だったのだろう。
 王妃の座と王太子の座をサラとその息子に奪われることを危惧した母が、己と自分の子を守るためにしたのだと何故か理解出来た。

 ああ、そういえば母は気位がとても高かった。
 あの母が父に側妃を娶らせることを許すはずがない。
 
 自分が王妃であること、そして自分の子が王太子の座に就くことを何とでも死守したかったのだ。だがそれは何処の国も妃も同じ想いだろう。王家に嫁ぐ女は皆未来の王を産むことに人生をかけているのだから。

 あの父も母の気位の高さを知らなかったわけでもあるまいし、どうやってサラとサラの子を王家に迎え入れるつもりだったのか。それと父がサラの死因を隠蔽しようとしたのはどうしてだろうか。愛する女を殺されてそれを隠そうとするとは……。

 もしかして母の生家から圧力でもかかったのか? 
 それか、ヘブンズ伯爵の恨みを買うことを恐れた?

 そういえば皇子はこの“トム”が“理由”だと言っていた。
 トムを見ただけで理由が分かるだろうと……いや、見ただけじゃ分からないが?

 というか、こいつらは事の子細をどこまで知っていて、それをどこで調べたのだろう……。そこまで考えてハッとなった。

(しまった……王たる余が父上の隠し子について。よりもよって、帝国の皇族の前で……!)

 国王は今頃になって己の失態に気づく。
 やけに回りくどい話に付き合っていたせいで、他国の皇族の前で“トム”を自分の異母弟だと認めてしまった。

 確かに外見が自分にそっくりだから何処からどう見ても血縁者であろうことは間違いないのだが、のだ。

 この場での王として最も正しい答えは“否定”だった。
 
 いくら顔が似ていようとも、証拠があろうとも、王である自分が認めなければ“トム”は王家の血を引く実弟ではないとされる。それはあの……フロンティア子爵の娘も言っていたじゃないか。


『陛下がお認めにならなければ、如何に正当な血を継ごうともその家の者とは認められません』

 
 それはこの状況を示唆しているのかと思うくらいその通りだった。

 自分が黒を白に変えられるほど絶対的な権力を持つ者だと忘れ、只人として話をしてしまった。しかも他国の権力者の一族相手に。

 否定すべきだった。どんなに似ていようとも、先王の証を持っていたとしても「弟とは認めない」と言うべきだった。そうすればこの男はただ顔が似ているだけの農夫で終わる話だったのに。

 やられた。完全にしてやられた。
 はっきりと認めてはいないものの、否定もしていない。
 いや、そういえば先ほど“トム”のことを「王族の子が……」と発言してしまった。

 失言だ。完全なる失言だ。もう取り返しがつかない。
 誤魔化そうとしてもこの狡猾な奴らはそれを許してくれないだろう。

 不味い。状況はかなり不味い。よりにもよって帝国皇家の人間相手に新たな王位継承権保持者の存在を王が認める瞬間を見せてしまった。もうその瞬間からこの“トム”は先王の子で、王位継承権は王太子に継ぐ二位を所持する人物になってしまった。

 長くて回りくどくて着地点が何処にあるのか分からなかったが、奴らの目的はここにあった。いくら血を受け継いでいるとはいっても農夫が王位継承権第二位なんて貴族達が認めるとは思えない。王家の支持率が下がるどころか王権を保持することすら難しくなってしまう。

 もう絶対にこの後「これを黙っていてほしければ……」とか言って交渉に入ってくるに決まっている。王命を撤回しろとか言ってくる。

 なんてことだ……。これが自国の人間であれば緘口令を敷けたのに、他国の皇族にそんなことしようものなら皇帝を怒らせてしまう。

 もはや今はどうして異母弟の名が“マーティン”ではなく“トムになったのか、どうして彼だけ生き残ったのかとかを気にしている場合ではなかった……。
 
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