理不尽には理不尽でお返しいたします

わらびもち

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話の続き

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「ふう、ここなら落ち着いて話が出来そうだ。アリッサ、よければ何か飲むかい?」

 馬車に乗車したノアはそう尋ねるが、アリッサは首を横に振って「いえ、早くお話の続きを聞きたいですわ」と答えた。

 ノアが先程話してくれた“二人が婚約できる準備”とはいったい何だろう。
 ずっとそのことが気になって仕方なかったのだ。

「そうか、なら続きを話そう。アリッサ、私は臣籍降下をすることにした。それまでの皇族がしてきたように大公位や公爵位を授かるのではなく、皇家所有の伯爵領を戴き伯爵になる。そうすれば子爵令嬢の身分のままの君と婚約しても何の問題もなくなるんだ」

「殿下が伯爵に……!?」

 帝国の皇族が臣籍降下する際は最低でも公爵位を授かるのが習わしだ。
 婿入りするならともかくとして、自ら伯爵位を望む皇族は前例にない。

「皇帝陛下やお母君は反対されませんでしたか? 皇族が伯爵にとは前例にないことですよね」

「うんそうだね。父上は難色を示したけど母上は賛成してくれたよ。変に公爵位とか貰って異母兄上皇太子と争う可能性が出るのはごめんだってさ」

「ですが……もっと高い身分を得られたはずの殿下を私のせいで……」

「アリッサ、自分のせいだなんて思わないで。これは私が自分で望んだことだ。君のせいだなんてことは一切ないよ。私は君と結婚して夫婦になりたい、そして異母兄上と継承権で争いたくない。この二つが同時に叶うんだ、こんなに喜ばしいことはない」

 好きな人が自分と結ばれる為にここまでしてくれる。それはとても嬉しいことなのだが、それでいいのだろうかという迷いがある。

 大公と伯爵では受けられる恩恵も違うし、生活の質も今までより下がるだろう。
 好きな人に不自由な思いをさせるかもしれない。そう思うと素直に喜べない。

「殿下がそこまで私のことを想ってくださったことも、行動してくださったこともすごく嬉しいです。でも、皇宮での生活よりも質素な暮らしを強いられることになりますし、何より子爵令嬢という低い身分の妻を娶ったことで周囲から心無い言葉をかけられることもあるでしょう。殿下にそんな想いをさせると思うと……私は素直に貴方の手を取ることが出来ないのです」
 
 なまじ頭の良いアリッサだからこそ先々の苦労が容易に頭に浮かび、ノアにそんな苦労はさせたくないとその手を取ることを躊躇ってしまう。これが考えの浅いバーティ侯爵やジェシカならば何も考えず本能のままに行動することだろう。だが、アリッサは本能よりも理性を優先させてきた。だからこそ何も考えず本能のまま生きる彼等を少しだけ羨ましく思っていた。

「……アリッサは変わらないね。幼い頃から先の事を考えられる賢さと相手の立場や状況を重んじる優しさを持っていた。そんな大人びた君に夢中になったし、それは今でも変わらないよ。君と共に生きることが出来るのなら多少の苦労は覚悟の上だ。それに君を悪く言う者には二度とそんな口を叩けないようにしてみせるよ。アリッサ、君は私と結婚するのは嫌かい?」

「嫌だなんて……! そんなことは絶対に有り得ません。私はずっと貴方様のことを忘れられずにおりました……。叶う事なら貴方様と生涯を共にしたいと……そう願っておりました……」

「なら、お願いだ。どうか今度こそ私の手を取ってほしい。私は多少の苦労よりも君が他の男に奪われることが何よりも耐えられない……。君が王命で婚約すると聞いた時は胸が張り裂けそうで死ぬかと思った。もうこんな気持ちになるのは沢山だ。だから、アリッサ……」

 アリッサの手を優しく掴み、甲に口づけを落とす。
 ノアの切ない表情と触れた唇の感触にアリッサは不意に胸が締め付けられた。

「殿下、私…………」

 彼の想いに応えたい。彼の傍にずっといたい。
 それなのに、いまだ迷う自分がいる。
 誰よりも大切な彼に苦労をさせていいのだろうかと……。

「本当ならば考える時間を与えてあげたいのだが、今すぐに決めてくれアリッサ。今度こそ私の求婚を受けてくれるか否かを」

「え……今すぐに、ですか……? そんな……でも……」

「分かっている。優しい君が私のことを考えて迷っていることは。でも、あまり時間がないんだ。モタモタしているとドミニクが君を……」

「は? え? どうしてここでドミニク従兄様の名前が出てくるのですか?」

 いきなり出てきた従兄の名にアリッサは驚いて真顔になってしまった。
 先程までは頬を染め恋する乙女の顔をしていたというのに。
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