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意外な話
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話の流れからするとまさかアリッサがノアの求婚を断った場合、ドミニクがアリッサを娶るとかそういう話だろうかと予想した。
というのも、昔ノアに求婚される前当初アリッサはドミニクの花嫁候補とされていた時期があったからだ。
聡明で美しく、なおかつシーグラス翁と同等の胆力を持つアリッサは周囲から未来の公爵夫人として申し分ない令嬢と太鼓判を押されていたのだが、結果的にドミニクと婚約を結ぶまでは至らなかった。何故かというと、それはアリッサとドミニクは互いに恋愛感情を持てなかったからである。
貴族同士の婚姻に恋愛感情は不要と考えられるが、ドミニクとアリッサの場合は互いを好きになれないとかそういうのではない。というのも、二人は顔も性格もまるで双子の兄妹のように似すぎているせいか、互いを異性として見ることが無理だったのだ。
これで婚約を強行したとしても、互いを兄妹以上に見られない二人は結婚しても男女の関係になるなんて無理だと分かっていた。どうしても家族の情のようなものが先立ち、異性として見ることが出来ない。もうこれは感情の問題なので努力や考え方でどうこうできるものではないので、周囲も諦めて二人の婚約の話は無くなった。
まさかあの時無くなった婚約の話がまた出てきたのだろうか……?
そう予想するアリッサだったが、ノアの口から出た言葉はその予想を遥かに上回る内容であった。
「ドミニクが……君をシーグラス家の養女にしてしまう」
「…………はい? え? 何? どういう意味ですか……?」
いきなり出てきた“養女”という予想外の単語にアリッサは呆気に取られてしまった。どうしてここでそんな言葉が出てくるのかさっぱり分からない。
「いやそれが……昔、今のシーグラス家の当主が君を養女にすることを反対しただろう? そのせいもあって私と君は婚約に至らなかった」
「ええ、そうでしたわね。シーグラス家の養女となった私が貴方様と婚約してしまうと帝位継承権で争う事になるかもしれないからと……。でも、それとドミニク従兄様に何の関係が?」
「いや、あの時君と婚約できず落ち込む私にドミニクは『私が父から家督を奪ってアリッサを養女とすることを許可いたします。そうすれば殿下と婚約できますよ』と言って慰めてくれたんだ……」
「まあ……従兄様がそんなことを……?」
あの従兄がそんな社交辞令を使ったまで人を慰めるなんて、意外と優しいところもあると微笑ましく思った。彼は現実主義というか、実行できないことは嘘でも口にしないと思っていたから。
「私はてっきりそれを慰める為の社交辞令かと思っていたのだが……どうやらあいつは本気だったようで……」
「え……?」
なんだか雲行きが怪しくなってきた。
本気? 本気ってまさか家督を奪うこと?
「私はあいつが本気だなんてこれっぽっちも思わなかった。あんな若さで家督を奪うなんて現実的じゃないからな。それでこの件がきっかけで数年ぶりに会ったあいつが私に何て言ったと思う?」
「え……? なんて言ったのですか?」
嫌な予感にアリッサは固唾を飲んでノアの返事を待った。
「満面の笑みで『あと一年もすれば父から家督を奪えますので、もう少々お待ちください』と言ったんだよ。私は社交辞令かと思っていたが、あいつは本気だったようだ。しかもシーグラスの御老公もそれを後押ししているらしく……。そうなると一年後にシーグラス家の当主が変わるかもしれない」
「ええっ……!? ドミニク従兄様がそんなことを?」
社交辞令ではなく本気だったと聞き流石のアリッサも動揺した。
ドミニクはアリッサと年齢も近く、当主の座に就くには若すぎる。
「で、でも、殿下が伯爵位を授かるのでしたら、別に私をシーグラス家の養女にする必要は無くなりますよね? そのことは伝えたのですか?」
「勿論伝えたさ。ただ、ドミニクが家督を奪う前にアリッサから返事が貰えない場合、もしくは断られた場合は問答無用で養女にすると……」
「なんでそんな話になるんですか!?」
何故求婚をすぐに受け入れない場合はシーグラス家の養女になることが決定しているのか意味が分からない。アリッサはそんな話は聞いていないし、承諾すらしていないのに。
「理由は此度の件で君がシーグラスの御老公の孫娘だと知られてしまったからだ。シーグラスとの縁を求めてこれから君に山ほどの縁談がくるであろうと予想できる。それをあのフロンティア子爵が捌けるかと問われたらおそらく無理だろう。それどころかまたおかしな縁談を受け入れてしまいかねない。だったら養女にして君の婚約の決定権をフロンティア家からシーグラス家に移した方が安全だというわけだ」
「ああ、なるほど……。確かにお父様では断れないでしょうし、またおかしな相手に私を嫁がせかねないですね」
「ただ、ここで君が私の求婚を受けてくれたらその話は無くなる。いずれ伯爵になるとはいえ今はまだ皇子の立場にある私の婚約者となれば下手な横槍は入れられないはずだ。万が一入ったとしても皇家から正式に抗議を受けてなお立ち向かってくるような命知らずはそうそういないだろうよ」
「確かにそうですね……」
なんだか話がややこしくなってきた。
これが単純に殿下の求婚を断ったらドミニク従兄様と婚約させられる、とかならまだ分かる。とてもシンプルな話だ。
でも、どうして養女云々の話になるのだろうか?
おかしな縁談から守る為とは聞こえがいいが……それなら別に養女にならなくてもいいような気はする。こんなことがあったのだから今後はあの父に婚約の決定権を委ねるつもりはないし、何より母が許さないだろう。
それはドミニク従兄様も分かっているだろうに、何故わざわざ養女の話なんてしたのだろうか。
彼の目的は一体何だろう。ただ私を守る為ではないはずだ。
というのも、昔ノアに求婚される前当初アリッサはドミニクの花嫁候補とされていた時期があったからだ。
聡明で美しく、なおかつシーグラス翁と同等の胆力を持つアリッサは周囲から未来の公爵夫人として申し分ない令嬢と太鼓判を押されていたのだが、結果的にドミニクと婚約を結ぶまでは至らなかった。何故かというと、それはアリッサとドミニクは互いに恋愛感情を持てなかったからである。
貴族同士の婚姻に恋愛感情は不要と考えられるが、ドミニクとアリッサの場合は互いを好きになれないとかそういうのではない。というのも、二人は顔も性格もまるで双子の兄妹のように似すぎているせいか、互いを異性として見ることが無理だったのだ。
これで婚約を強行したとしても、互いを兄妹以上に見られない二人は結婚しても男女の関係になるなんて無理だと分かっていた。どうしても家族の情のようなものが先立ち、異性として見ることが出来ない。もうこれは感情の問題なので努力や考え方でどうこうできるものではないので、周囲も諦めて二人の婚約の話は無くなった。
まさかあの時無くなった婚約の話がまた出てきたのだろうか……?
そう予想するアリッサだったが、ノアの口から出た言葉はその予想を遥かに上回る内容であった。
「ドミニクが……君をシーグラス家の養女にしてしまう」
「…………はい? え? 何? どういう意味ですか……?」
いきなり出てきた“養女”という予想外の単語にアリッサは呆気に取られてしまった。どうしてここでそんな言葉が出てくるのかさっぱり分からない。
「いやそれが……昔、今のシーグラス家の当主が君を養女にすることを反対しただろう? そのせいもあって私と君は婚約に至らなかった」
「ええ、そうでしたわね。シーグラス家の養女となった私が貴方様と婚約してしまうと帝位継承権で争う事になるかもしれないからと……。でも、それとドミニク従兄様に何の関係が?」
「いや、あの時君と婚約できず落ち込む私にドミニクは『私が父から家督を奪ってアリッサを養女とすることを許可いたします。そうすれば殿下と婚約できますよ』と言って慰めてくれたんだ……」
「まあ……従兄様がそんなことを……?」
あの従兄がそんな社交辞令を使ったまで人を慰めるなんて、意外と優しいところもあると微笑ましく思った。彼は現実主義というか、実行できないことは嘘でも口にしないと思っていたから。
「私はてっきりそれを慰める為の社交辞令かと思っていたのだが……どうやらあいつは本気だったようで……」
「え……?」
なんだか雲行きが怪しくなってきた。
本気? 本気ってまさか家督を奪うこと?
「私はあいつが本気だなんてこれっぽっちも思わなかった。あんな若さで家督を奪うなんて現実的じゃないからな。それでこの件がきっかけで数年ぶりに会ったあいつが私に何て言ったと思う?」
「え……? なんて言ったのですか?」
嫌な予感にアリッサは固唾を飲んでノアの返事を待った。
「満面の笑みで『あと一年もすれば父から家督を奪えますので、もう少々お待ちください』と言ったんだよ。私は社交辞令かと思っていたが、あいつは本気だったようだ。しかもシーグラスの御老公もそれを後押ししているらしく……。そうなると一年後にシーグラス家の当主が変わるかもしれない」
「ええっ……!? ドミニク従兄様がそんなことを?」
社交辞令ではなく本気だったと聞き流石のアリッサも動揺した。
ドミニクはアリッサと年齢も近く、当主の座に就くには若すぎる。
「で、でも、殿下が伯爵位を授かるのでしたら、別に私をシーグラス家の養女にする必要は無くなりますよね? そのことは伝えたのですか?」
「勿論伝えたさ。ただ、ドミニクが家督を奪う前にアリッサから返事が貰えない場合、もしくは断られた場合は問答無用で養女にすると……」
「なんでそんな話になるんですか!?」
何故求婚をすぐに受け入れない場合はシーグラス家の養女になることが決定しているのか意味が分からない。アリッサはそんな話は聞いていないし、承諾すらしていないのに。
「理由は此度の件で君がシーグラスの御老公の孫娘だと知られてしまったからだ。シーグラスとの縁を求めてこれから君に山ほどの縁談がくるであろうと予想できる。それをあのフロンティア子爵が捌けるかと問われたらおそらく無理だろう。それどころかまたおかしな縁談を受け入れてしまいかねない。だったら養女にして君の婚約の決定権をフロンティア家からシーグラス家に移した方が安全だというわけだ」
「ああ、なるほど……。確かにお父様では断れないでしょうし、またおかしな相手に私を嫁がせかねないですね」
「ただ、ここで君が私の求婚を受けてくれたらその話は無くなる。いずれ伯爵になるとはいえ今はまだ皇子の立場にある私の婚約者となれば下手な横槍は入れられないはずだ。万が一入ったとしても皇家から正式に抗議を受けてなお立ち向かってくるような命知らずはそうそういないだろうよ」
「確かにそうですね……」
なんだか話がややこしくなってきた。
これが単純に殿下の求婚を断ったらドミニク従兄様と婚約させられる、とかならまだ分かる。とてもシンプルな話だ。
でも、どうして養女云々の話になるのだろうか?
おかしな縁談から守る為とは聞こえがいいが……それなら別に養女にならなくてもいいような気はする。こんなことがあったのだから今後はあの父に婚約の決定権を委ねるつもりはないし、何より母が許さないだろう。
それはドミニク従兄様も分かっているだろうに、何故わざわざ養女の話なんてしたのだろうか。
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