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逸らしたい話題
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「それと、お前が無理やり婚約させられそうになったあの禄でもない男……事件の全責任を取る形で亡くなったそうだ」
「そうですか……。そうなるだろうとは思いましたが、後味が悪いです」
「……後悔しているのか?」
「ええ、少しだけ……。ですが後悔はしておりません。もしあの状況を放置していたら国内外問わず再び薬物中毒者が蔓延してしまう可能性が高い。しかも我が国でその原材料が栽培されていたと他国に知られたら戦は免れないでしょう。罪なき民の血が流れることは断じて許されません。民を守ることが貴族としての務めですから」
自分が原因でバーティ侯爵を死なせてしまったことに罪悪感が無いといえば嘘になる。だが、あの状況を見ない振りをして放置すれば過去にあったように国内外へと薬物が蔓延してしまう恐れがある。そうなれば原因を作った母国は他国の怒りを買い、そのまま戦に発展する可能性がある。アリッサはどうしてもそれを避けたくて祖父を通じて国王へとバーティ侯爵領の現状を伝えてもらったのだ。
「うむ、流石だアリッサ。つまらない感傷に浸らず、己の選択を悔やまない。その潔さこそ上に立つ者として必要な気質よ。お前ならばこの先どのような立場になっても大丈夫だろう。儂はお前を誇りに思う」
「お祖父様、お褒めいただき大変ありがたく存じますが……どのような立場も何も、私は伯爵夫人となるだけですよ?」
祖父の含みのある言葉をアリッサは静かに否定した。
自分は伯爵夫人以外の何者にもならないと。
あれから晴れてノアと正式に婚約を交わしたアリッサは、近いうちに臣籍降下した彼の妻となり伯爵夫人となる。しかし、今の祖父の言い方だとまるでアリッサが伯爵夫人より上の存在になることを暗示しているようだった。
「それより、領民たちはいったい何処に行ってしまったのでしょうね……」
「ああ、忽然と消えてしまったバーティ侯爵領の民のことか? それなら既に調べがついている」
「え!? 調べてくださったのですか?」
「どうにも気になってな。探ってみたらバーティ侯爵領から移住してきたという一家が見つかった。彼等に直接聞いてみたところ、どうやら領民たちは異国の民にあの土地を売ったようだ。そしてその金で各々が故郷を捨てて別の場所に移り住んだらしい」
「え? 土地を売った……?」
領民達のとんでもない行動にアリッサは驚いて目を丸くした。
彼等はそこに住む権利を有してはいるがあくまで管理者は領主であるバーティ侯爵だ。土地を売買する権利などないし、何より領民が領主に黙ってそんなことをするなど聞いたこともない。
「あの侯爵、領民からの陳情を全て無視していたようだぞ。どうやら領地は日照りと水不足で作物が育たず領民は餓死寸前だったそうだ。それを領主に訴えても何もしてくれない。そこに都合よくあの異国の民達が現れて土地の売買を申し出たらしい」
「そんなことが……。多分、侯爵様はそういうことがあったことも知らないと思いますよ。知らないというより知ろうとしないですね。成程、苦しい時に何もしてくれない領主の元に居たらいつ死んでもおかしくないですからね。故郷よりも自分や家族の命を取ることは当然です。そういった経緯があったのですか……」
まさか領民が故郷を売って何処かへ移り住むとは考えもしなかった。
てっきりあの異国の民達によって消されたのかと……。何にせよ無事でよかった。
しかしそんなに都合よく現れたということは、どこかであの領地は領主の目が届かない場所だという情報を耳にしたのかもしれない。監視の目が届かない場所はさぞかし都合がよかったのだろう。
「しかし……それを王家に知られたら領民達は罰せられるかもしれません。大丈夫でしょうか?」
「あの国は領民の行方すら辿れなかったようだから大丈夫だろう。それに、次の王の選出や事件が国民の耳に入らぬように隠蔽工作する等忙しいようだ。領民の行方どころではないだろうよ」
「次の王の選出ですか……」
わざわざ“選出”という言葉を使うあたり王太子殿下が即位するわけではなさそうだ。可哀想だが彼の祖父も父も私欲の為にアリッサとフロンティア子爵に理不尽な真似を強いて、その結果国を混乱させた。二代に渡ってやらかした一族を玉座に就かせたくないと思うのは当然かもしれない。
「ところで話は戻るが、アリッサはノア殿下も皇帝となるに必要な教育を受けていることは知っているか?」
「何ですかいきなり……。まあ、知っていますけど……」
またその話に戻った、とアリッサは顔を顰める。
その話題は避けたいのにどうしてわざわざ話を戻すのかと。
「本来でしたら皇太子殿下と第二皇子殿下のみが受ける教育ですが、その第二皇子殿下がとある国の女王陛下と恋に落ちて婿入りしたとか。それで急遽第三皇子であるノア殿下がその教育を受けることになったと」
「うむ、その通りだ。ノア殿下が皇位を継ぐ可能性は零ではない」
「……嫌ですわ、お祖父様。皇太子殿下がいらっしゃるのに不敬でしてよ」
非の打ち所がない完璧な貴公子。そう評される皇太子がいる限りはノアにお鉢が回ることはない。そのはずなのに、祖父がやたら神妙な顔つきをするのでアリッサも参ってしまった。
「そうですか……。そうなるだろうとは思いましたが、後味が悪いです」
「……後悔しているのか?」
「ええ、少しだけ……。ですが後悔はしておりません。もしあの状況を放置していたら国内外問わず再び薬物中毒者が蔓延してしまう可能性が高い。しかも我が国でその原材料が栽培されていたと他国に知られたら戦は免れないでしょう。罪なき民の血が流れることは断じて許されません。民を守ることが貴族としての務めですから」
自分が原因でバーティ侯爵を死なせてしまったことに罪悪感が無いといえば嘘になる。だが、あの状況を見ない振りをして放置すれば過去にあったように国内外へと薬物が蔓延してしまう恐れがある。そうなれば原因を作った母国は他国の怒りを買い、そのまま戦に発展する可能性がある。アリッサはどうしてもそれを避けたくて祖父を通じて国王へとバーティ侯爵領の現状を伝えてもらったのだ。
「うむ、流石だアリッサ。つまらない感傷に浸らず、己の選択を悔やまない。その潔さこそ上に立つ者として必要な気質よ。お前ならばこの先どのような立場になっても大丈夫だろう。儂はお前を誇りに思う」
「お祖父様、お褒めいただき大変ありがたく存じますが……どのような立場も何も、私は伯爵夫人となるだけですよ?」
祖父の含みのある言葉をアリッサは静かに否定した。
自分は伯爵夫人以外の何者にもならないと。
あれから晴れてノアと正式に婚約を交わしたアリッサは、近いうちに臣籍降下した彼の妻となり伯爵夫人となる。しかし、今の祖父の言い方だとまるでアリッサが伯爵夫人より上の存在になることを暗示しているようだった。
「それより、領民たちはいったい何処に行ってしまったのでしょうね……」
「ああ、忽然と消えてしまったバーティ侯爵領の民のことか? それなら既に調べがついている」
「え!? 調べてくださったのですか?」
「どうにも気になってな。探ってみたらバーティ侯爵領から移住してきたという一家が見つかった。彼等に直接聞いてみたところ、どうやら領民たちは異国の民にあの土地を売ったようだ。そしてその金で各々が故郷を捨てて別の場所に移り住んだらしい」
「え? 土地を売った……?」
領民達のとんでもない行動にアリッサは驚いて目を丸くした。
彼等はそこに住む権利を有してはいるがあくまで管理者は領主であるバーティ侯爵だ。土地を売買する権利などないし、何より領民が領主に黙ってそんなことをするなど聞いたこともない。
「あの侯爵、領民からの陳情を全て無視していたようだぞ。どうやら領地は日照りと水不足で作物が育たず領民は餓死寸前だったそうだ。それを領主に訴えても何もしてくれない。そこに都合よくあの異国の民達が現れて土地の売買を申し出たらしい」
「そんなことが……。多分、侯爵様はそういうことがあったことも知らないと思いますよ。知らないというより知ろうとしないですね。成程、苦しい時に何もしてくれない領主の元に居たらいつ死んでもおかしくないですからね。故郷よりも自分や家族の命を取ることは当然です。そういった経緯があったのですか……」
まさか領民が故郷を売って何処かへ移り住むとは考えもしなかった。
てっきりあの異国の民達によって消されたのかと……。何にせよ無事でよかった。
しかしそんなに都合よく現れたということは、どこかであの領地は領主の目が届かない場所だという情報を耳にしたのかもしれない。監視の目が届かない場所はさぞかし都合がよかったのだろう。
「しかし……それを王家に知られたら領民達は罰せられるかもしれません。大丈夫でしょうか?」
「あの国は領民の行方すら辿れなかったようだから大丈夫だろう。それに、次の王の選出や事件が国民の耳に入らぬように隠蔽工作する等忙しいようだ。領民の行方どころではないだろうよ」
「次の王の選出ですか……」
わざわざ“選出”という言葉を使うあたり王太子殿下が即位するわけではなさそうだ。可哀想だが彼の祖父も父も私欲の為にアリッサとフロンティア子爵に理不尽な真似を強いて、その結果国を混乱させた。二代に渡ってやらかした一族を玉座に就かせたくないと思うのは当然かもしれない。
「ところで話は戻るが、アリッサはノア殿下も皇帝となるに必要な教育を受けていることは知っているか?」
「何ですかいきなり……。まあ、知っていますけど……」
またその話に戻った、とアリッサは顔を顰める。
その話題は避けたいのにどうしてわざわざ話を戻すのかと。
「本来でしたら皇太子殿下と第二皇子殿下のみが受ける教育ですが、その第二皇子殿下がとある国の女王陛下と恋に落ちて婿入りしたとか。それで急遽第三皇子であるノア殿下がその教育を受けることになったと」
「うむ、その通りだ。ノア殿下が皇位を継ぐ可能性は零ではない」
「……嫌ですわ、お祖父様。皇太子殿下がいらっしゃるのに不敬でしてよ」
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