18 / 18
愛しています
しおりを挟む
「最初から、間違っていたんでしょうね……」
ぽつりと呟き、ディアナは遠くの空へと視線を向けた。
まるで、ここにはいない誰かに向かって言うように。
「それは、君の元夫が身分違いの者を愛したことを言っているのかい?」
「ええ、そうです。身分ばかりは……どうにもなりませんもの」
エーリックもディアナも、簡単には添い遂げられないような相手に恋をした。
だが片方は破滅し、片方はその恋を成就させた。その違いはやはり身分だろう。
「わたくしは既婚歴さえつければ貴方様と添い遂げられた。ですが、彼の人は添い遂げるためには身分を捨てねばなりません。ですが、貴族が平民の生活をすることはかなり難しいですもの……」
自分で身支度すらしたことのない貴族が平民に降る。それがどんなに困難なことかは想像に難くない。
実際、エーリックはドリスに世話してもらわねば食事すらありつけなかったと聞く。
「それもそうだな。だが、君のその……“既婚歴さえつければいい”と簡単に言えてしまえる行動力があったからこそ、私達はこうして一緒になれるのだと思うよ?」
「あら、そうですか……? でもそれは、それだけ貴方様を深く愛しているからですわ」
「ふふ、嬉しいな。私も君を愛しているよ」
貴方と出会ったあの瞬間は、きっと生涯忘れられない。
側妃となった叔母に招待され、初めて足を踏み入れた王宮で貴方と出会った。
心臓が五月蠅いほど高鳴って、のぼせそうなほど体が熱くなり、これが恋なのだと知った瞬間。何が何でもこの方と添い遂げたいと、そう強く願った。
幸いにもこの方と想いを通わせたのに『既婚歴のある自分では君と結ばれることは難しい』と言われ、身を引こうとするこの方を止め、今回の計画を持ち掛けた。
一度は他の殿方の妻となるが、必ず綺麗な身のまま貴方の元へ戻る。だから待っていてほしい、と告げて。
けれど、もし……貴方の身分が平民だったのなら、添い遂げることを諦めたかもしれない。
エーリックのように何とかなると考えられるほど、楽観的ではないのだから。
それは心に留めたまま、ディアナは目の前の最愛の男性に熱を持った視線を送る。
「ディアナ……。そのような目で見つめられたら、このまま君に触れたくなってしまうじゃないか?」
「あら、いけませんわ。あちらでお嬢様が見ておりますのよ?」
視線を向けた先には、花を摘んではしゃぐ幼い女の子がいる。
彼女は大公と前妻の娘。そして結婚後にはディアナの義娘となる。
目が合うと嬉しそうに「おねえしゃま!」と舌足らずな可愛らしい口調でディアナを呼ぶ。
「ふふ、可愛らしいこと。早く一緒に暮らし、共に過ごしたいですね」
「それは嬉しいな。娘も君を大層気に入っているから、一緒に暮らせると告げたらすごく喜んでいたよ」
「まあ、光栄ですわ」
季節が一つ過ぎる頃、ディアナはこの邸の女主人となる。
愛する人と、その娘と、家族になる。
そんな近い未来を想像し、彼女は頬を緩ませ、柔らかく微笑んだ―――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――(了)
これにて完結です。
お読みいただきありがとうございました!
ぽつりと呟き、ディアナは遠くの空へと視線を向けた。
まるで、ここにはいない誰かに向かって言うように。
「それは、君の元夫が身分違いの者を愛したことを言っているのかい?」
「ええ、そうです。身分ばかりは……どうにもなりませんもの」
エーリックもディアナも、簡単には添い遂げられないような相手に恋をした。
だが片方は破滅し、片方はその恋を成就させた。その違いはやはり身分だろう。
「わたくしは既婚歴さえつければ貴方様と添い遂げられた。ですが、彼の人は添い遂げるためには身分を捨てねばなりません。ですが、貴族が平民の生活をすることはかなり難しいですもの……」
自分で身支度すらしたことのない貴族が平民に降る。それがどんなに困難なことかは想像に難くない。
実際、エーリックはドリスに世話してもらわねば食事すらありつけなかったと聞く。
「それもそうだな。だが、君のその……“既婚歴さえつければいい”と簡単に言えてしまえる行動力があったからこそ、私達はこうして一緒になれるのだと思うよ?」
「あら、そうですか……? でもそれは、それだけ貴方様を深く愛しているからですわ」
「ふふ、嬉しいな。私も君を愛しているよ」
貴方と出会ったあの瞬間は、きっと生涯忘れられない。
側妃となった叔母に招待され、初めて足を踏み入れた王宮で貴方と出会った。
心臓が五月蠅いほど高鳴って、のぼせそうなほど体が熱くなり、これが恋なのだと知った瞬間。何が何でもこの方と添い遂げたいと、そう強く願った。
幸いにもこの方と想いを通わせたのに『既婚歴のある自分では君と結ばれることは難しい』と言われ、身を引こうとするこの方を止め、今回の計画を持ち掛けた。
一度は他の殿方の妻となるが、必ず綺麗な身のまま貴方の元へ戻る。だから待っていてほしい、と告げて。
けれど、もし……貴方の身分が平民だったのなら、添い遂げることを諦めたかもしれない。
エーリックのように何とかなると考えられるほど、楽観的ではないのだから。
それは心に留めたまま、ディアナは目の前の最愛の男性に熱を持った視線を送る。
「ディアナ……。そのような目で見つめられたら、このまま君に触れたくなってしまうじゃないか?」
「あら、いけませんわ。あちらでお嬢様が見ておりますのよ?」
視線を向けた先には、花を摘んではしゃぐ幼い女の子がいる。
彼女は大公と前妻の娘。そして結婚後にはディアナの義娘となる。
目が合うと嬉しそうに「おねえしゃま!」と舌足らずな可愛らしい口調でディアナを呼ぶ。
「ふふ、可愛らしいこと。早く一緒に暮らし、共に過ごしたいですね」
「それは嬉しいな。娘も君を大層気に入っているから、一緒に暮らせると告げたらすごく喜んでいたよ」
「まあ、光栄ですわ」
季節が一つ過ぎる頃、ディアナはこの邸の女主人となる。
愛する人と、その娘と、家族になる。
そんな近い未来を想像し、彼女は頬を緩ませ、柔らかく微笑んだ―――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――(了)
これにて完結です。
お読みいただきありがとうございました!
2,189
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。
結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに
「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……
いくつもの、最期の願い
しゃーりん
恋愛
エステルは出産後からずっと体調を崩したままベッドで過ごしていた。
夫アイザックとは政略結婚で、仲は良くも悪くもない。
そんなアイザックが屋敷で働き始めた侍女メイディアの名を口にして微笑んだ時、エステルは閃いた。
メイディアをアイザックの後妻にしよう、と。
死期の迫ったエステルの願いにアイザックたちは応えるのか、なぜエステルが生前からそれを願ったかという理由はエステルの実妹デボラに関係があるというお話です。
大好きだけどお別れしましょう〈完結〉
ヘルベ
恋愛
釣った魚に餌をやらない人が居るけど、あたしの恋人はまさにそれ。
いや、相手からしてみたら釣り糸を垂らしてもいないのに食らいついて来た魚なのだから、対して思い入れもないのも当たり前なのか。
騎士カイルのファンの一人でしかなかったあたしが、ライバルを蹴散らし晴れて恋人になれたものの、会話は盛り上がらず、記念日を祝ってくれる気配もない。デートもあたしから誘わないとできない。しかも三回に一回は断られる始末。
全部が全部こっち主導の一方通行の関係。
恋人の甘い雰囲気どころか友達以下のような関係に疲れたあたしは、思わず「別れましょう」と口に出してしまい……。
私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから
ありがとうございました。さようなら
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。
ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。
彼女は別れろ。と、一方的に迫り。
最後には暴言を吐いた。
「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」
洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。
「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」
彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。
ちゃんと、別れ話をしようと。
ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる