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愛しています
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「最初から、間違っていたんでしょうね……」
ぽつりと呟き、ディアナは遠くの空へと視線を向けた。
まるで、ここにはいない誰かに向かって言うように。
「それは、君の元夫が身分違いの者を愛したことを言っているのかい?」
「ええ、そうです。身分ばかりは……どうにもなりませんもの」
エーリックもディアナも、簡単には添い遂げられないような相手に恋をした。
だが片方は破滅し、片方はその恋を成就させた。その違いはやはり身分だろう。
「わたくしは既婚歴さえつければ貴方様と添い遂げられた。ですが、彼の人は添い遂げるためには身分を捨てねばなりません。ですが、貴族が平民の生活をすることはかなり難しいですもの……」
自分で身支度すらしたことのない貴族が平民に降る。それがどんなに困難なことかは想像に難くない。
実際、エーリックはドリスに世話してもらわねば食事すらありつけなかったと聞く。
「それもそうだな。だが、君のその……“既婚歴さえつければいい”と簡単に言えてしまえる行動力があったからこそ、私達はこうして一緒になれるのだと思うよ?」
「あら、そうですか……? でもそれは、それだけ貴方様を深く愛しているからですわ」
「ふふ、嬉しいな。私も君を愛しているよ」
貴方と出会ったあの瞬間は、きっと生涯忘れられない。
側妃となった叔母に招待され、初めて足を踏み入れた王宮で貴方と出会った。
心臓が五月蠅いほど高鳴って、のぼせそうなほど体が熱くなり、これが恋なのだと知った瞬間。何が何でもこの方と添い遂げたいと、そう強く願った。
幸いにもこの方と想いを通わせたのに『既婚歴のある自分では君と結ばれることは難しい』と言われ、身を引こうとするこの方を止め、今回の計画を持ち掛けた。
一度は他の殿方の妻となるが、必ず綺麗な身のまま貴方の元へ戻る。だから待っていてほしい、と告げて。
けれど、もし……貴方の身分が平民だったのなら、添い遂げることを諦めたかもしれない。
エーリックのように何とかなると考えられるほど、楽観的ではないのだから。
それは心に留めたまま、ディアナは目の前の最愛の男性に熱を持った視線を送る。
「ディアナ……。そのような目で見つめられたら、このまま君に触れたくなってしまうじゃないか?」
「あら、いけませんわ。あちらでお嬢様が見ておりますのよ?」
視線を向けた先には、花を摘んではしゃぐ幼い女の子がいる。
彼女は大公と前妻の娘。そして結婚後にはディアナの義娘となる。
目が合うと嬉しそうに「おねえしゃま!」と舌足らずな可愛らしい口調でディアナを呼ぶ。
「ふふ、可愛らしいこと。早く一緒に暮らし、共に過ごしたいですね」
「それは嬉しいな。娘も君を大層気に入っているから、一緒に暮らせると告げたらすごく喜んでいたよ」
「まあ、光栄ですわ」
季節が一つ過ぎる頃、ディアナはこの邸の女主人となる。
愛する人と、その娘と、家族になる。
そんな近い未来を想像し、彼女は頬を緩ませ、柔らかく微笑んだ―――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――(了)
これにて完結です。
お読みいただきありがとうございました!
ぽつりと呟き、ディアナは遠くの空へと視線を向けた。
まるで、ここにはいない誰かに向かって言うように。
「それは、君の元夫が身分違いの者を愛したことを言っているのかい?」
「ええ、そうです。身分ばかりは……どうにもなりませんもの」
エーリックもディアナも、簡単には添い遂げられないような相手に恋をした。
だが片方は破滅し、片方はその恋を成就させた。その違いはやはり身分だろう。
「わたくしは既婚歴さえつければ貴方様と添い遂げられた。ですが、彼の人は添い遂げるためには身分を捨てねばなりません。ですが、貴族が平民の生活をすることはかなり難しいですもの……」
自分で身支度すらしたことのない貴族が平民に降る。それがどんなに困難なことかは想像に難くない。
実際、エーリックはドリスに世話してもらわねば食事すらありつけなかったと聞く。
「それもそうだな。だが、君のその……“既婚歴さえつければいい”と簡単に言えてしまえる行動力があったからこそ、私達はこうして一緒になれるのだと思うよ?」
「あら、そうですか……? でもそれは、それだけ貴方様を深く愛しているからですわ」
「ふふ、嬉しいな。私も君を愛しているよ」
貴方と出会ったあの瞬間は、きっと生涯忘れられない。
側妃となった叔母に招待され、初めて足を踏み入れた王宮で貴方と出会った。
心臓が五月蠅いほど高鳴って、のぼせそうなほど体が熱くなり、これが恋なのだと知った瞬間。何が何でもこの方と添い遂げたいと、そう強く願った。
幸いにもこの方と想いを通わせたのに『既婚歴のある自分では君と結ばれることは難しい』と言われ、身を引こうとするこの方を止め、今回の計画を持ち掛けた。
一度は他の殿方の妻となるが、必ず綺麗な身のまま貴方の元へ戻る。だから待っていてほしい、と告げて。
けれど、もし……貴方の身分が平民だったのなら、添い遂げることを諦めたかもしれない。
エーリックのように何とかなると考えられるほど、楽観的ではないのだから。
それは心に留めたまま、ディアナは目の前の最愛の男性に熱を持った視線を送る。
「ディアナ……。そのような目で見つめられたら、このまま君に触れたくなってしまうじゃないか?」
「あら、いけませんわ。あちらでお嬢様が見ておりますのよ?」
視線を向けた先には、花を摘んではしゃぐ幼い女の子がいる。
彼女は大公と前妻の娘。そして結婚後にはディアナの義娘となる。
目が合うと嬉しそうに「おねえしゃま!」と舌足らずな可愛らしい口調でディアナを呼ぶ。
「ふふ、可愛らしいこと。早く一緒に暮らし、共に過ごしたいですね」
「それは嬉しいな。娘も君を大層気に入っているから、一緒に暮らせると告げたらすごく喜んでいたよ」
「まあ、光栄ですわ」
季節が一つ過ぎる頃、ディアナはこの邸の女主人となる。
愛する人と、その娘と、家族になる。
そんな近い未来を想像し、彼女は頬を緩ませ、柔らかく微笑んだ―――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――(了)
これにて完結です。
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