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鉱山

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「父は喜んでおりましたよ。予定より早くわたくしが離婚したことで、あの鉱山が手に入ったのですから」

 ディアナは父に離婚の際、鉱山を譲渡する契約を先方と交わすよう持ち掛けた。
 鉱山の話に目の色を変えたセレネ伯爵は二つ返事でそれを了承し、気前よくアルバン子爵家へ融資した。
 ダイヤモンド鉱山で得られる利益に比べれば、融資金など端金だと。

 後はディアナが離婚するのを待つだけ。

 だったのだが……流石の伯爵もまさか結婚式の日にそれが成立するとは、夢にも思わなかった。

「ああ、なんでも採掘量が想像以上だとか。それじゃセレネ伯爵も笑いが止まらないだろうよ」

 どうしてダイヤモンドが採れる鉱山を眠らせておくのか。
 調べていくうちに分かったが、理由はとてもくだらないことだった。

「賃金のことで鉱夫と揉めた挙句に閉鎖って……先代アルバン子爵もどうしようもないな」

 エーリックの祖父、先代アルバン子爵が鉱山を閉鎖した理由は賃金のことで鉱夫と揉めたからだ。
 先代は非常に倹約家だったようで、鉱夫に一般的な水準よりも下の賃金しか支払わなかった。
 そうなると当然彼等からは不平不満が出てくるわけで、それに対し先代はあろうことか激高し「だったらもう閉鎖する!」と言って閉めてしまったそう。

 先代は、鉱山にダイヤモンドが沢山眠っていたことすら知らなかったのかもしれない。
 そもそも、その時代に鉱山で何を採掘していたかの記録すら破棄されていたので、詳細は分からずじまいだ。
 その鉱山さえ閉鎖しなければ、今頃アルバン子爵家は資産家として名を馳せていたかもしれないのに。

「それで、アルバン元子爵令息は今頃愛しの君の元に?」

「ええ、二人仲睦まじく暮らしていることでしょう。添い遂げるために全てを捨ててもよいほど、相思相愛の二人ですもの」

 エーリックをドリスの元まで送り届けた使用人の報告によると、二人は顔を合わせた途端に激しく罵り合ったそうだ。

 お互い、もう相手を見る目が変わってしまったのだろう。
 エーリックにとってドリスは、自分を破滅へと追い込んだ原因のようなもの。
 ドリスにとってエーリックは、捨てたはずの要らない荷物だ。

 もう、互いの間にあるのは愛情ではなく、憎しみなのだろう。

 それでもディアナはエーリックをドリスの元に送り込んだ。
 ドリスが、もうエーリックをいらないであろうことを知ったうえで。
 
 お荷物を抱えては生きていけないと判断し、彼を見捨てたことも理解したうえで。

(あんな恥をかかせてくれたんですもの……)

 平然としているように見えて、ディアナは結婚式という公の場で恥をかかされたことをしっかりと根に持っていた。

 花婿に逃げられた花嫁、としばらく社交界で笑いものにされた恨みは決して忘れない。

 だが、予定より早く愛する人と婚約できたことは感謝している。
 だから命までは見逃してあげることにした。

 そうでなかったなら、今頃二人はとっくに冷たい土の下で仲良く眠ることになっただろう。

 セレネ伯爵家の財力にかかれば、を探すことなど簡単なのだから。

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