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ダニエルの焦り
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オーガスタ辺境伯家当主、ダニエルは焦っていた。
お飾りの妻にするべくジュリアーナ王女と婚約を結んだのだが、彼女はガードが固く一向にこちらに心を奪われないからだ。
(ジュリアーナ王女と既成事実が作れない! いくら誘ってもやんわり断られるし……侍女も護衛もいつもそばにいるから二人きりにもなれないぞ! おかしい、僕の顔に靡かない女性なんていなかったのに!)
ダニエルは見目が非常に整っている。
そのため社交界で女性に言い寄られることも多かったので、自分の美貌には絶対の自信があった。この顔で迫れば女は皆瞳を潤ませて媚びてくると。
だがジュリアーナのダニエルを見る目も態度も常に冷めている。
媚びるどころか呆れたような態度で接してくることが彼には理解できなかった。
初回の逢瀬でも彼女は終始冷めた瞳でダニエルを見ていた。
表向きは微笑みを絶やさなかったが目の奥は少しも笑っていない。
その後何度も逢瀬を重ねたが、それでも彼女との仲は少しも進展しない。
このままでは当初の目的が果たせないとダニエルは焦っていた。
「このままずっと結婚式まで既成事実がつくれなければ、アニーとの子供を私生児として扱わなくてはならないじゃないか! 愛する人との子供を嫡子とできないだなんて……あんまりだ!」
ダニエルこの考えが幼稚で理解不能で実現不可能なものだと全く気づいていない。
彼の残念な頭は『王女と既成事実を作る』→『そのまま領地に連れ帰って監禁する』→『アニーが出産』→『あの時に王女の腹に宿った子だとして王宮に届け出る』→『無事、アニーとの子がオーガスタ家の嫡子として認められる』と幼子あたりが考え付きそうな現実味のないことが本気で上手くいくと思っている。
まず、たとえジュリアーナと既成事実を作ったとしてもそれからアニーの子が産まれるまでたったの数か月しかない。動物の子でもあるまいし、どう考えても辻褄が合わないだろう。
そんな届け出がなされて素直に信じる者がどこにいるというのか。
間違いなく王家から怪しまれても真相が暴かれて全員処刑されるのがオチだ。
己の欲ばかりを優先させる屑にはそれが分からない。
誰が考えても分かるようなことが分からない、分かろうとしない。
何故なら頭の大部分が己の欲で占められているから。
それをやった結果どうなるのかを考える容量が無い残念な頭だから、このような残念極まりない発想しか出来ない。
せめてこのような馬鹿げた企みを止めてくれる者がいればよかった。
いや、正確にはいたことはいたのだが……
「失礼いたします、ダニエル様。今少々よろしいでしょうか?」
「なんだ、シーザー。またお小言でも言いにきたのか?」
執事服を身に着けた青年の姿を見た瞬間ダニエルは嫌そうに顔を歪めた。
「はあ……ダニエル様が紳士としてご立派でしたらわたくしも小言など言わずに済むのですけどね……」
嫌味を返す青年、シーザーはわざとらしくため息をつく。
その小馬鹿にしたような態度にダニエルはカッとなりシーザーへと怒鳴りつけた。
「貴様、使用人風情が当主に向かって不敬だぞ! いつもいつも偉そうに……何様のつもりだ!!」
「ご自分を当主と自覚するのでしたらそれ相応の振る舞いを身に着けてください。婚約者への対応もまともに出来ない方が何をおっしゃいますか。ダニエル様こそ王族相手に不敬極まりない行いばかりなさって……オーガスタ家の名に泥を塗るおつもりですか?」
「な……っ!? き、貴様! 無礼だぞ!」
「無礼は貴方です。聞きましたよ、王女殿下に花束一つ贈っていないようですね?」
「……っ!? お前……それをどこから……」
「社交界でとっくに噂になっていますよ……。オーガスタ家の当主は婚約者に贈り物すらしない吝嗇家であると。このような噂が流れるなど南の守護者たるオーガスタ家の恥にございます。だいたいわたくしめは貴方様に代わり花や菓子、宝飾品等をいつも用意しているはずですよね? 何故それをお渡しにならないのですか?」
「だってアニー以外の女に贈り物なんてしたら浮気になるじゃないか! そんなの不誠実だろう?」
「ご安心を、既に貴方様は不誠実の塊です。浮気も何も正式な辺境伯夫人になるのは王女殿下ですよ? それを分かっていますか? どちらかというとアニー嬢の方が浮気です」
「浮気じゃない!! アニーこそ私が真に愛する女性で妻なんだ!」
「馬鹿も休み休みおっしゃってください。どうせわたくしが用意した贈り物はその愛人の方へと流れているのでしょう? そこまで愛人が大切ならどうして王女殿下に求婚なさったのです?」
「だって……そうしないと叔父上のところのクリストファーに勝てないじゃないか!」
「クリストファー様に勝つ? 何のことです?」
「親戚たちは皆私じゃなくてクリストファーこそ当主に相応しいとしつこいじゃないか! 私の母は下位貴族の令嬢だったのに、クリストファーの母は侯爵令嬢だ。悔しいが血筋では奴の方が上だからな……」
「おっしゃっている意味が分かりませんが……」
ダニエルの言っていることが何一つ分からない。
シーザーは首を傾げ、ふと閃いたように「ああ」と呟く。
お飾りの妻にするべくジュリアーナ王女と婚約を結んだのだが、彼女はガードが固く一向にこちらに心を奪われないからだ。
(ジュリアーナ王女と既成事実が作れない! いくら誘ってもやんわり断られるし……侍女も護衛もいつもそばにいるから二人きりにもなれないぞ! おかしい、僕の顔に靡かない女性なんていなかったのに!)
ダニエルは見目が非常に整っている。
そのため社交界で女性に言い寄られることも多かったので、自分の美貌には絶対の自信があった。この顔で迫れば女は皆瞳を潤ませて媚びてくると。
だがジュリアーナのダニエルを見る目も態度も常に冷めている。
媚びるどころか呆れたような態度で接してくることが彼には理解できなかった。
初回の逢瀬でも彼女は終始冷めた瞳でダニエルを見ていた。
表向きは微笑みを絶やさなかったが目の奥は少しも笑っていない。
その後何度も逢瀬を重ねたが、それでも彼女との仲は少しも進展しない。
このままでは当初の目的が果たせないとダニエルは焦っていた。
「このままずっと結婚式まで既成事実がつくれなければ、アニーとの子供を私生児として扱わなくてはならないじゃないか! 愛する人との子供を嫡子とできないだなんて……あんまりだ!」
ダニエルこの考えが幼稚で理解不能で実現不可能なものだと全く気づいていない。
彼の残念な頭は『王女と既成事実を作る』→『そのまま領地に連れ帰って監禁する』→『アニーが出産』→『あの時に王女の腹に宿った子だとして王宮に届け出る』→『無事、アニーとの子がオーガスタ家の嫡子として認められる』と幼子あたりが考え付きそうな現実味のないことが本気で上手くいくと思っている。
まず、たとえジュリアーナと既成事実を作ったとしてもそれからアニーの子が産まれるまでたったの数か月しかない。動物の子でもあるまいし、どう考えても辻褄が合わないだろう。
そんな届け出がなされて素直に信じる者がどこにいるというのか。
間違いなく王家から怪しまれても真相が暴かれて全員処刑されるのがオチだ。
己の欲ばかりを優先させる屑にはそれが分からない。
誰が考えても分かるようなことが分からない、分かろうとしない。
何故なら頭の大部分が己の欲で占められているから。
それをやった結果どうなるのかを考える容量が無い残念な頭だから、このような残念極まりない発想しか出来ない。
せめてこのような馬鹿げた企みを止めてくれる者がいればよかった。
いや、正確にはいたことはいたのだが……
「失礼いたします、ダニエル様。今少々よろしいでしょうか?」
「なんだ、シーザー。またお小言でも言いにきたのか?」
執事服を身に着けた青年の姿を見た瞬間ダニエルは嫌そうに顔を歪めた。
「はあ……ダニエル様が紳士としてご立派でしたらわたくしも小言など言わずに済むのですけどね……」
嫌味を返す青年、シーザーはわざとらしくため息をつく。
その小馬鹿にしたような態度にダニエルはカッとなりシーザーへと怒鳴りつけた。
「貴様、使用人風情が当主に向かって不敬だぞ! いつもいつも偉そうに……何様のつもりだ!!」
「ご自分を当主と自覚するのでしたらそれ相応の振る舞いを身に着けてください。婚約者への対応もまともに出来ない方が何をおっしゃいますか。ダニエル様こそ王族相手に不敬極まりない行いばかりなさって……オーガスタ家の名に泥を塗るおつもりですか?」
「な……っ!? き、貴様! 無礼だぞ!」
「無礼は貴方です。聞きましたよ、王女殿下に花束一つ贈っていないようですね?」
「……っ!? お前……それをどこから……」
「社交界でとっくに噂になっていますよ……。オーガスタ家の当主は婚約者に贈り物すらしない吝嗇家であると。このような噂が流れるなど南の守護者たるオーガスタ家の恥にございます。だいたいわたくしめは貴方様に代わり花や菓子、宝飾品等をいつも用意しているはずですよね? 何故それをお渡しにならないのですか?」
「だってアニー以外の女に贈り物なんてしたら浮気になるじゃないか! そんなの不誠実だろう?」
「ご安心を、既に貴方様は不誠実の塊です。浮気も何も正式な辺境伯夫人になるのは王女殿下ですよ? それを分かっていますか? どちらかというとアニー嬢の方が浮気です」
「浮気じゃない!! アニーこそ私が真に愛する女性で妻なんだ!」
「馬鹿も休み休みおっしゃってください。どうせわたくしが用意した贈り物はその愛人の方へと流れているのでしょう? そこまで愛人が大切ならどうして王女殿下に求婚なさったのです?」
「だって……そうしないと叔父上のところのクリストファーに勝てないじゃないか!」
「クリストファー様に勝つ? 何のことです?」
「親戚たちは皆私じゃなくてクリストファーこそ当主に相応しいとしつこいじゃないか! 私の母は下位貴族の令嬢だったのに、クリストファーの母は侯爵令嬢だ。悔しいが血筋では奴の方が上だからな……」
「おっしゃっている意味が分かりませんが……」
ダニエルの言っていることが何一つ分からない。
シーザーは首を傾げ、ふと閃いたように「ああ」と呟く。
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