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閑話・王家の密偵ルナの観察日誌②
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「ねえ~ダニエル、そろそろ新しいドレスが欲しいんだけどぉ~」
菓子を口いっぱい頬張りながらアニーが甘えた声でねだる。
口に食べ物を入れたまま喋らないというのは貴族平民問わず最低限のマナーなのでは?とルナは心の中で嘆息した。
「ああ、いいね。今度邸にデザイナーを呼ぼうか。ついでに宝石商も呼んでドレスに合うアクセサリーも買ってやろう」
「きゃあ~! 嬉しい! ありがとうダニエル~!」
(また? この間買ったばかりでしょうに……。大体、社交界に出るわけでもないのにそんなにドレスを新調する必要ある? この領地の税収だってそこまで多いわけでもないのに、無駄遣いして……)
アニーは物欲が人一倍強く、ドレスや宝石をしょっちゅうおねだりしている。
綺麗な物を身につけたいという欲は分からないでもないがお金を湯水のように使うのは見ていていい気はしない。
(というか、デザイナーも工房も今のシーズンは大忙しだから断られるに決まっているじゃないの……。そろそろ社交シーズンよ? 平民よりも貴族夫人や令嬢のドレスや宝飾品を優先するわよ)
今は社交シーズンに向けて工房もデザイナーも非常に多忙な時期である。
彼等にとって社交の場は自分達の商品の展示会のようなものだ。
名のある貴婦人に着てもらい、社交界で宣伝してもらうことによって顧客の増加を狙える。
そんな彼等がこの時期にいくら辺境伯からの依頼といえ社交界に出ることのない愛人へのプレゼントの注文など受けるとは思えない。辺境伯夫人のドレスを作るならまだしも平民の愛人のドレスなんて宣伝にもならないのだから。
(そういう当たり前のことをこの男はちっとも分かっていないのよね。何でこんなに貴族の常識がないの? 嫡男として教育されているはずでしょう?)
礼儀作法は流石辺境伯家の嫡男だけあって優美なものだが、何故か貴族の常識だけは欠落しているように思える。
そのちぐはぐな部分がどうにもおかしくて気味が悪い。
「そういえばアニー、体調はどうだい?」
「うん、ちょっと怠いけど大丈夫だよ~」
「それならよかった。なにせ君のお腹には僕たちの愛の証がいるのだからね。絶対に無理しちゃダメだよ?」
「もちろんよ~! なんせ男の子だったらこの家の跡継ぎだもんね! 大事にしなきゃ。 あ、でも女の子でも可愛いよね!」
「ふふ、そうだね、アニーに似た可愛い女の子もいいよね」
(こいつら殴りたいな……)
持っていたシルバートレイで彼等の頭をカチ割る妄想をしながらルナは冷めた眼でお茶のお代わりを用意した。仕事をしてないとうっかり殺ってしまいそうだ。
(愛人との子供を世継ぎに出来るわけがないって知らないのかしら……。法律で正式な妻との間に生まれた子しか認められないって決まっているわよ それ以外の子は庶子としてみなされるのよ! 馬鹿? 馬鹿なの? うん、知ってた!)
この時点でダニエルは最愛のアニーとの子を跡継ぎに出来ると本気で信じていた。
血統を重視する傾向にあるこの国では正式な妻以外の女性との子以外を跡継ぎとして認めていない。
そもそも選民思想の強い貴族は平民の血が混じった子に家を継がせようとする発想にすら至らないものだ。平民を愛人にするのは珍しくないし、寵愛するのも珍しくないが、それはそれとして後継者には血筋の良い子を重視する傾向にある。
ダニエルのように“愛”のみに重きを置いて愛人との子を跡継ぎにしたがるような甘い考えを持った当主はほぼいない。そんな甘い考えをしていたら他者に足元を掬われると理解しているからだ。
ダニエルがそんな現実を突きつけられ、反省するどころかジュリアーナをお飾りに据えようなどという斜め上の発想に思い至ることになるのは親族を集めた会議が発端であった……。
菓子を口いっぱい頬張りながらアニーが甘えた声でねだる。
口に食べ物を入れたまま喋らないというのは貴族平民問わず最低限のマナーなのでは?とルナは心の中で嘆息した。
「ああ、いいね。今度邸にデザイナーを呼ぼうか。ついでに宝石商も呼んでドレスに合うアクセサリーも買ってやろう」
「きゃあ~! 嬉しい! ありがとうダニエル~!」
(また? この間買ったばかりでしょうに……。大体、社交界に出るわけでもないのにそんなにドレスを新調する必要ある? この領地の税収だってそこまで多いわけでもないのに、無駄遣いして……)
アニーは物欲が人一倍強く、ドレスや宝石をしょっちゅうおねだりしている。
綺麗な物を身につけたいという欲は分からないでもないがお金を湯水のように使うのは見ていていい気はしない。
(というか、デザイナーも工房も今のシーズンは大忙しだから断られるに決まっているじゃないの……。そろそろ社交シーズンよ? 平民よりも貴族夫人や令嬢のドレスや宝飾品を優先するわよ)
今は社交シーズンに向けて工房もデザイナーも非常に多忙な時期である。
彼等にとって社交の場は自分達の商品の展示会のようなものだ。
名のある貴婦人に着てもらい、社交界で宣伝してもらうことによって顧客の増加を狙える。
そんな彼等がこの時期にいくら辺境伯からの依頼といえ社交界に出ることのない愛人へのプレゼントの注文など受けるとは思えない。辺境伯夫人のドレスを作るならまだしも平民の愛人のドレスなんて宣伝にもならないのだから。
(そういう当たり前のことをこの男はちっとも分かっていないのよね。何でこんなに貴族の常識がないの? 嫡男として教育されているはずでしょう?)
礼儀作法は流石辺境伯家の嫡男だけあって優美なものだが、何故か貴族の常識だけは欠落しているように思える。
そのちぐはぐな部分がどうにもおかしくて気味が悪い。
「そういえばアニー、体調はどうだい?」
「うん、ちょっと怠いけど大丈夫だよ~」
「それならよかった。なにせ君のお腹には僕たちの愛の証がいるのだからね。絶対に無理しちゃダメだよ?」
「もちろんよ~! なんせ男の子だったらこの家の跡継ぎだもんね! 大事にしなきゃ。 あ、でも女の子でも可愛いよね!」
「ふふ、そうだね、アニーに似た可愛い女の子もいいよね」
(こいつら殴りたいな……)
持っていたシルバートレイで彼等の頭をカチ割る妄想をしながらルナは冷めた眼でお茶のお代わりを用意した。仕事をしてないとうっかり殺ってしまいそうだ。
(愛人との子供を世継ぎに出来るわけがないって知らないのかしら……。法律で正式な妻との間に生まれた子しか認められないって決まっているわよ それ以外の子は庶子としてみなされるのよ! 馬鹿? 馬鹿なの? うん、知ってた!)
この時点でダニエルは最愛のアニーとの子を跡継ぎに出来ると本気で信じていた。
血統を重視する傾向にあるこの国では正式な妻以外の女性との子以外を跡継ぎとして認めていない。
そもそも選民思想の強い貴族は平民の血が混じった子に家を継がせようとする発想にすら至らないものだ。平民を愛人にするのは珍しくないし、寵愛するのも珍しくないが、それはそれとして後継者には血筋の良い子を重視する傾向にある。
ダニエルのように“愛”のみに重きを置いて愛人との子を跡継ぎにしたがるような甘い考えを持った当主はほぼいない。そんな甘い考えをしていたら他者に足元を掬われると理解しているからだ。
ダニエルがそんな現実を突きつけられ、反省するどころかジュリアーナをお飾りに据えようなどという斜め上の発想に思い至ることになるのは親族を集めた会議が発端であった……。
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