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閑話・王家の密偵ルナの観察日誌
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ジュリアーナ王女よりオーガスタ家の監視と調査の命を受けた王家専属密偵ルナ。
彼女は己の常識が通じないこの家にうんざりしていた。
「ルナ、旦那様とアニー様がサロンにいらっしゃるからお茶を運んでちょうだい」
「はい、畏まりましたメイド長様」
「助かるわ、ルナは嫌な顔ひとつしないでアニー様の世話をしてくれるもの。他の子は嫌がるからね……それも仕方ないのだけど」
この家の使用人の全員がアニーを歓迎しているわけではない。
特にメイドのほとんどは貴族家出身なので平民相手に傅かなければならないことに嫌悪を示している。
まあ、そもそもが貴族の本邸で平民を奥様扱いするなんてのはありえない状況だ。
メイド長も貴族家出身で彼女達の気持ちも分かるので無理強いをするつもりはなさそうだ。むしろどうして自分達があんな平民の小娘に使われなきゃいけないのかと憤りを感じている。
「いえ、皆さまのお気持ちもわかりますわ。わたくしは大丈夫ですので、何なりとお申し付けください」
にっこりと微笑みその場を後にする。
侍女達がアニーの世話を嫌がるので必然的にルナが彼女の専属のような扱いになっている。まあ、これも密偵の立場としては好都合だが。
(それにしても……何でよりによってあの娘なのかしら? 辺境伯の審美眼ってどうなってんの?)
初めてこの家で愛人のアニーを見たときのルナの衝撃は相当なものだった。
というのも、ルナも密偵として数々の家に潜入し、愛人という存在もたくさん見てきたがアニーはそれとは一線を画していたからだ。
通常、貴族の愛人といえば容姿が優れている場合がほとんどだ。
だが、アニーはお世辞にもそうだとは言えない。
(なんだってあんな平凡な田舎娘を見初めたのかしらね……?)
アニーは垢ぬけない容姿に凹凸のない身体、しかもマナーも教養も全くないうえに頭もそんなによろしくない。
なのに、当主はあろうことか彼女を妻として扱うように使用人へ強要している。
控えめに言って頭がおかしい。
そもそもこの国では貴族と平民との婚姻は法律で禁じられている。
せめて片方の親が貴族ならなんとかなったが、アニーは両親とも間違いなく平民だそうだ。実は貴族の落胤だとかそういうことは一切ない。それを当主が邸に連れ込んで奥様扱いするからまともな神経の使用人は主人の奇行にうんざりしている。
「いやぁ~ん、ダニエルったらぁ~!」
扉の外まで阿呆な声が聞こえてルナはげんなりした。
どうやらサロンの中ではダニエルとアニーが乳繰り合っているらしい。
「失礼します、お茶をお持ちしました」
中から「入れ」と入室の許可を貰ったので、深呼吸してから扉を開けた。
すると、ダニエルと着衣の乱れたアニーがいちゃついている姿が視界に入り思わず目を背けてしまう。
(昼間からよくやるわね……。所かまわず盛るなんて貴方たちは獣なの?)
人が乳繰り合っている様なぞ見たくもない。
せめてこれが主人のジュリアーナ王女くらいの美女ならまだしも、美しくもない平民の小娘だ。頻繁にこういうことをしているから他のメイドたちも世話を嫌がるのだ。
「ほら、アニー、お茶がきたよ。 一旦休憩しようか」
「ん~、そうね、喉乾いちゃった!」
(休憩って……アンタらここで何やっていたの?)
下品だ、と心の底からそう思いながらもそれを表情に出さずにルナは黙々とお茶を用意する。それをダニエルは品よく音を立てずに飲み、一方のアニーは啜るような音を立てて飲み始めた。
(うわっ……下品)
アニーの品の無いお茶の飲み方にルナは思わず顔を顰めてしまった。
彼女は己の常識が通じないこの家にうんざりしていた。
「ルナ、旦那様とアニー様がサロンにいらっしゃるからお茶を運んでちょうだい」
「はい、畏まりましたメイド長様」
「助かるわ、ルナは嫌な顔ひとつしないでアニー様の世話をしてくれるもの。他の子は嫌がるからね……それも仕方ないのだけど」
この家の使用人の全員がアニーを歓迎しているわけではない。
特にメイドのほとんどは貴族家出身なので平民相手に傅かなければならないことに嫌悪を示している。
まあ、そもそもが貴族の本邸で平民を奥様扱いするなんてのはありえない状況だ。
メイド長も貴族家出身で彼女達の気持ちも分かるので無理強いをするつもりはなさそうだ。むしろどうして自分達があんな平民の小娘に使われなきゃいけないのかと憤りを感じている。
「いえ、皆さまのお気持ちもわかりますわ。わたくしは大丈夫ですので、何なりとお申し付けください」
にっこりと微笑みその場を後にする。
侍女達がアニーの世話を嫌がるので必然的にルナが彼女の専属のような扱いになっている。まあ、これも密偵の立場としては好都合だが。
(それにしても……何でよりによってあの娘なのかしら? 辺境伯の審美眼ってどうなってんの?)
初めてこの家で愛人のアニーを見たときのルナの衝撃は相当なものだった。
というのも、ルナも密偵として数々の家に潜入し、愛人という存在もたくさん見てきたがアニーはそれとは一線を画していたからだ。
通常、貴族の愛人といえば容姿が優れている場合がほとんどだ。
だが、アニーはお世辞にもそうだとは言えない。
(なんだってあんな平凡な田舎娘を見初めたのかしらね……?)
アニーは垢ぬけない容姿に凹凸のない身体、しかもマナーも教養も全くないうえに頭もそんなによろしくない。
なのに、当主はあろうことか彼女を妻として扱うように使用人へ強要している。
控えめに言って頭がおかしい。
そもそもこの国では貴族と平民との婚姻は法律で禁じられている。
せめて片方の親が貴族ならなんとかなったが、アニーは両親とも間違いなく平民だそうだ。実は貴族の落胤だとかそういうことは一切ない。それを当主が邸に連れ込んで奥様扱いするからまともな神経の使用人は主人の奇行にうんざりしている。
「いやぁ~ん、ダニエルったらぁ~!」
扉の外まで阿呆な声が聞こえてルナはげんなりした。
どうやらサロンの中ではダニエルとアニーが乳繰り合っているらしい。
「失礼します、お茶をお持ちしました」
中から「入れ」と入室の許可を貰ったので、深呼吸してから扉を開けた。
すると、ダニエルと着衣の乱れたアニーがいちゃついている姿が視界に入り思わず目を背けてしまう。
(昼間からよくやるわね……。所かまわず盛るなんて貴方たちは獣なの?)
人が乳繰り合っている様なぞ見たくもない。
せめてこれが主人のジュリアーナ王女くらいの美女ならまだしも、美しくもない平民の小娘だ。頻繁にこういうことをしているから他のメイドたちも世話を嫌がるのだ。
「ほら、アニー、お茶がきたよ。 一旦休憩しようか」
「ん~、そうね、喉乾いちゃった!」
(休憩って……アンタらここで何やっていたの?)
下品だ、と心の底からそう思いながらもそれを表情に出さずにルナは黙々とお茶を用意する。それをダニエルは品よく音を立てずに飲み、一方のアニーは啜るような音を立てて飲み始めた。
(うわっ……下品)
アニーの品の無いお茶の飲み方にルナは思わず顔を顰めてしまった。
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