20 / 86
閑話・王家の密偵ルナの観察日誌
しおりを挟む
ジュリアーナ王女よりオーガスタ家の監視と調査の命を受けた王家専属密偵ルナ。
彼女は己の常識が通じないこの家にうんざりしていた。
「ルナ、旦那様とアニー様がサロンにいらっしゃるからお茶を運んでちょうだい」
「はい、畏まりましたメイド長様」
「助かるわ、ルナは嫌な顔ひとつしないでアニー様の世話をしてくれるもの。他の子は嫌がるからね……それも仕方ないのだけど」
この家の使用人の全員がアニーを歓迎しているわけではない。
特にメイドのほとんどは貴族家出身なので平民相手に傅かなければならないことに嫌悪を示している。
まあ、そもそもが貴族の本邸で平民を奥様扱いするなんてのはありえない状況だ。
メイド長も貴族家出身で彼女達の気持ちも分かるので無理強いをするつもりはなさそうだ。むしろどうして自分達があんな平民の小娘に使われなきゃいけないのかと憤りを感じている。
「いえ、皆さまのお気持ちもわかりますわ。わたくしは大丈夫ですので、何なりとお申し付けください」
にっこりと微笑みその場を後にする。
侍女達がアニーの世話を嫌がるので必然的にルナが彼女の専属のような扱いになっている。まあ、これも密偵の立場としては好都合だが。
(それにしても……何でよりによってあの娘なのかしら? 辺境伯の審美眼ってどうなってんの?)
初めてこの家で愛人のアニーを見たときのルナの衝撃は相当なものだった。
というのも、ルナも密偵として数々の家に潜入し、愛人という存在もたくさん見てきたがアニーはそれとは一線を画していたからだ。
通常、貴族の愛人といえば容姿が優れている場合がほとんどだ。
だが、アニーはお世辞にもそうだとは言えない。
(なんだってあんな平凡な田舎娘を見初めたのかしらね……?)
アニーは垢ぬけない容姿に凹凸のない身体、しかもマナーも教養も全くないうえに頭もそんなによろしくない。
なのに、当主はあろうことか彼女を妻として扱うように使用人へ強要している。
控えめに言って頭がおかしい。
そもそもこの国では貴族と平民との婚姻は法律で禁じられている。
せめて片方の親が貴族ならなんとかなったが、アニーは両親とも間違いなく平民だそうだ。実は貴族の落胤だとかそういうことは一切ない。それを当主が邸に連れ込んで奥様扱いするからまともな神経の使用人は主人の奇行にうんざりしている。
「いやぁ~ん、ダニエルったらぁ~!」
扉の外まで阿呆な声が聞こえてルナはげんなりした。
どうやらサロンの中ではダニエルとアニーが乳繰り合っているらしい。
「失礼します、お茶をお持ちしました」
中から「入れ」と入室の許可を貰ったので、深呼吸してから扉を開けた。
すると、ダニエルと着衣の乱れたアニーがいちゃついている姿が視界に入り思わず目を背けてしまう。
(昼間からよくやるわね……。所かまわず盛るなんて貴方たちは獣なの?)
人が乳繰り合っている様なぞ見たくもない。
せめてこれが主人のジュリアーナ王女くらいの美女ならまだしも、美しくもない平民の小娘だ。頻繁にこういうことをしているから他のメイドたちも世話を嫌がるのだ。
「ほら、アニー、お茶がきたよ。 一旦休憩しようか」
「ん~、そうね、喉乾いちゃった!」
(休憩って……アンタらここで何やっていたの?)
下品だ、と心の底からそう思いながらもそれを表情に出さずにルナは黙々とお茶を用意する。それをダニエルは品よく音を立てずに飲み、一方のアニーは啜るような音を立てて飲み始めた。
(うわっ……下品)
アニーの品の無いお茶の飲み方にルナは思わず顔を顰めてしまった。
彼女は己の常識が通じないこの家にうんざりしていた。
「ルナ、旦那様とアニー様がサロンにいらっしゃるからお茶を運んでちょうだい」
「はい、畏まりましたメイド長様」
「助かるわ、ルナは嫌な顔ひとつしないでアニー様の世話をしてくれるもの。他の子は嫌がるからね……それも仕方ないのだけど」
この家の使用人の全員がアニーを歓迎しているわけではない。
特にメイドのほとんどは貴族家出身なので平民相手に傅かなければならないことに嫌悪を示している。
まあ、そもそもが貴族の本邸で平民を奥様扱いするなんてのはありえない状況だ。
メイド長も貴族家出身で彼女達の気持ちも分かるので無理強いをするつもりはなさそうだ。むしろどうして自分達があんな平民の小娘に使われなきゃいけないのかと憤りを感じている。
「いえ、皆さまのお気持ちもわかりますわ。わたくしは大丈夫ですので、何なりとお申し付けください」
にっこりと微笑みその場を後にする。
侍女達がアニーの世話を嫌がるので必然的にルナが彼女の専属のような扱いになっている。まあ、これも密偵の立場としては好都合だが。
(それにしても……何でよりによってあの娘なのかしら? 辺境伯の審美眼ってどうなってんの?)
初めてこの家で愛人のアニーを見たときのルナの衝撃は相当なものだった。
というのも、ルナも密偵として数々の家に潜入し、愛人という存在もたくさん見てきたがアニーはそれとは一線を画していたからだ。
通常、貴族の愛人といえば容姿が優れている場合がほとんどだ。
だが、アニーはお世辞にもそうだとは言えない。
(なんだってあんな平凡な田舎娘を見初めたのかしらね……?)
アニーは垢ぬけない容姿に凹凸のない身体、しかもマナーも教養も全くないうえに頭もそんなによろしくない。
なのに、当主はあろうことか彼女を妻として扱うように使用人へ強要している。
控えめに言って頭がおかしい。
そもそもこの国では貴族と平民との婚姻は法律で禁じられている。
せめて片方の親が貴族ならなんとかなったが、アニーは両親とも間違いなく平民だそうだ。実は貴族の落胤だとかそういうことは一切ない。それを当主が邸に連れ込んで奥様扱いするからまともな神経の使用人は主人の奇行にうんざりしている。
「いやぁ~ん、ダニエルったらぁ~!」
扉の外まで阿呆な声が聞こえてルナはげんなりした。
どうやらサロンの中ではダニエルとアニーが乳繰り合っているらしい。
「失礼します、お茶をお持ちしました」
中から「入れ」と入室の許可を貰ったので、深呼吸してから扉を開けた。
すると、ダニエルと着衣の乱れたアニーがいちゃついている姿が視界に入り思わず目を背けてしまう。
(昼間からよくやるわね……。所かまわず盛るなんて貴方たちは獣なの?)
人が乳繰り合っている様なぞ見たくもない。
せめてこれが主人のジュリアーナ王女くらいの美女ならまだしも、美しくもない平民の小娘だ。頻繁にこういうことをしているから他のメイドたちも世話を嫌がるのだ。
「ほら、アニー、お茶がきたよ。 一旦休憩しようか」
「ん~、そうね、喉乾いちゃった!」
(休憩って……アンタらここで何やっていたの?)
下品だ、と心の底からそう思いながらもそれを表情に出さずにルナは黙々とお茶を用意する。それをダニエルは品よく音を立てずに飲み、一方のアニーは啜るような音を立てて飲み始めた。
(うわっ……下品)
アニーの品の無いお茶の飲み方にルナは思わず顔を顰めてしまった。
1,503
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?
雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。
理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。
クラリスはただ微笑み、こう返す。
「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」
そうして物語は終わる……はずだった。
けれど、ここからすべてが狂い始める。
*完結まで予約投稿済みです。
*1日3回更新(7時・12時・18時)
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる