やりなおしジュリアーナ姫の復讐劇

わらびもち

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閑話 計画性の無いダニエル②

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「どうも精神的な負荷が原因のようですね。お腹の子に障りますのであまり興奮してはいけませんよ」

 とりあえず腹の子は無事なようでダニエルは安堵した。

「臨月ですし、もういつ産まれてもおかしくないですね。諸々の準備をしておいた方がよろしいかと」

「もう産まれそうなのか……? そんな、まだ、準備が済んでいないのに……」

「おや、それはいけませんね。いざという時に慌てないよう早々に準備を進めませんと」

 同じ“準備”という言葉でも二人の発言の意味はまるで違っていた。
医師は一般的なお産の準備について言っているのだが、ダニエルはアニーの子を王女の子とするための小細工の“準備”について言っている。しかし、そんなことは知らない医師は診察を終えると「では、失礼します」と退出した。

「どうしたらいいんだ…………」

 疲れて眠っているアニーを起こさないようにダニエルは小声で呟いた。
 このまま腹の子が産まれてしまえばその子は私生児となってしまう。それでは跡継ぎにも出来ないし、オーガスタ家の子としても認められない。

「もうこうなったら監禁は諦めて既成事実を作ってしまおうか……。本当に孕ませてしまえば結婚も早まるだろうし……」

 名案だ、とばかりにダニエルは目を輝かせた。
 そういえば元々既成事実を作って結婚を早めるつもりだったと思い出す。
 邸に訪問した王女をどうにかして監禁することばかり考えていたせいですっかりそのことを失念していた。計画性がないので行動に一貫性がなく、その場の成り行きに任せているような性格では策を練ること自体がそもそも無理なのだ。

 しかし、そのことにダニエルは気づかない。
 客観的に自分を見ることも出来ず、かといって他者の忠告を聞くわけでもないのでいつまで経っても自分の愚かさに気づけない。それどころか己を策士だと勘違いしている節がある。

「……そうだな、そうしよう。よし! では、早速本邸へと戻るか!」

 そういえばアニーの腹が大きくなってからは閨事もご無沙汰だ、と下世話なことを考えた。王女の顔はが、身体つきは中々のものだし構わないかと最低な妄想で顔をニヤつかせる。

「うわ…………。あの、旦那様、本日のお夕食のメニューはいかがなさいますか?」

 部屋に入って来た使用人があまりにも気持ち悪い主人の表情に思わず嫌そうな顔をした。
 
「夕食は不要だ。私はこれから本邸へと戻るからな」

「え…………?」

 アニーがこんな状態なのに傍にいないつもりかと非難の目を向けるが、鈍いダニエルには通じない。癇癪持ちのアニーが起きて恋人がいないのを知ったらまた興奮して手がつけられない状態になるかもしれないのに……と使用人は主人に対して悪態をつきそうになった。

「しかし……目が覚めて旦那様がいないと知ればアニー様が悲しまれます」

 面倒くさい女を置いて自分だけ逃げる気かよ、と言いたいのをグッと堪えて使用人は何とかダニエルを引き留めようとした。面倒な女を相手にしたくないというのもそうだが、こんな状態の妊婦を平気で置いていくとは配慮が足らない。男としても腹の子の父親としても責任感が足らないのではと呆れてしまう。

「私にはやることがある。アニーもきっと分かってくれるさ」

 分かんねえよ! そんな物分かりのいい女じゃないことは見ただけで分かるじゃねえか!?

 ダニエルの頓珍漢な回答に使用人は思わず主人に向かって暴言を吐くところだった。
 この男の目にはこの頭の悪い女が才女にでも見えているのか。
 目玉がカエルの卵で出来ているのかと詰め寄りたい。

「しかしながら……もういつ産まれてもおかしくない状態です。アニー様も出産時に旦那様がお傍にいないと心細いでしょう」

「ははっ、何を言っている? 産むのは女の仕事だろう? 男の私に出来ることなど何もないではないか」

 うわっ……こいつ男が言ってはいけない台詞五本の指に入るようなことを平気で言いやがった……。こんな人としても男としても駄目な奴が領主とか、この領地終わっている……と使用人は軽く絶望した。

 何故かウキウキした様子で邸を出るダニエルの後ろ姿に向かって使用人は聞こえないほどの小声で吐き捨てた。

「どうなっても知らねえぞ…………」

 それが何に対してなのかは使用人自体もよく分からなかった。
 
 だが、何となくダニエルが不在の間によくないことが起こる。
 そんな予感がしてならなかった……。
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