やりなおしジュリアーナ姫の復讐劇

わらびもち

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味方を奪う

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「見事な采配でございました、姫様」

 部屋の中で温かいお茶を味わうジュリアーナに侍女が菓子を取り分けながら称賛の言葉を告げる。白磁の皿に盛られた焼き菓子をほっそりとした指先で摘まんだジュリアーナはそれをゆっくりと口に入れた。

「オーガスタ家の騎士達はこの上なく喜んでおりましたね。王族という尊き身でありながら一介の騎士にもお声がけされるとは……まこと姫様はお優しくご立派な御方にございます」

 感激のあまり涙ぐむ侍女の顔をまともに見られなかった。
 あまりにも気まずくて。
 だってあの行動は善意ではなく、とあるだけにしたことだから。

 騎士団を訪れたジュリアーナは賛辞の言葉のみならず自分の資産から騎士達へ褒賞として金貨を数枚与えた。王家の姫が手ずから自分達の為に心を砕いてくれたことに騎士達は感涙の涙を零し、感激のあまり膝から崩れ落ちる物まで出たほどだ。

 それはただ単に金が貰えて嬉しいというのではなく、王族から直接労をねぎらわれたことにこの上ない喜びを感じたのだろう。騎士にとって王族とは崇拝の対象であるのだから。

 そんな崇拝の対象を敬うどころか見下して利用して害しようとするダニエルはいったい何なのだろうか。どれだけ考えてもあの男の思考はこちらの理解や常識を超える。

 客観的に見ればジュリアーナの行動は国の為に尽くした騎士を労うという、王族として実に立派な振る舞いだ。しかし、彼女はただ善意でこれを行ったわけではない。騎士達のダニエルへの不満を増幅させるためにこのような行動に出たのだ。

『本来でしたらもっと多くの金貨が分け与えられるはずなのですが……ダニエル卿がわたくしを望んだばかりにそれも成されず……』
 
 そうポツリと零した瞬間、騎士達の顔が強張るのをジュリアーナは見逃さなかった。
 ダニエルが王へ戦勝の褒美に王女を望んだせいでオーガスタ家は十分な褒賞金を得られず、当然騎士達への褒美も一切無かったらしい。頑張ったのに何も褒美は無しとなれば配下が不満を抱くのも当然で、そんな自分勝手な主君に対して不満を抱くのも当然だ。
 
 褒美の金がどれくらい分配されるのかは当主の采配次第だが、王女が「もっと多く貰えたはず」と口にすればこれ以上の金貨が与えられるはずだったのかとますます不満を抱くだろう。そしてその矛先は主君であるダニエルへと向かう。

 元から抱いていた不満が増幅され、彼等の耐え切れず思わず零れてしまった愚痴を聞くことができた。

『あいつ……後衛のに、いけしゃあしゃあと褒美をねだりやがって……』

『実際に……ちゃっかり英雄と呼ばれて、許せねえ……』

 うっかり漏れ出た不満の声にオーガスタ子爵は慌てて「殿下の御前であるぞ! 私語は慎め!」と声を荒げたが既に遅い。一番知りたかったことはしっかりと聞かせてもらった。

 ジュリアーナはずっとダニエルが“英雄”と謳われていることに疑問を感じていたのだ。
 こんな頭が悪くて先を見通すことの出来ない奴が戦の指揮をとることが出来るのかと。
 いくら剣の腕が優れていようとも一人の武力で大多数の軍勢に圧勝することは難しいだろう。そんなことが出来るのは物語の世界だけだ。

 彼等の話が真実であれば実質騎士団を率いているのも、武勲を立てたのもダニエルではなく叔父のオーガスタ子爵だ。英雄と称賛され王から勲章を授与されるべきは子爵のはず。しかもダニエルは戦線にも出ていないというのであればまさに『他人の功績を横取りした』といって過言は無い。実際はどうあれそうでっち上げてあの男の立場を貶めるはずだったのだが、まさか真実だとは驚きだ。

 しかしそうなるとオーガスタ騎士団の抱える不満は相当なものだろう。
 自分達を率いてくれた子爵の功績を自分の手柄のように横取りし、挙句の果てに配下の者に十分な褒美も与えない。こんな己の欲しか頭にない恥知らずの男を主君と仰ぐことに抵抗を感じないわけがない。

 それでいい。配下に不信感を持たれ、ダニエルを孤立させることが目的だったのだから。
 騎士団だけではない、あの男の周りの人間全てを奪い孤立させてやる。
 
 かつてジュリアーナから全ての味方を奪ったように、今度はあの男から全ての味方を奪ってやる。それだけではなく、地位も身分も尊厳も全て奪ってやらねば気が済まない。

「姫様? 菓子はお口に合いませんでしたか?」

 菓子を食す手が不意に止まったジュリアーナを侍女は気遣わしげな様子で顔を覗き込んだ。

「あ……いえ、少しぼうっとしていただけよ。お菓子はとても美味だわ」

「もしやお疲れなのではありませんか? ここに来てから婚約者様の非常識な言動が目立ちますし……心労が溜まったのかもしれません。よろしければ少しお休みになられた方がよろしいかと」

「そうね……その通りだわ。少し疲れたからこれを戴いたら休むことにするわ」

 言われてみれば確かに疲労感はある。
 ダニエルの非常識な言動もそうだが最近やることが多くて夜遅くまで起きていることが多いため睡眠時間は足りていない。

 お茶を飲み終え、午睡のために寝室へ向かおうとしたら急に扉の外が騒がしくなった。

「王女殿下! ただいま戻りました。私が不在で寂しい想いをさせて申し訳ありません!」

「……………………は?」

 扉の方に目を遣ると、そこにはジュリアーナに心労をかけた張本人が何故か誇らしげな顔で立っていた……。
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