やりなおしジュリアーナ姫の復讐劇

わらびもち

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 何だこいつ……。

 ダニエルの奇天烈な言動に思わずジュリアーナは王女にあるまじき言葉遣いを口にするところだった。

「オーガスタ卿! 女性の部屋に押し入るとはあまりにも無礼ではありませんか!」

 あまりの奇行に茫然としていたジュリアーナの代わりに侍女がダニエルを非難した。
 紳士であれと教育されている貴族の男性がノックも無しに女性の部屋に押し入るとは非常識にも程がある。いくらここがオーガスタ家所有の客室だといって無礼を働いていい理由にはならないというのに。

「はは、これは失礼。はやる気持ちを抑えられなかったもので」

 場違いなまでに爽やかな笑顔を浮かべるダニエル。
 女性の、しかも王族の姫の部屋に押し入った輩のする顔ではない。

「王女殿下、先日は失礼いたしました」

「先日……? ああ、貴方にやけに親しい仲のご婦人がいるという件でしょうか? 確か……“アニー”というお名前の方だったわね。あれから今までご不在だったのはその“アニー”嬢のもとへ行っていらしたの?」

 精一杯皮肉を込めたというのにダニエルは気にする素振りすらなくやけにキザったらしい仕草で髪をかき上げる。それにイラッとしたジュリアーナは思わず眉をひそめた。

「……申し訳ございません。嫉妬させてしまいましたね……」

 憂いを帯びた表情をするダニエルに殺意が湧き上がる。
 何だこの絶妙に気持ちの悪い男は。

「何を勘違いなされているかは知りませんが、好意もないのに嫉妬などするはずありませんわ。ご安心なさって」

「え……? 好意がない……?」

 今度は何故か傷ついた顔をする男にますます苛立ちが募る。
 何がしたいのだこの男は。言動が理解不能なことは今に始まってことではないが、よく分からない茶番に巻き込まないでほしい。不愉快だ。

「申し訳ありませんけど、わたくし少々疲れておりますの。休みたいのでお引き取りいただいてよろしいかしら?」

 急にショックを受けたように呆然とするダニエルに不愉快な顔を隠しもせず告げるジュリアーナだが、目の前の男は一向に出て行こうとしない。我慢の限界がきて護衛騎士にダニエルを追い出すよう命じ、無理やり出してもらった。

「…………姫様、大丈夫でございますか?」

「ええ……今のやりとりでますます疲労が蓄積されたわ。いったい何だったのかしら?」

「さあ……わたくしめにもさっぱり分かりません。それにしても簡単に部屋への侵入を許すとは……外にいる護衛騎士に厳しく申し付けて参ります。姫様の御身に何かあっては大変ですので」

 御身、という言葉にハッとなった。
 そういえば以前はしつこくあの男に肉体関係を迫られていたことを思い出す。
 オーガスタ家への訪問が決まってからはパタリと止んでいたからすっかり忘れていたが、今の態度はあの時とよく似ている。

(まさか……既成事実を作って結婚を早めようと……?)

 今のところ結婚の時期は明確に決まっていない。
 最低一年とは言ったが、それは唯の目安だ。嫁ぎ先の部屋の模様替えすら出来ない現状では結婚の日取りが決まるかすら怪しい。

 だというのに、何を勘違いしているのかあの男は既成事実さえ作ってしまえば結婚を早められると思っているようだ。しかしただ婚約者とそういう関係になったからといって結婚が早まるわけではない。妊娠でもしない限りは……

(え……まさか、わたくしを身籠らせるつもり……?)

 その考えに至った瞬間全身に鳥肌が立った。
 ただ既成事実を作ろうとしているのではなく、妊娠させることが目的だとしたら……最悪だ。この世で一番憎んでいる相手の子を身籠るなど考えただけで悍ましい。

(そもそもアニーという真実の愛の相手がいるのに他の女に手を出そうとすることが悍ましいわ。わたくしを利用してまで貫きたい愛なら不貞を働こうとするんじゃないわよ……)

 婚約者は自分なのに不貞というのはおかしな話だが、周囲を巻き込んでまで貫きたいほどアニーを愛しているのなら余所見するなと言いたい。最愛がいながら他の女に触れようとするダニエルにますます嫌悪感が募る。愛する人への一途さ以外にいいところなどないというのに見損なった。

 疲れに加えてダニエルへのますますの失望に怒りが増す。
 あまりの苛立ちに眩暈を覚え、急に視界が暗転した。

「姫様っ!?」

 慌てふためく侍女の声を聞きながらジュリアーナはその場に倒れ伏した。
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