やりなおしジュリアーナ姫の復讐劇

わらびもち

文字の大きさ
44 / 86

正当な理由

しおりを挟む
「はああ!? ふざけるな! オーガスタ辺境伯の直系は私だ! 傍系でしかない叔父上にそんなことを言う権利はない!」

「権利ならある。当主を除いた一族全ての署名とがあればお前を罷免することが可能だ」

「正当な理由だと……? まさかアニーのことか? ふん、たかが愛人一人いるくらい貴族なら普通のことだろう? そんなことが当主を下ろす正当な理由になるものか!」

 不遜な態度で叔父を見返すダニエルだが、叔父は変わらず厳しい目を向けたまま。
 少しも怯まぬその態度に気圧されそうになる。

「そうだな。愛人の存在は不敬ではあるが当主の座を退くほどのものではない。だが、お前が先の戦でについてはどうかな?」

「…………っ!!?」

 ダニエルの顔色が一気に青褪める。
 それまで勝ち誇っていた態度が一変してだらだらと冷や汗を流し始めた。

「ひ、卑怯だぞ、そんな真似……」

「卑怯? それはどちらだ? 当主として箔をつけるためと私の功績をさも自分の手柄のように豪語したお前だと思うがな。補佐でしかない私が戦の功労者となるより指揮官であるお前が手柄を得た方がよいと思ったのが間違いだった。王女殿下にこれほどまでのご迷惑をおかけすると分かっていれば断っていたものを……。そもそもお前は殿下に求婚すると事前に相談もなかったよな?」

「いや、それは……」

 不味い、とダニエルは焦りだした。
 叔父の功績を横取りしたことを国王が知れば世間の彼への評価はがた落ちだ。
 偽りの英雄、臆病者、卑怯者。そうやって世間に罵倒される様がありありと頭に浮かぶ。

「お前は指導者としての力量に欠ける。あの戦でお前が下手な指示を出して戦線が崩壊することを避けたかったゆえ、お前が戦場に立たないことを黙認したのが間違いだった。お前はまだ若い。いつか立派な指揮官になってくれるはずだと甘い事を考えるのではなかった……」

「下手な指示だと!? 馬鹿にするな! もし私が戦場に出ていたら叔父上の功績を貰わなくとも一騎当千の戦いぶりを披露しただろうよ!」

「……ああ、そうかもしれないな。だが、お前は出なかった。その事実が全てだよ。しかも愛人の為というくだらない理由でな……」

 ダニエルが先の戦に出なかった理由、それはアニーの為だ。
 先の戦は中々に厳しいものになると予想され、もし自分が戦死したら愛人でしかないアニーは身重のまま邸から放り出されてしまう。いくら味方となる使用人がいたとしても、一族の者より遥かにその立場は弱い。とてもアニーを守れるとは思えないばかりか、味方となった彼等ごと邸から放り出されてしまうだろう。

 アニーを置いて逝くわけにはいかない。
 
 自分が死んでしまえばアニーと腹の子は誰が守る?

 ダニエルの心は騎士の矜持である“国を守ること”から“アニーを守ること”に移行した。
 国を守ることは他の者に任せればよいが、アニーのことは誰にも任せられない。
 騎士の誓いを放棄し愛に狂った男には恥という概念は存在しないのか、ダニエルは平然とした顔で戦の間ずっとテントに避難していたのだ。指揮官という立場にありながら……。

「だって……仕方ないだろう? 私が死んだら誰がアニーを守るというんだ。叔父上も一族の者も絶対に守ってくれないだろう? だから私は死ぬわけにはいかなかった……」

「そうだな……守るつもりはないよ。お前の妻ならば必ずお守りするが、ただの愛人を守る義務などないからな。私もあの戦で勝つことしか考えていなかったからお前が戦線を離脱していることを許してしまった。……正直、未熟なお前よりも私が指揮した方勝率は高い。結果として勝てたから安心してしまったが……騎士団内におけるお前の評価は最悪だ」

「は? 評価が最悪だと? どういうことだ?」

 未熟と馬鹿にされたことに怒りを感じるダニエルだが、それよりも騎士団内における自分の評価が最悪という言葉が気になった。由緒正しい血統の持ち主である自分は敬われても慕われて当然のはずなのに、と。どこまでも謎の自信に満ちた男である。

「そのままの意味だよ。皆が命を懸けて戦う中で一人だけ……しかも指揮官という立場で何もせず安全な場所で指示も出さずぬくぬくとしていて周囲が何も思わないはずもなかった。配下の騎士達は全員お前に不満を抱いているよ。そんな状態では今後戦でお前が指示を出しても一切聞いてくれないだろう。おまけにお前は騎士達をねぎらうこともしなかったな?」

 ダニエルが「ねぎらう?」と首を傾げると子爵は頭痛を覚えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?

雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。 理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。 クラリスはただ微笑み、こう返す。 「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」 そうして物語は終わる……はずだった。 けれど、ここからすべてが狂い始める。 *完結まで予約投稿済みです。 *1日3回更新(7時・12時・18時)

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

処理中です...