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ダニエルの閃き
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「アニーと離れるなんて考えられない……。でも、そうしないと当主の座を剥奪されてしまう……!」
執務室でダニエルは頭を抱えていた。
机の上には書類が山積みになっているが、勿論ほとんど手を付けていない。
執務能力が低いので元々進む速度は遅いのだが、今日は酷い。彼の頭はアニーと離れることへの絶望が占めていた。
「もうすぐ子供も生まれるというのに……どうしてこんなことになったんだ!」
どうしても何も全部自分のせいなのだが、他責志向の彼がそれに気づくことはない。
周囲から反対されようともアニーとの関係を続け、子供まで設けたのは自分。
知られたら不味い存在を隠したまま王女に求婚したのも自分。
先の戦でアニーを独りに出来ないと戦死を恐れて安全な場所に避難していたのも自分。
そのせいで配下達の信頼を地の底に落としたのも自分。
これだけやらかしておいて、ダニエルは未だに自分が悪いとは思っていない。
反省できない人間は成長しない。だから彼はいつまで経っても屑のまま停滞している。
そんな人間の思考はやはり屑な方向に振り切るもので、ダニエルは閃いたとばかりにハッとした。
「そうだ……。信頼できる者にアニーと子供を預かってもらえばいいんじゃないか? それなら会いたい時に会いにいけるし、その者に会いに行くという理由付けも出来る」
名案だ! とばかりに目を輝かせたダニエルはすぐにその信頼できる者を部屋へと呼び寄せるのだった。
「旦那様、お呼びでしょうか……」
ダニエルの元へと呼び出されたのは彼を赤ん坊の頃より知る家令と乳母。
その表情は暗く、顔色は青白い。
「二人共、よく来てくれたな! 実は……」
幼い頃からずっと尽くしてくれた二人の顔色を気にも留めないダニエルは一方的に己の要望を捲し立てた。ダニエルのことを全肯定してきた二人だが、この時ばかりは異を唱える。
「……それは、無理にございます。アニー様を匿えば私どももどんな目に遭うか……」
「私が守るから大丈夫だ! お前達にもアニーにも、子供にも手出しはさせない」
きりっとした表情で聞こえがいい言葉を囀るダニエルだが、二人の表情は暗いままだった。
「守るとおっしゃいますが……具体的にどのように守って頂けるのですか?」
「えっ…………? どうって……」
いつも優しく肯定してくれる家令から言われた棘を含んだ発言。
厳しい声音とこちらを責めるような目にダニエルはひどく驚いた。
「私どもの家にアニー様を匿ったとしても、そんなのすぐにラティーシャ夫人に気づかれてしまいます。そうなってしまえば加担した我々もただではすまないでしょう。下手をすれば王女への反逆行為として投獄だって有り得ます。ハンスがそうだったように……」
「ハンス? ハンスがどうしたというんだ? そういえば姿を見ないような……ハンスは何処にいる?」
ハンスとはダニエルに幼少の頃から仕えた執事の名だ。
時戻り前にジュリアーナを別邸へと閉じ込めた人物。そして、現在の時間軸では王女への不敬によりラティーシャ夫人に投獄され、獄死した人物である。
自分に忠実だった使用人に起こった事も知らず能天気に尋ねるダニエルを、家令と乳母は悲しい目で見つめるのだった。
執務室でダニエルは頭を抱えていた。
机の上には書類が山積みになっているが、勿論ほとんど手を付けていない。
執務能力が低いので元々進む速度は遅いのだが、今日は酷い。彼の頭はアニーと離れることへの絶望が占めていた。
「もうすぐ子供も生まれるというのに……どうしてこんなことになったんだ!」
どうしても何も全部自分のせいなのだが、他責志向の彼がそれに気づくことはない。
周囲から反対されようともアニーとの関係を続け、子供まで設けたのは自分。
知られたら不味い存在を隠したまま王女に求婚したのも自分。
先の戦でアニーを独りに出来ないと戦死を恐れて安全な場所に避難していたのも自分。
そのせいで配下達の信頼を地の底に落としたのも自分。
これだけやらかしておいて、ダニエルは未だに自分が悪いとは思っていない。
反省できない人間は成長しない。だから彼はいつまで経っても屑のまま停滞している。
そんな人間の思考はやはり屑な方向に振り切るもので、ダニエルは閃いたとばかりにハッとした。
「そうだ……。信頼できる者にアニーと子供を預かってもらえばいいんじゃないか? それなら会いたい時に会いにいけるし、その者に会いに行くという理由付けも出来る」
名案だ! とばかりに目を輝かせたダニエルはすぐにその信頼できる者を部屋へと呼び寄せるのだった。
「旦那様、お呼びでしょうか……」
ダニエルの元へと呼び出されたのは彼を赤ん坊の頃より知る家令と乳母。
その表情は暗く、顔色は青白い。
「二人共、よく来てくれたな! 実は……」
幼い頃からずっと尽くしてくれた二人の顔色を気にも留めないダニエルは一方的に己の要望を捲し立てた。ダニエルのことを全肯定してきた二人だが、この時ばかりは異を唱える。
「……それは、無理にございます。アニー様を匿えば私どももどんな目に遭うか……」
「私が守るから大丈夫だ! お前達にもアニーにも、子供にも手出しはさせない」
きりっとした表情で聞こえがいい言葉を囀るダニエルだが、二人の表情は暗いままだった。
「守るとおっしゃいますが……具体的にどのように守って頂けるのですか?」
「えっ…………? どうって……」
いつも優しく肯定してくれる家令から言われた棘を含んだ発言。
厳しい声音とこちらを責めるような目にダニエルはひどく驚いた。
「私どもの家にアニー様を匿ったとしても、そんなのすぐにラティーシャ夫人に気づかれてしまいます。そうなってしまえば加担した我々もただではすまないでしょう。下手をすれば王女への反逆行為として投獄だって有り得ます。ハンスがそうだったように……」
「ハンス? ハンスがどうしたというんだ? そういえば姿を見ないような……ハンスは何処にいる?」
ハンスとはダニエルに幼少の頃から仕えた執事の名だ。
時戻り前にジュリアーナを別邸へと閉じ込めた人物。そして、現在の時間軸では王女への不敬によりラティーシャ夫人に投獄され、獄死した人物である。
自分に忠実だった使用人に起こった事も知らず能天気に尋ねるダニエルを、家令と乳母は悲しい目で見つめるのだった。
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