やりなおしジュリアーナ姫の復讐劇

わらびもち

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乳母の狂気

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「お待たせいたしました。どうぞお召し上がりください」

「あ、ありがとう……」

 いつも通りのにこやかな笑みを浮かべたセイラにアニーは先ほどのことは気のせいだったかな、と無理やり自分を納得させた。それでもまだ恐怖感は完全に拭えないため恐る恐るマーサに差し出されたグラスに口をつける。

「あ、美味しい……」

 果実の甘さと強い酸味が疲れた体に染みわたる。
 先ほど感じた恐怖も忘れてアニーは一気に果実水を飲み干した。

「お代わりはいかがですか?」

「うん、ちょうだい」

 たっぷりと果実水の入ったピッチャーを差し出すセイラにグラスを差し出し、なみなみと注いでもらう。再びグラスに口をつけたアニーはここでとある違和感を覚えた。

(あれ、なんか……? さっきより酸っぱさを感じないような……)

 一杯目よりも酸味を感じないことを不思議に思ったアニーは飲むのを止めてセイラに問いかけた。

「あれ? これって今飲んだものと同じ果実水?」

「……そうでございますよ? 如何なされましたか?」

「いや……なんか、味が違うなって……」

「喉が渇いた状態で飲んだから一杯目が美味しく感じたのでしょう。間違いなく先ほどのものと同じ果実水ですよ。アニー様のお好きなオーガスタ産の採れたて果実を使用したものです」

 そういう感覚的なものとは異なる気もするが、物事を深く考えることが苦手なアニーはそれで納得してしまった。ごくごくと喉を鳴らしてグラスの中身を飲み干すアニーを見ながらセイラが仄暗い笑みを浮かべているとも知らずに……。

 アニーが皿に載った軽食をばくばく食べている姿を見ながらセイラは眉をひそめる。
 なんと下品な食事の仕方だろうか、と。

(こうしてみるとやはり下賤の身なだけあって品の欠片もない……。、坊ちゃまに不釣り合いだわ……)

 坊ちゃまが選んだ相手だからと蓋をした気持ちがどんどんと溢れ出す。
 
 本当はこんな品の無い平民の孤児を我が子同然に慈しんだダニエルが見初めたことが気に入らなかった。どうしてよりにもよってこんなみすぼらしい小娘を選び、あまつさえ子まで産ませたのか。負の感情が湧き出して止まらない。

 セイラがここまでアニーへの感情を負に染めてしまったのはあの赤子の顔を見た瞬間からだった。ダニエルそっくりの赤子の存在がセイラを狂気へと駆り立てる。

 ダニエルによく似た子がアニーのように下品な人間に育つのは嫌だ。
 そう思ってしまってからはもう止まらない。

 こんな品性も知性も教養も無い下賤な娘に育てられてはこの子が可哀想。
 この女を養育に携わらせてはいけない、とマーサは謎の使命感に駆られた。
 
 アニーが赤子に会いたいと言ってきたがセイラに「今はご自身の体力を戻すことのみをお考え下さい」と、さも心配しているように返した。

「ええー……でも、赤ちゃんに母乳あげたいのに……」

「お気持ちは分かりますが、今はお体を休めることのみをお考え下さいませ。御子様のことはわたくしどもでお世話致しますので、安心しておくつろぎください」

 確かに体はあちこち痛いし、お産で体力もごっそりと奪われている。
 赤ちゃんに母乳はあげたいけれど休ませてくれるならそれに越したことはないか、とアニーは大して考えもせず納得してしまった。

「それに、しばらくしたらこの邸から出て別の場所へ移動せねばなりません。それまでにお産で消耗した体力を戻して頂かなくては」

「別の場所? あー……そうよね。いつまでもここにいるわけじゃないものね」

 この時アニーは本邸に戻るのだとただ漠然と考えていた。
 日取りが決まっていないとはいえ王女が輿入れする邸に愛人であるアニーと赤子が戻れるはずがないというのに。
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