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気づいてしまった悪意
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今やすっかりこの邸はセイラの天下となっていた。
邸の使用人達はセイラが来てから直接アニーの面倒をみなくてすむようになったので彼女に感謝している。皆、平民に仕えることに抵抗を感じていたし何よりアニーは癇癪が酷い。セイラが来てから不思議と大人しくなったので、彼等はセイラを信用するようになった。
たとえアニーの体調が日に日に悪くなっていったとしても、誰もセイラを疑わないほどに。
「なんでこんな体が辛いの……? おかしい……。絶対におかしいよ……」
健康が取り柄だったはずの自分が産後とはいえここまで体調が悪くなるのは絶対におかしい。鈍いアニーもさすがに違和感を覚え始めていた。
こんな風になったのも出産を終えてからだ。
セイラは産後は体調が悪くなってもおかしくないと言っていたから、アニーもそういうものかと納得していた。だが、さすがにこれは何かがおかしい。
「セイラさんは怖いし……他の使用人は呼んでも来てくれなくなったし、赤ちゃんにも会えない……。ダニエルも……なんで会いに来てくれなくなったの?」
この邸にアニーの味方はいない。
あんなにも優しかったセイラは豹変してしまい怒らせるとすぐに手を上げるまでとなってしまった。体調が万全ならばやり返すことも出来るのに、こんな弱った状態では無理なので大人しく従うしかない。他の使用人は助けを求めても「我儘言わないでください」と面倒くさそうに拒絶してくる。
ダニエルさえ会いにきてくれれば現状を改善するよう訴えることも出来るのに、彼は一向に顔を見せない。アニーの頭に自分は捨てられてしまったのかという不安がよぎる。
ふと、テーブルの上にセイラが用意した食事が置かれているのが目に入った。
とりあえずお腹が空いたことだし食べてから考えようとスプーンを手に取り、そこでハッと気づく。
「……そういえば、具合が悪くなるのっていつもごはんを食べてからじゃない?」
思えばいつも食事をとった後に具合が悪くなっていた。
まさか食事に何か盛られている……と考えた瞬間アニーは体から血の気が引いたような心地に襲われる。
「う、うそ……。まさかセイラさん……アタシに毒を盛ったの? いや、そんなはず……ない、よね……?」
孤児院育ちとはいえ毒なんて物騒な物とは無縁の生活を送ってきたアニーにとってにわかには信じがたいことだった。だが、思い返せばいつも何かしらかを食べたり飲んだりした後に具合が悪くなっている。
「………………っ!!?」
顔色を悪くしたアニーは恐怖で身を震わせた。
今までの人生で他人から殺意を向けられたことなどない。
何で? どうして? と混乱していると急に部屋の扉が開く音が聞こえた。
慌てて扉の方へ顔を向けるとセイラが入ってくるのが見えた。
恐怖と混乱でアニーは涙をポロポロ零すと、それに気付いたセイラが優しく声をかける。
「まあまあ、アニー様どうなさったのですか?」
いつもと変わらない慈愛の籠った笑みにますます恐怖を感じた。
何も答えられないアニーから視線を外し、セイラは手つかずの食事へと目を向ける。
「あら、お食事もまだでしたか。お召し上がりになりませんといつまで経っても体力が回復しませんよ?」
「あ、うん……そうだね」
そういえばセイラはいつもこうしてアニーに食事を必ずとらせるように促す発言をしていた。それまでは本当にこちらの体を考えて言ってくれているものだと思っていたが……本当は食事に仕込んだ何かを摂取させる為だったのではないだろうか。
そう考えると怖くてこの食事に手を付けるなんて出来やしない。
でも、それを言ってセイラが豹変したらと思うともっと怖い。
アニーはどうしたらいいか分からずただ茫然とした。
邸の使用人達はセイラが来てから直接アニーの面倒をみなくてすむようになったので彼女に感謝している。皆、平民に仕えることに抵抗を感じていたし何よりアニーは癇癪が酷い。セイラが来てから不思議と大人しくなったので、彼等はセイラを信用するようになった。
たとえアニーの体調が日に日に悪くなっていったとしても、誰もセイラを疑わないほどに。
「なんでこんな体が辛いの……? おかしい……。絶対におかしいよ……」
健康が取り柄だったはずの自分が産後とはいえここまで体調が悪くなるのは絶対におかしい。鈍いアニーもさすがに違和感を覚え始めていた。
こんな風になったのも出産を終えてからだ。
セイラは産後は体調が悪くなってもおかしくないと言っていたから、アニーもそういうものかと納得していた。だが、さすがにこれは何かがおかしい。
「セイラさんは怖いし……他の使用人は呼んでも来てくれなくなったし、赤ちゃんにも会えない……。ダニエルも……なんで会いに来てくれなくなったの?」
この邸にアニーの味方はいない。
あんなにも優しかったセイラは豹変してしまい怒らせるとすぐに手を上げるまでとなってしまった。体調が万全ならばやり返すことも出来るのに、こんな弱った状態では無理なので大人しく従うしかない。他の使用人は助けを求めても「我儘言わないでください」と面倒くさそうに拒絶してくる。
ダニエルさえ会いにきてくれれば現状を改善するよう訴えることも出来るのに、彼は一向に顔を見せない。アニーの頭に自分は捨てられてしまったのかという不安がよぎる。
ふと、テーブルの上にセイラが用意した食事が置かれているのが目に入った。
とりあえずお腹が空いたことだし食べてから考えようとスプーンを手に取り、そこでハッと気づく。
「……そういえば、具合が悪くなるのっていつもごはんを食べてからじゃない?」
思えばいつも食事をとった後に具合が悪くなっていた。
まさか食事に何か盛られている……と考えた瞬間アニーは体から血の気が引いたような心地に襲われる。
「う、うそ……。まさかセイラさん……アタシに毒を盛ったの? いや、そんなはず……ない、よね……?」
孤児院育ちとはいえ毒なんて物騒な物とは無縁の生活を送ってきたアニーにとってにわかには信じがたいことだった。だが、思い返せばいつも何かしらかを食べたり飲んだりした後に具合が悪くなっている。
「………………っ!!?」
顔色を悪くしたアニーは恐怖で身を震わせた。
今までの人生で他人から殺意を向けられたことなどない。
何で? どうして? と混乱していると急に部屋の扉が開く音が聞こえた。
慌てて扉の方へ顔を向けるとセイラが入ってくるのが見えた。
恐怖と混乱でアニーは涙をポロポロ零すと、それに気付いたセイラが優しく声をかける。
「まあまあ、アニー様どうなさったのですか?」
いつもと変わらない慈愛の籠った笑みにますます恐怖を感じた。
何も答えられないアニーから視線を外し、セイラは手つかずの食事へと目を向ける。
「あら、お食事もまだでしたか。お召し上がりになりませんといつまで経っても体力が回復しませんよ?」
「あ、うん……そうだね」
そういえばセイラはいつもこうしてアニーに食事を必ずとらせるように促す発言をしていた。それまでは本当にこちらの体を考えて言ってくれているものだと思っていたが……本当は食事に仕込んだ何かを摂取させる為だったのではないだろうか。
そう考えると怖くてこの食事に手を付けるなんて出来やしない。
でも、それを言ってセイラが豹変したらと思うともっと怖い。
アニーはどうしたらいいか分からずただ茫然とした。
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