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助かる条件
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「何を驚いているんだ? 毒を飲まされたのに無事でいられると思ったのか?」
青年の言う通りアニーは毒を飲まされたのだ。
無事でいられる保証はどこにもない。
だが、毒とは無縁の生活を送ってきたアニーにとってはどこか現実味のない状況だった。
(だって……そんな……どうして? どうしてアタシがこんな目に遭うの? ただ好きな人と愛し合っただけなのに……)
「貴族に手を出した時点で命を狙われることを覚悟するべきだったな。特権階級にとって平民の命なんざ塵芥同然だ。知っているか? 貴族が平民を手にかけたとしても罪には問われないんだぞ?」
法律など知らないアニーは青年の言葉にショックを受けた。
それならば自分に毒を飲ませたセイラは何の罪にも問われないということになる。
貴族にとって平民である自分の価値などその程度なのか……とアニーは激しい怒りに震えた。
(なによそれ……酷い、酷いわ! あの女……許せない……!)
怒りで顔を歪めるアニーを一瞥し、青年は「まあ、助けてやれないこともないが……」と告げた。
(えっ……本当!? 助けてくれるの?)
「ああ……。だって、お前の寿命残り少ないからな。これじゃ足しにもなりやしない。毒を飲まされる前だったら十分な量があったのに……しまったな」
(足しにならない……? 何の……?)
「いや、こっちの話。あっちの乳母の方がお前よりも量が多そうだから、あっちにする」
(………………?)
青年が何を言っているかアニーにはさっぱり分からない。
量だの足しにならないだの、一体何の話だろうか。
「助かるには条件があるけど、どうする? ちなみにそれは…………」
助かる条件を青年から聞かされたアニーはひどく戸惑った。
何故ならそれはとても信じ難いものであったから。
(そんな……。その方法でなきゃ駄目なの……?)
「むしろそれ以外は無い。嫌なら諦めろ」
無慈悲な言葉にアニーは悔しそうに唇を噛みしめた。
こうしている間にも刻一刻と寿命が尽きようとしている。
(どうしよう……。いや、迷っている暇はないわ。アタシは生きたいのよ。まだやりたいことだって一杯あるし、子供にだって会いたい……)
覚悟を決めたアニーは青年を真っすぐ見据え、心の中で承諾したのだった。
*
「ルイ様、おしめを替えましょうね」」
セイラは上機嫌でアニーの産んだ子供の世話をしていた。
ようやく邪魔な平民娘が消え、ダニエルが当主の座を下ろされる原因が無くなった。最愛を失ったことでダニエルが悲しむだろうが仕方ない。貴族家当主である以上、身分にそぐわない女を傍に置くべきではないのだから。そこは我慢してもらおう。
セイラにとってアニーは虫ケラ程度の存在でしかない。
だから手にかけたとて少しも心が痛まなかった。
信頼していた相手にいきなり毒を盛られたアニーの気持ちなど、セイラには知る由もない。この時までは…………
(えっ………………?)
その瞬間、いきなり目の前の景色が変わった。
眼前に広がるのは何処かの部屋の天井。心なしかどこかで見たことがあるような気がする。
(なに……? ここは何処? ……な、なんで声が出ないの!?)
声を発しようとしても出てこない。まるで喉を潰されてしまったかのよう。
おかしい、先程までは確かに声が出せていたはずなのに……。
ここは何処? 一体何が起こったの?
その時、混乱するセイラに声がかかった。
「お、成功したようだな」
いきなり見知らぬ者が顔を覗き込んできて一瞬驚いたものの、その端正過ぎる顔立ちに思わず見惚れてしまう。
(だ、だれ……? すごい美形…………)
意味の分からない状況だというのにセイラは青年の顔を呆けたように見つめていた。
思わず彼に手を伸ばそうとしたが、何故か体が動かせないことに気づく。
(え!? なにこれ……体が動かない!)
「だろうな。お前が与えた毒が効いている証拠だ」
(は……? 毒? 何を言っているの……?)
訳の分からない状況に混乱するセイラの眼前に青年は一枚の手鏡を差し出した。
鏡を覗いた先にある顔にセイラは声にならない叫びをあげる。
(なっ……なにこれ!? なんで……なんであの平民女の顔が……?)
驚いたことに鏡の中には自分ではなくアニーの顔が映し出されていた。
毒に犯された青白い顔が驚愕の表情でこちらを見ている。
いや、見ているのではない。自分がその表情をしているのだと気づいた瞬間、セイラは全身から血の気が引いた。
青年の言う通りアニーは毒を飲まされたのだ。
無事でいられる保証はどこにもない。
だが、毒とは無縁の生活を送ってきたアニーにとってはどこか現実味のない状況だった。
(だって……そんな……どうして? どうしてアタシがこんな目に遭うの? ただ好きな人と愛し合っただけなのに……)
「貴族に手を出した時点で命を狙われることを覚悟するべきだったな。特権階級にとって平民の命なんざ塵芥同然だ。知っているか? 貴族が平民を手にかけたとしても罪には問われないんだぞ?」
法律など知らないアニーは青年の言葉にショックを受けた。
それならば自分に毒を飲ませたセイラは何の罪にも問われないということになる。
貴族にとって平民である自分の価値などその程度なのか……とアニーは激しい怒りに震えた。
(なによそれ……酷い、酷いわ! あの女……許せない……!)
怒りで顔を歪めるアニーを一瞥し、青年は「まあ、助けてやれないこともないが……」と告げた。
(えっ……本当!? 助けてくれるの?)
「ああ……。だって、お前の寿命残り少ないからな。これじゃ足しにもなりやしない。毒を飲まされる前だったら十分な量があったのに……しまったな」
(足しにならない……? 何の……?)
「いや、こっちの話。あっちの乳母の方がお前よりも量が多そうだから、あっちにする」
(………………?)
青年が何を言っているかアニーにはさっぱり分からない。
量だの足しにならないだの、一体何の話だろうか。
「助かるには条件があるけど、どうする? ちなみにそれは…………」
助かる条件を青年から聞かされたアニーはひどく戸惑った。
何故ならそれはとても信じ難いものであったから。
(そんな……。その方法でなきゃ駄目なの……?)
「むしろそれ以外は無い。嫌なら諦めろ」
無慈悲な言葉にアニーは悔しそうに唇を噛みしめた。
こうしている間にも刻一刻と寿命が尽きようとしている。
(どうしよう……。いや、迷っている暇はないわ。アタシは生きたいのよ。まだやりたいことだって一杯あるし、子供にだって会いたい……)
覚悟を決めたアニーは青年を真っすぐ見据え、心の中で承諾したのだった。
*
「ルイ様、おしめを替えましょうね」」
セイラは上機嫌でアニーの産んだ子供の世話をしていた。
ようやく邪魔な平民娘が消え、ダニエルが当主の座を下ろされる原因が無くなった。最愛を失ったことでダニエルが悲しむだろうが仕方ない。貴族家当主である以上、身分にそぐわない女を傍に置くべきではないのだから。そこは我慢してもらおう。
セイラにとってアニーは虫ケラ程度の存在でしかない。
だから手にかけたとて少しも心が痛まなかった。
信頼していた相手にいきなり毒を盛られたアニーの気持ちなど、セイラには知る由もない。この時までは…………
(えっ………………?)
その瞬間、いきなり目の前の景色が変わった。
眼前に広がるのは何処かの部屋の天井。心なしかどこかで見たことがあるような気がする。
(なに……? ここは何処? ……な、なんで声が出ないの!?)
声を発しようとしても出てこない。まるで喉を潰されてしまったかのよう。
おかしい、先程までは確かに声が出せていたはずなのに……。
ここは何処? 一体何が起こったの?
その時、混乱するセイラに声がかかった。
「お、成功したようだな」
いきなり見知らぬ者が顔を覗き込んできて一瞬驚いたものの、その端正過ぎる顔立ちに思わず見惚れてしまう。
(だ、だれ……? すごい美形…………)
意味の分からない状況だというのにセイラは青年の顔を呆けたように見つめていた。
思わず彼に手を伸ばそうとしたが、何故か体が動かせないことに気づく。
(え!? なにこれ……体が動かない!)
「だろうな。お前が与えた毒が効いている証拠だ」
(は……? 毒? 何を言っているの……?)
訳の分からない状況に混乱するセイラの眼前に青年は一枚の手鏡を差し出した。
鏡を覗いた先にある顔にセイラは声にならない叫びをあげる。
(なっ……なにこれ!? なんで……なんであの平民女の顔が……?)
驚いたことに鏡の中には自分ではなくアニーの顔が映し出されていた。
毒に犯された青白い顔が驚愕の表情でこちらを見ている。
いや、見ているのではない。自分がその表情をしているのだと気づいた瞬間、セイラは全身から血の気が引いた。
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