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脱出
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「逃げなきゃ……今すぐにでも。ここにいたら駄目だ……」
その女性は慌てた様子で荷物を纏めていた。
赤子の服や小物等を急いで袋へと詰め、背中に担いだ。
「アタシの赤ちゃん……。アタシが貴方のママよ」
ベッドですやすやと眠る赤子を見て女性は一筋の涙を流した。
その赤子はアニーの産んだ子供で、女性はセイラの体に魂が入ったアニーである。
セイラに毒を盛られて死にかけていたアニーは恐ろしいほどの美貌の青年によって命を救われた。救われたと言っていいのかどうかは正直微妙なところだが、とにかく“アニー”としての意識はあるし体だって動かせる。その“体”は別人の……しかも自分を殺そうとした張本人のものではあるが。
「なんかよく分かんないけど、いろいろ考えるのはここから出て落ち着いてからにしよう……。今はそれどころじゃないわ」
毒で瀕死になり、青年に「別人の体と交換すれば助かる」と条件を持ち掛けられたアニーは助かるためにそれを承諾した。青年がどうしてそんなことをしたのかは分からない。何だか色々言っていた気がするが正直それどころじゃなかったのでろくに覚えていない。
青年が何者で、どうしてこんな状況になっているのか。
気にはなるが今は本当にそれどころではない。すぐにでもここから脱出しなくては……。
セイラに毒を盛られたことはアニーの心に消えないトラウマを刻みつけた。
あんなにも何てことなく人を殺そうとする、その感覚が理解出来ない。
ここにいたらまた命の危険に遭いかねない。そんなのは御免だ。
逃げるにしても当面の生活資金が必要だと部屋を漁ると、なんとアニーがダニエルから貰った宝石類が出てきた。
「何でここにこれが……? まさか……セイラの奴、自分の懐に入れようとしていたのかしら……」
本邸からここに移る際に荷物一式を保管してもらったはずだが、何故貴重品関係が赤子のいるこの部屋に置いてあるのか。考えられるとしたらセイラが盗んでここに置いたとしか思えない。
「まあ、いいわ。取りに行く手間も省けた。これで当面はお金に困らないわね……」
背負っていた袋の中に宝石類を無造作に詰める。
そして赤子を抱っこ紐を用いて前に括り付けた。
「よし、行きましょう」
“セイラ”となったアニーはここを出て息子と二人新しい生活をすることを決めた。
それはつまるところダニエルのことを捨てるということだが、躊躇いは一切無い。
ダニエルのことを愛していたが、己の命と彼への愛を天秤にかけるなら前者の方に傾く。
それに今のアニーには守るべき命がもう一つある。胸の中ですやすやと眠る愛しい我が子。この子をこんな危ない場所に置いておけない。
逃げるという選択が間違っているとは思えない。だって、ここにいたらまた命の危険に晒されてしまうから。ダニエルは口では守ると言っておきながら結果的にアニーを命の危機に晒した。だからもう頼らない。
楽観的な少女は死の間際で悟った。貴族と関わっていたら命がいくつあっても足りないと。彼等にとって平民の命はおそろしく軽いのだと、身をもって知った。
ふと、鏡に映った自分の姿に悲鳴をあげそうになる。
自分を殺そうとした女の姿がそこに映っていたから。
「あー……やだやだ。これからこの女の姿で生きていかなきゃならないのか……」
げんなりするアニーだが、命があるだけマシだと即座に気持ちを切り替えた。
そういえば毒に侵された自分の体はどうなっただろうか?
セイラの魂はあの体に入っているのだろうか……。
そこまで考えて背筋が寒くなった。
アニーの体に入ったセイラがまだ生きていて、万が一動けるようになんてなったら今度こそ殺されてしまう。
慌てて部屋から飛び出し、玄関の方へと向かった。
そういえばこうして歩くのは久しぶりだ。しばらく毒に侵されていたせいで動くことすらままならなかったから。
「あれ? セイラさん、どちらに行かれるのですか?」
大荷物を持ったセイラとすれちがう使用人が不思議そうに問いかけるも、当の本人は振り向きもしなかった。それというのも喋るとボロが出そうで怖かったからだ。
怪しんで追いかけてくるかな、と後ろを向いたアニーはすれちがう使用人がこちらを気にすることなく行ってしまったことに安堵した。この邸の使用人は総じてやる気がないのでセイラがおかしな行動をとっていようが気にならない。
安心したアニーは玄関の方へと急いだ。これ以上誰とも会わないうちに逃げるため。
その女性は慌てた様子で荷物を纏めていた。
赤子の服や小物等を急いで袋へと詰め、背中に担いだ。
「アタシの赤ちゃん……。アタシが貴方のママよ」
ベッドですやすやと眠る赤子を見て女性は一筋の涙を流した。
その赤子はアニーの産んだ子供で、女性はセイラの体に魂が入ったアニーである。
セイラに毒を盛られて死にかけていたアニーは恐ろしいほどの美貌の青年によって命を救われた。救われたと言っていいのかどうかは正直微妙なところだが、とにかく“アニー”としての意識はあるし体だって動かせる。その“体”は別人の……しかも自分を殺そうとした張本人のものではあるが。
「なんかよく分かんないけど、いろいろ考えるのはここから出て落ち着いてからにしよう……。今はそれどころじゃないわ」
毒で瀕死になり、青年に「別人の体と交換すれば助かる」と条件を持ち掛けられたアニーは助かるためにそれを承諾した。青年がどうしてそんなことをしたのかは分からない。何だか色々言っていた気がするが正直それどころじゃなかったのでろくに覚えていない。
青年が何者で、どうしてこんな状況になっているのか。
気にはなるが今は本当にそれどころではない。すぐにでもここから脱出しなくては……。
セイラに毒を盛られたことはアニーの心に消えないトラウマを刻みつけた。
あんなにも何てことなく人を殺そうとする、その感覚が理解出来ない。
ここにいたらまた命の危険に遭いかねない。そんなのは御免だ。
逃げるにしても当面の生活資金が必要だと部屋を漁ると、なんとアニーがダニエルから貰った宝石類が出てきた。
「何でここにこれが……? まさか……セイラの奴、自分の懐に入れようとしていたのかしら……」
本邸からここに移る際に荷物一式を保管してもらったはずだが、何故貴重品関係が赤子のいるこの部屋に置いてあるのか。考えられるとしたらセイラが盗んでここに置いたとしか思えない。
「まあ、いいわ。取りに行く手間も省けた。これで当面はお金に困らないわね……」
背負っていた袋の中に宝石類を無造作に詰める。
そして赤子を抱っこ紐を用いて前に括り付けた。
「よし、行きましょう」
“セイラ”となったアニーはここを出て息子と二人新しい生活をすることを決めた。
それはつまるところダニエルのことを捨てるということだが、躊躇いは一切無い。
ダニエルのことを愛していたが、己の命と彼への愛を天秤にかけるなら前者の方に傾く。
それに今のアニーには守るべき命がもう一つある。胸の中ですやすやと眠る愛しい我が子。この子をこんな危ない場所に置いておけない。
逃げるという選択が間違っているとは思えない。だって、ここにいたらまた命の危険に晒されてしまうから。ダニエルは口では守ると言っておきながら結果的にアニーを命の危機に晒した。だからもう頼らない。
楽観的な少女は死の間際で悟った。貴族と関わっていたら命がいくつあっても足りないと。彼等にとって平民の命はおそろしく軽いのだと、身をもって知った。
ふと、鏡に映った自分の姿に悲鳴をあげそうになる。
自分を殺そうとした女の姿がそこに映っていたから。
「あー……やだやだ。これからこの女の姿で生きていかなきゃならないのか……」
げんなりするアニーだが、命があるだけマシだと即座に気持ちを切り替えた。
そういえば毒に侵された自分の体はどうなっただろうか?
セイラの魂はあの体に入っているのだろうか……。
そこまで考えて背筋が寒くなった。
アニーの体に入ったセイラがまだ生きていて、万が一動けるようになんてなったら今度こそ殺されてしまう。
慌てて部屋から飛び出し、玄関の方へと向かった。
そういえばこうして歩くのは久しぶりだ。しばらく毒に侵されていたせいで動くことすらままならなかったから。
「あれ? セイラさん、どちらに行かれるのですか?」
大荷物を持ったセイラとすれちがう使用人が不思議そうに問いかけるも、当の本人は振り向きもしなかった。それというのも喋るとボロが出そうで怖かったからだ。
怪しんで追いかけてくるかな、と後ろを向いたアニーはすれちがう使用人がこちらを気にすることなく行ってしまったことに安堵した。この邸の使用人は総じてやる気がないのでセイラがおかしな行動をとっていようが気にならない。
安心したアニーは玄関の方へと急いだ。これ以上誰とも会わないうちに逃げるため。
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