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よからぬ想い
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「な……なにを言っているのですか、貴方は……! いきなり失礼ですよ!」
「分かり易い反応だな? まあ、誤魔化そうとしても無駄だ。僕は魔法の痕跡を辿ることが出来る。それが例え何年も昔のものだとしてもな」
焦った様子で叫ぶマーサに青年は涼しい顔で答える。
「そもそもの話、時戻りの魔法はそんなすぐに発動できるものじゃないんだよ。対象者の体に時間をかけて魔法陣を刻む必要がある。だが、元々それが刻まれていたなら話は別だ。呪文さえ唱えればすぐに発動できるからな」
「……っ!? そ、そんなこと知りません! 私はご先祖様の遺した手記をもとに魔法を使用してみただけで……」
「その手記とやらを僕は見たことはないが、おそらく使用する魔法陣は全部同じ紋様だったろう? あの弟子は覚えが悪いから紋様は一つしか書けない。だからその紋様で発動する魔法しか手記に残していないだろう。それで発動し、尚且つ対象者の体に刻むとなると二つしかない。“時戻り”と……“魂の交換”だ。ちなみにこの“時戻り”は対象者一人に対して一度しか使えない。となると、消去法で“魂の交換”が残る。お前……姫君と誰の魂を交換しようとした?」
「…………っ!!?」
青年の話にマーサは大袈裟なまでに身を震わせた。
下を向いてガクガク震えたまま口を固く閉ざす。
「質問に答えろ」
「……わ、わたしは……流れてしまった我が子を……姫様の体を使って蘇らせようとしました……!」
青年が命じるとマーサの口から本人の意思に反して真実が吐露される。
とんでもないことを自白してしまったと真っ青な顔で涙を流した。
「な……どうして……」
「どうして話してしまったのかって? そんなのお前が僕の魔法で蘇ったからに決まっているだろう。僕の魔法が刻み込まれた時点で僕の眷属のような存在となる。つまり、僕の命令には逆らえなくなるというわけだ」
「そ、そんな……」
信じられないものを見るようなマーサの視線を無視し、青年は話を続ける。
「それはそうとして、あれは生きている人間同士の魂を交換する魔法だ。亡くなった人間とではまず無理だぞ? だいたい、あれはお前のような魔女の血を引いただけの半端者に扱えるような技じゃない。姫君の魂は姫君のまま変わっていないようだし、失敗したんだろう?」
「………………はい。ですが、失敗してよかったと思っております。もし成功していたら……何も罪の無い姫様の魂がこの世からいなくなってしまうところでした……。私はとんでもない女です……お仕えする御方になんという暴挙を……。悔やんでも悔やみきれません……」
マーサはその昔、馬車の事故で夫と腹の子をいっぺんに亡くしていた。
夫が亡くなれば嫁ぎ先には留まれない。かといって理由あって生家に出戻ることも出来ない。そんなマーサの今後の生活を案じて救いの手を差し伸べたのが、かつて仕えていた王妃である。王妃は産まれてくる自分の子の乳母として彼女を王宮へと住まわせたのだ。
勿論母乳は出ないのでそこは別の者を代理にした。
マーサには母乳以外の身の回りの世話という仕事を与え、衣食住に困らぬようにしてくれたのだ。マーサの真面目な仕事ぶりと忠誠心の篤さを買っていた王妃は大切な我が子の傍に置くのに相応しいと彼女を重宝した。
こんなにも厚遇してもらったことに対してマーサも多大な恩義を感じていた。
感じていたのだが……とあるきっかけにより祖先が遺した手記を見てよからぬ想いに駆られる。
「私を慕う姫様を見ているうちに……この子が本当に我が子であったならという邪な想いに駆られました。そんな時にご先祖様の遺した手記を見て……」
「姫君の体に自分の子の魂を入れようとしたわけか。で、失敗した反動でお前はごっそり寿命を取られちまったんだな」
「………………はい、おっしゃる通りです。不思議なもので誰に何を言われたわけでもないのに“寿命を取られた”というのがはっきりと分かりました」
「まあ、そういうものだからな。しかし、それで合点がいった。おかしいと思ったんだよ、即座に時戻りの魔法が使えたことも、対価にお前の寿命を使ったにも関わらず数か月しか遡れなかったことも。本来寿命を全部使えばそれこそ姫君は産まれた時まで戻っていたはずだ。魔法はな、失敗するとえげつない量の対価を持っていかれるんだよ。それとな、対象となった者だって無事ではいられないぞ? 失敗すれば巻き添え食らって対価を無理やり奪われる」
「えっ……? そ……それは、姫様にも害が及んでいたということですか? ですが姫様はご無事で……特に何かを奪われたようには……」
「何言ってんだ。奪われているだろう? 分からないか?」
青年が呆れた声でそう言う。しかし、マーサには何のことか見当もつかない。
姫から何を奪ってしまったのだろうという不安で恐る恐る青年に問いかけた。
「分かり易い反応だな? まあ、誤魔化そうとしても無駄だ。僕は魔法の痕跡を辿ることが出来る。それが例え何年も昔のものだとしてもな」
焦った様子で叫ぶマーサに青年は涼しい顔で答える。
「そもそもの話、時戻りの魔法はそんなすぐに発動できるものじゃないんだよ。対象者の体に時間をかけて魔法陣を刻む必要がある。だが、元々それが刻まれていたなら話は別だ。呪文さえ唱えればすぐに発動できるからな」
「……っ!? そ、そんなこと知りません! 私はご先祖様の遺した手記をもとに魔法を使用してみただけで……」
「その手記とやらを僕は見たことはないが、おそらく使用する魔法陣は全部同じ紋様だったろう? あの弟子は覚えが悪いから紋様は一つしか書けない。だからその紋様で発動する魔法しか手記に残していないだろう。それで発動し、尚且つ対象者の体に刻むとなると二つしかない。“時戻り”と……“魂の交換”だ。ちなみにこの“時戻り”は対象者一人に対して一度しか使えない。となると、消去法で“魂の交換”が残る。お前……姫君と誰の魂を交換しようとした?」
「…………っ!!?」
青年の話にマーサは大袈裟なまでに身を震わせた。
下を向いてガクガク震えたまま口を固く閉ざす。
「質問に答えろ」
「……わ、わたしは……流れてしまった我が子を……姫様の体を使って蘇らせようとしました……!」
青年が命じるとマーサの口から本人の意思に反して真実が吐露される。
とんでもないことを自白してしまったと真っ青な顔で涙を流した。
「な……どうして……」
「どうして話してしまったのかって? そんなのお前が僕の魔法で蘇ったからに決まっているだろう。僕の魔法が刻み込まれた時点で僕の眷属のような存在となる。つまり、僕の命令には逆らえなくなるというわけだ」
「そ、そんな……」
信じられないものを見るようなマーサの視線を無視し、青年は話を続ける。
「それはそうとして、あれは生きている人間同士の魂を交換する魔法だ。亡くなった人間とではまず無理だぞ? だいたい、あれはお前のような魔女の血を引いただけの半端者に扱えるような技じゃない。姫君の魂は姫君のまま変わっていないようだし、失敗したんだろう?」
「………………はい。ですが、失敗してよかったと思っております。もし成功していたら……何も罪の無い姫様の魂がこの世からいなくなってしまうところでした……。私はとんでもない女です……お仕えする御方になんという暴挙を……。悔やんでも悔やみきれません……」
マーサはその昔、馬車の事故で夫と腹の子をいっぺんに亡くしていた。
夫が亡くなれば嫁ぎ先には留まれない。かといって理由あって生家に出戻ることも出来ない。そんなマーサの今後の生活を案じて救いの手を差し伸べたのが、かつて仕えていた王妃である。王妃は産まれてくる自分の子の乳母として彼女を王宮へと住まわせたのだ。
勿論母乳は出ないのでそこは別の者を代理にした。
マーサには母乳以外の身の回りの世話という仕事を与え、衣食住に困らぬようにしてくれたのだ。マーサの真面目な仕事ぶりと忠誠心の篤さを買っていた王妃は大切な我が子の傍に置くのに相応しいと彼女を重宝した。
こんなにも厚遇してもらったことに対してマーサも多大な恩義を感じていた。
感じていたのだが……とあるきっかけにより祖先が遺した手記を見てよからぬ想いに駆られる。
「私を慕う姫様を見ているうちに……この子が本当に我が子であったならという邪な想いに駆られました。そんな時にご先祖様の遺した手記を見て……」
「姫君の体に自分の子の魂を入れようとしたわけか。で、失敗した反動でお前はごっそり寿命を取られちまったんだな」
「………………はい、おっしゃる通りです。不思議なもので誰に何を言われたわけでもないのに“寿命を取られた”というのがはっきりと分かりました」
「まあ、そういうものだからな。しかし、それで合点がいった。おかしいと思ったんだよ、即座に時戻りの魔法が使えたことも、対価にお前の寿命を使ったにも関わらず数か月しか遡れなかったことも。本来寿命を全部使えばそれこそ姫君は産まれた時まで戻っていたはずだ。魔法はな、失敗するとえげつない量の対価を持っていかれるんだよ。それとな、対象となった者だって無事ではいられないぞ? 失敗すれば巻き添え食らって対価を無理やり奪われる」
「えっ……? そ……それは、姫様にも害が及んでいたということですか? ですが姫様はご無事で……特に何かを奪われたようには……」
「何言ってんだ。奪われているだろう? 分からないか?」
青年が呆れた声でそう言う。しかし、マーサには何のことか見当もつかない。
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