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これ以上傷を負わせるな
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「おかしいと思わなかったか? 時戻り前の姫君は精神年齢があまりにも低すぎる。婚約相手に言われるがまま護衛もつけずに嫁ぐなんて普通に考えて有り得ないだろう? まるで大人の言う事を素直に聞く幼子のようだ。あの年でそれはないと思わなかったか?」
「あ……。い、いえ、ですが姫様は人を疑う事を知らぬ素直な御方ですし……」
「いや、そこがおかしい。王族だぞ? 常人以上に他人を疑うものじゃないか。素直というのがまずおかしい。想像だが姫君は精神の成長を奪われているぞ」
その発言にマーサは目を見開いて絶句した。
言われてみれば確かに記憶にあるジュリアーナの言動は年齢よりも幼い。
人を疑わず、喜怒哀楽を素直に顔に出す。教育を受けた王族がそのような言動をとること自体が普通じゃない。
学業に関しては申し分なかったせいで分からなかった。
いや、本当は分かっていて目を逸らしていたのかもしれない。
「あ、あ……わたしは、なんてことを…………」
「……時戻りしたせいか、婚約者に手酷い裏切りを受けたせいかは分からないが今の姫君は人並みに他人を疑うようにはなっている。でもな、そもそも精神が成長していれば婚約者の甘言にのったりはしなかっただろうよ。少なくとも輿入れ時にある程度の使用人は連れていったはずだ。姫君の視点では自分のせいでお前が犠牲になった、となっているが実際は違うと思うぞ。お前が私欲で余計なことしなければ姫君はあんな目に遭わずにすんだ。そうだろう?」
「…………っ!!」
突きつけられた事実にマーサの精神はもう崩壊寸前だった。
出来心で“魂の交換”を試みたがそれは結局失敗に終わり、後に残ったのはジュリアーナへの消えない罪悪感と救いの手を差し伸べてくれた王妃に恩を仇で返してしまったという後悔。己の寿命のみが対価として奪われ、ジュリアーナには何もなかったことに安堵していたが、それは思い違いで実はとんでもないものを奪ってしまっていた。
「そんな……私のせいで……。姫様があのような不幸な目に…………」
取り返しのつかないことをしてしまったと嘆くマーサを青年は冷たい目で見下ろす。
「……魔女様、何でも致しますのでどうか姫様に今一度“時戻り”を……! もう一度初めから……私のような愚か者と関わらなければ姫様は幸福な人生を歩まれたはずなのです」
自分が関わらなければジュリアーナは幸福な人生を歩めたはず。
だからもう一度産まれた時からやり直せばきっと……と懇願するマーサを青年はきっぱり拒絶した。
「馬鹿言え、そう何度も時を戻したら姫君の体や魂に大きな負担がかかる。存在が消滅したっておかしくないんだぞ? そんな危険を冒せるわけがないだろう」
「で、ですが……私のせいで姫様はしなくていい苦労を……」
「そうだけど今更仕方ない、諦めろ。姫君の存在が消滅するよりマシだ。悪いと思っているならこれから一生姫君に仕えろ。その身をもって生涯尽くせ」
「え…………? そんな、姫様を危険に晒した私のような者がお傍にいていいはずがありません……!」
「それはそうだが、姫君はお前がいいと言うから仕方ないだろう? 己の命を懸けてでも蘇らせたいと願うほどお前の存在は姫君にとって大きい。だからこのことは一生黙っていることだな。知っても姫君が傷つくだけだ」
「そんな……私は姫様からそのようなご厚意を受けていい立場では……」
「ないな。しかしそれを姫君は知らない。お前……罪悪感から全てを話してしまうような真似は絶対にするなよ? それをしたところでスッキリするのはお前だけだ。姫君はただ傷つくだけだからな。それを忘れるなよ」
「……はい、勿論でございます。ですが、それでも私に姫様のお傍に侍る資格なんて……」
「ないけど、あるように振る舞え。いいか、信頼していた相手からの裏切りってのは想像以上に心に深い傷を残す。姫君は婚約者から既にそれを負わされているんだ。これ以上傷を負わせるな」
青年のジュリアーナは思い遣る発言にマーサは呆気にとられた。
「貴方様は何故、そこまで姫様のことを……?」
この青年は何故ジュリアーナを心配するような言動をとるのだろうか。
不思議に思ったマーサがそう尋ねると、彼は何かを言いかけて止まる。
「…………ちょっと待て、呼ばれたから行ってくる」
その言葉と同時に青年の姿が消えた。
「あ……。い、いえ、ですが姫様は人を疑う事を知らぬ素直な御方ですし……」
「いや、そこがおかしい。王族だぞ? 常人以上に他人を疑うものじゃないか。素直というのがまずおかしい。想像だが姫君は精神の成長を奪われているぞ」
その発言にマーサは目を見開いて絶句した。
言われてみれば確かに記憶にあるジュリアーナの言動は年齢よりも幼い。
人を疑わず、喜怒哀楽を素直に顔に出す。教育を受けた王族がそのような言動をとること自体が普通じゃない。
学業に関しては申し分なかったせいで分からなかった。
いや、本当は分かっていて目を逸らしていたのかもしれない。
「あ、あ……わたしは、なんてことを…………」
「……時戻りしたせいか、婚約者に手酷い裏切りを受けたせいかは分からないが今の姫君は人並みに他人を疑うようにはなっている。でもな、そもそも精神が成長していれば婚約者の甘言にのったりはしなかっただろうよ。少なくとも輿入れ時にある程度の使用人は連れていったはずだ。姫君の視点では自分のせいでお前が犠牲になった、となっているが実際は違うと思うぞ。お前が私欲で余計なことしなければ姫君はあんな目に遭わずにすんだ。そうだろう?」
「…………っ!!」
突きつけられた事実にマーサの精神はもう崩壊寸前だった。
出来心で“魂の交換”を試みたがそれは結局失敗に終わり、後に残ったのはジュリアーナへの消えない罪悪感と救いの手を差し伸べてくれた王妃に恩を仇で返してしまったという後悔。己の寿命のみが対価として奪われ、ジュリアーナには何もなかったことに安堵していたが、それは思い違いで実はとんでもないものを奪ってしまっていた。
「そんな……私のせいで……。姫様があのような不幸な目に…………」
取り返しのつかないことをしてしまったと嘆くマーサを青年は冷たい目で見下ろす。
「……魔女様、何でも致しますのでどうか姫様に今一度“時戻り”を……! もう一度初めから……私のような愚か者と関わらなければ姫様は幸福な人生を歩まれたはずなのです」
自分が関わらなければジュリアーナは幸福な人生を歩めたはず。
だからもう一度産まれた時からやり直せばきっと……と懇願するマーサを青年はきっぱり拒絶した。
「馬鹿言え、そう何度も時を戻したら姫君の体や魂に大きな負担がかかる。存在が消滅したっておかしくないんだぞ? そんな危険を冒せるわけがないだろう」
「で、ですが……私のせいで姫様はしなくていい苦労を……」
「そうだけど今更仕方ない、諦めろ。姫君の存在が消滅するよりマシだ。悪いと思っているならこれから一生姫君に仕えろ。その身をもって生涯尽くせ」
「え…………? そんな、姫様を危険に晒した私のような者がお傍にいていいはずがありません……!」
「それはそうだが、姫君はお前がいいと言うから仕方ないだろう? 己の命を懸けてでも蘇らせたいと願うほどお前の存在は姫君にとって大きい。だからこのことは一生黙っていることだな。知っても姫君が傷つくだけだ」
「そんな……私は姫様からそのようなご厚意を受けていい立場では……」
「ないな。しかしそれを姫君は知らない。お前……罪悪感から全てを話してしまうような真似は絶対にするなよ? それをしたところでスッキリするのはお前だけだ。姫君はただ傷つくだけだからな。それを忘れるなよ」
「……はい、勿論でございます。ですが、それでも私に姫様のお傍に侍る資格なんて……」
「ないけど、あるように振る舞え。いいか、信頼していた相手からの裏切りってのは想像以上に心に深い傷を残す。姫君は婚約者から既にそれを負わされているんだ。これ以上傷を負わせるな」
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「貴方様は何故、そこまで姫様のことを……?」
この青年は何故ジュリアーナを心配するような言動をとるのだろうか。
不思議に思ったマーサがそう尋ねると、彼は何かを言いかけて止まる。
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