初恋が綺麗に終わらない

わらびもち

文字の大きさ
52 / 57

エーミールの末路①

しおりを挟む
 皇宮内にある謁見の間にて皇帝ならびに皇后が座し、その前をエーミールが跪く。

 端正な顔には皇女のつけた傷が残り、その美貌はもはや陰りを見せていた。

「さて、エーミールよ。本日は其方に暇をとらす為、わざわざこうして呼び寄せた」

 暇をとらす……?

 自分は皇女の夫であるのに、暇をとらすとはどういう意味だろう。

 そう訝し気に顔を歪めたエーミールに皇帝は冷めた目を向けた。

「此度、皇女は皇太子となることが決まった。つまりはセレスティーナは帝位を継ぐ身。女帝を支える役目が其方には務まるとは思えん。よって、皇女と離縁し、其方は臣下に下げ渡す」

「はあ!? ちょっと待ってください! 僕はセレスと子供まで成したんですよ? しかも侯爵位まで捨ててなりたくもない婿になったのに、あんまりじゃないですか!?」

「……皇帝を前にして、よくもそこまでの口が叩けたものだ。その子供だが、其方はあろうことかセレスティーナの不貞を疑ったというじゃないか? 自身も不貞をしておいて、よくそんなことが言えたものだ。恥という概念がないのか?」

「そ、それは……。だって、子供の髪が黒かったんですよ? 別の男の子である証拠じゃないですか!」

「いいや、子供は間違いなく其方の子だ。其方のは黒髪だったからの」

「は……? 実の、父親……? 何を言っているんです、僕の父親の髪は黒くない!」

「コンラッド侯爵は確かに黒髪ではないの。だが侯爵は其方の実の父親ではないから当然だ……」

 そこから皇帝はエーミールの出自について説明した。

 母親が婚前に自分を身籠ったこと。そして実の父親は使用人で平民だったこと。

 それを聞いていくうちに、エーミールの顔は見る見るうちに青ざめていった。

「う、うそだ……。僕が父上の子じゃないなんて……。平民の使用人が僕の父親だなんて!」

「嘘ではない。これが真実だ。純粋な貴族でない者を女帝の伴侶になどしておけぬ。それにセレスティーナも、もう其方の顔を見たくないと言っているからな」

「セレスが……!? そんな、嘘だ……!」

「嘘なわけあるか。数多の女官と通じた挙句、出産時に妻の不貞を疑うような非常識な男に愛層が尽きるのは当然だろう。それにしてもよくぞ皇宮でそれだけ好き勝手してくれたものだ……。其方はここでは何の後ろ盾もない、セレスティーナの寵愛だけが頼りだと自覚しておらぬのか? 寵愛の途絶えた者がどういう末路をたどるのか……知らぬわけではあるまい?」

 皇女の婿でしかない、何の後ろ盾もない身で、よくぞここまで欲望のままに行動するものだと感心する。

 愛した男に裏切られ、不貞まで疑われた娘の心の傷を思うと腸が煮えくり返りそうだ。

「せ、せめて……セレスと話をさせてください! それと子供にも会わせてほしい!」

「別の男の子だと疑ったくせによくぞ言えたものだ。それにここまできて謝罪一つ出んとは……恥という概念がないのだな」

「あ………だって、それは……」

 まだ言い訳をしようとするエーミールに嫌気が差し、皇帝は近くにいる兵士に「話をは終わりだ。連れていけ」と命じた。

「ま、待ってください! セレスに、セレスに会わせてくれ!!」

 なおも言いつのろうとするエーミールを兵士が引きずり、謁見の間から連れ出した。
 静かになって部屋の中、皇帝が隣に座る皇后に顔を向ける。

「聞いたぞ、孫は公爵家の養女にするらしいな」

「ええ、正確にはお父様の隠し子ということにするそうです」

「そうか、会えなくなるのは残念だがそのほうがいいだろう。あの子の珍しい黒髪は、皇宮にいては差別の対象となってしまうものな。セレスは納得したのか?」

「子供と離れることを泣いて嫌がりましたけど……最終的には納得させました」

「そうか……。いつも嫌な役目をさせてしまって済まぬな」

 労わるように皇帝は皇后の肩を優しく抱いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか契約聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。 番外編(編集済み)と、外伝(新作)アップしました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

元婚約者が愛おしい

碧井 汐桜香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。 留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。 フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。 リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。 フラン王子目線の物語です。

真実の愛の言い分

豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」 私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。

過去に戻った筈の王

基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。 婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。 しかし、甘い恋人の時間は終わる。 子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。 彼女だったなら、こうはならなかった。 婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。 後悔の日々だった。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...