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エーミールの末路①
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皇宮内にある謁見の間にて皇帝ならびに皇后が座し、その前をエーミールが跪く。
端正な顔には皇女のつけた傷が残り、その美貌はもはや陰りを見せていた。
「さて、エーミールよ。本日は其方に暇をとらす為、わざわざこうして呼び寄せた」
暇をとらす……?
自分は皇女の夫であるのに、暇をとらすとはどういう意味だろう。
そう訝し気に顔を歪めたエーミールに皇帝は冷めた目を向けた。
「此度、皇女は皇太子となることが決まった。つまりはセレスティーナは帝位を継ぐ身。女帝を支える役目が其方には務まるとは思えん。よって、皇女と離縁し、其方は臣下に下げ渡す」
「はあ!? ちょっと待ってください! 僕はセレスと子供まで成したんですよ? しかも侯爵位まで捨ててなりたくもない婿になったのに、あんまりじゃないですか!?」
「……皇帝を前にして、よくもそこまでの口が叩けたものだ。その子供だが、其方はあろうことかセレスティーナの不貞を疑ったというじゃないか? 自身も不貞をしておいて、よくそんなことが言えたものだ。恥という概念がないのか?」
「そ、それは……。だって、子供の髪が黒かったんですよ? 別の男の子である証拠じゃないですか!」
「いいや、子供は間違いなく其方の子だ。其方の実の父親は黒髪だったからの」
「は……? 実の、父親……? 何を言っているんです、僕の父親の髪は黒くない!」
「コンラッド侯爵は確かに黒髪ではないの。だが侯爵は其方の実の父親ではないから当然だ……」
そこから皇帝はエーミールの出自について説明した。
母親が婚前に自分を身籠ったこと。そして実の父親は使用人で平民だったこと。
それを聞いていくうちに、エーミールの顔は見る見るうちに青ざめていった。
「う、うそだ……。僕が父上の子じゃないなんて……。平民の使用人が僕の父親だなんて!」
「嘘ではない。これが真実だ。純粋な貴族でない者を女帝の伴侶になどしておけぬ。それにセレスティーナも、もう其方の顔を見たくないと言っているからな」
「セレスが……!? そんな、嘘だ……!」
「嘘なわけあるか。数多の女官と通じた挙句、出産時に妻の不貞を疑うような非常識な男に愛層が尽きるのは当然だろう。それにしてもよくぞ皇宮でそれだけ好き勝手してくれたものだ……。其方はここでは何の後ろ盾もない、セレスティーナの寵愛だけが頼りだと自覚しておらぬのか? 寵愛の途絶えた者がどういう末路をたどるのか……知らぬわけではあるまい?」
皇女の婿でしかない、何の後ろ盾もない身で、よくぞここまで欲望のままに行動するものだと感心する。
愛した男に裏切られ、不貞まで疑われた娘の心の傷を思うと腸が煮えくり返りそうだ。
「せ、せめて……セレスと話をさせてください! それと子供にも会わせてほしい!」
「別の男の子だと疑ったくせによくぞ言えたものだ。それにここまできて謝罪一つ出んとは……恥という概念がないのだな」
「あ………だって、それは……」
まだ言い訳をしようとするエーミールに嫌気が差し、皇帝は近くにいる兵士に「話をは終わりだ。連れていけ」と命じた。
「ま、待ってください! セレスに、セレスに会わせてくれ!!」
なおも言いつのろうとするエーミールを兵士が引きずり、謁見の間から連れ出した。
静かになって部屋の中、皇帝が隣に座る皇后に顔を向ける。
「聞いたぞ、孫は公爵家の養女にするらしいな」
「ええ、正確にはお父様の隠し子ということにするそうです」
「そうか、会えなくなるのは残念だがそのほうがいいだろう。あの子の珍しい黒髪は、皇宮にいては差別の対象となってしまうものな。セレスは納得したのか?」
「子供と離れることを泣いて嫌がりましたけど……最終的には納得させました」
「そうか……。いつも嫌な役目をさせてしまって済まぬな」
労わるように皇帝は皇后の肩を優しく抱いた。
端正な顔には皇女のつけた傷が残り、その美貌はもはや陰りを見せていた。
「さて、エーミールよ。本日は其方に暇をとらす為、わざわざこうして呼び寄せた」
暇をとらす……?
自分は皇女の夫であるのに、暇をとらすとはどういう意味だろう。
そう訝し気に顔を歪めたエーミールに皇帝は冷めた目を向けた。
「此度、皇女は皇太子となることが決まった。つまりはセレスティーナは帝位を継ぐ身。女帝を支える役目が其方には務まるとは思えん。よって、皇女と離縁し、其方は臣下に下げ渡す」
「はあ!? ちょっと待ってください! 僕はセレスと子供まで成したんですよ? しかも侯爵位まで捨ててなりたくもない婿になったのに、あんまりじゃないですか!?」
「……皇帝を前にして、よくもそこまでの口が叩けたものだ。その子供だが、其方はあろうことかセレスティーナの不貞を疑ったというじゃないか? 自身も不貞をしておいて、よくそんなことが言えたものだ。恥という概念がないのか?」
「そ、それは……。だって、子供の髪が黒かったんですよ? 別の男の子である証拠じゃないですか!」
「いいや、子供は間違いなく其方の子だ。其方の実の父親は黒髪だったからの」
「は……? 実の、父親……? 何を言っているんです、僕の父親の髪は黒くない!」
「コンラッド侯爵は確かに黒髪ではないの。だが侯爵は其方の実の父親ではないから当然だ……」
そこから皇帝はエーミールの出自について説明した。
母親が婚前に自分を身籠ったこと。そして実の父親は使用人で平民だったこと。
それを聞いていくうちに、エーミールの顔は見る見るうちに青ざめていった。
「う、うそだ……。僕が父上の子じゃないなんて……。平民の使用人が僕の父親だなんて!」
「嘘ではない。これが真実だ。純粋な貴族でない者を女帝の伴侶になどしておけぬ。それにセレスティーナも、もう其方の顔を見たくないと言っているからな」
「セレスが……!? そんな、嘘だ……!」
「嘘なわけあるか。数多の女官と通じた挙句、出産時に妻の不貞を疑うような非常識な男に愛層が尽きるのは当然だろう。それにしてもよくぞ皇宮でそれだけ好き勝手してくれたものだ……。其方はここでは何の後ろ盾もない、セレスティーナの寵愛だけが頼りだと自覚しておらぬのか? 寵愛の途絶えた者がどういう末路をたどるのか……知らぬわけではあるまい?」
皇女の婿でしかない、何の後ろ盾もない身で、よくぞここまで欲望のままに行動するものだと感心する。
愛した男に裏切られ、不貞まで疑われた娘の心の傷を思うと腸が煮えくり返りそうだ。
「せ、せめて……セレスと話をさせてください! それと子供にも会わせてほしい!」
「別の男の子だと疑ったくせによくぞ言えたものだ。それにここまできて謝罪一つ出んとは……恥という概念がないのだな」
「あ………だって、それは……」
まだ言い訳をしようとするエーミールに嫌気が差し、皇帝は近くにいる兵士に「話をは終わりだ。連れていけ」と命じた。
「ま、待ってください! セレスに、セレスに会わせてくれ!!」
なおも言いつのろうとするエーミールを兵士が引きずり、謁見の間から連れ出した。
静かになって部屋の中、皇帝が隣に座る皇后に顔を向ける。
「聞いたぞ、孫は公爵家の養女にするらしいな」
「ええ、正確にはお父様の隠し子ということにするそうです」
「そうか、会えなくなるのは残念だがそのほうがいいだろう。あの子の珍しい黒髪は、皇宮にいては差別の対象となってしまうものな。セレスは納得したのか?」
「子供と離れることを泣いて嫌がりましたけど……最終的には納得させました」
「そうか……。いつも嫌な役目をさせてしまって済まぬな」
労わるように皇帝は皇后の肩を優しく抱いた。
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