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ヘレンの出生①
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「以前、貴女にあのヘレンとかいう娘のことを尋ねた時にこう言ったわよね? 『ヘレンは王妃様の友人である子爵夫人の忘れ形見』だと。わたくし、それを聞いて違和感を覚えたのよ」
「違和感ですか?」
「ええ、王妃が下位貴族である子爵夫人と交流があるのはおかしいと思わない? 少なくともわたくしはあの王妃が下位貴族の夫人や令嬢と話しているのは見たことないわ」
「あっ………………」
言われてみれば確かにそうだ。王妃が交流する相手といえば高位貴族の夫人ばかりで、下位貴族の夫人と交流しているのを見たことは一度も無い。
「あの王妃は生まれも侯爵家だし、どちらかといえば身分で人を差別するような性格だったと思うわ。公爵夫人であるわたくしまで下に見ているような態度をとっていたもの。そんな性格の女が身分の垣根を越えて友情を育む……なんてすると思う?」
「いえ、するとは思えませんね……」
思い返せば王妃は身分で人を差別するような性格だった。
そんな王妃が元子爵令嬢で今は平民のヘレンを傍に置いて可愛がること自体に違和感がある。
(物語の設定でもそうだったから、おかしいと思わなかったわ……)
物語がそうだったから、という理由だけで変だと思わなかった。
私のこの考えも今思えば大分おかしい。
記憶を取り戻す前のミシェルも何故か“そういうもの”と受け入れていたし、もしかしてその時は何らかの強制力が働いていたのかもしれない。
「だからそのお友達という子爵夫人について調べてみたのよ。そうしたら不自然な情報がいくつも出てきたわ」
「不自然な情報? ですが、お母様は以前ヘレンを調べた際に“元子爵の遺児”という情報しか出てこなかったとおっしゃっていましたよね?」
「それは“ヘレン”についてのみ調べた場合ね。視点を変えて子爵夫人について調べてみたら沢山の事が分かったのよ。まず、その子爵夫人だけど……彼女が王妃と交流していたという形跡が全く見つからないの。邸に招いた形跡も無ければ王宮へと足を運んだ覚えもない。同じ茶会に参加した記録も無い。手紙で交流した形跡すらもよ。これでは友人どころか知り合いとも言えないのではなくて?」
「確かに……そうですね。あ、ですが、もしかすると令嬢時代の友人という可能性も……」
「それも調べたのだけどね……王妃は王都生まれの王都育ち、子爵夫人は国内の端に位置する鄙びた領地の生まれで王都に足を運んだことすらないの。これだけ物理的な距離が離れているうえに身分も違う二人が交友関係を持つのは無理があるわ。どちらかといえば……王妃と交友関係があったのは、夫人ではなくて夫の子爵の方よ」
「え……? 子爵と王妃様が?」
「ええ、その子爵……名をハスリー子爵というのだけど、元々はハスリー侯爵家の次男だったの。成人と同時に家が保有する爵位を継いで子爵となったらしいわ。そして……彼は国王と婚約前の王妃と恋人関係にあったそうよ」
「え!? 恋人関係ですか?」
「そう、だけど王妃の両親が反対したから二人は別れたそうよ。まあ、ハスリー侯爵家といえば名ばかりの貧乏貴族だし、王妃の親が反対するのは当然でしょうね。それで王家に嫁いで王妃となり、アレクセイ王子を産んだのだけど……この時期に妙な事が起こっているのよ」
「妙な事、ですか?」
「ええ……これも調査の結果分かったことなのだけど、王子を産んで数か月経った辺りで産後の肥立ちが悪いという理由で一年程生家に戻っているのよ。産んですぐならまだしも数か月経ってからというのがどうも引っかかるわ。しかも一年も王宮に戻らないなんて妙だと思わない?」
「確かに……妙ですね。それに王妃様が一年も王宮を空けるなんて……周囲は何も言わなかったのですか?」
「それが、当時はその事実を隠されていたのよ。公には体調不良で離宮にて臥せっているとされていたの。当家も見舞いの品を送ったし、お礼状だって返ってきたのよ。多分誰かの代筆なのでしょうけど」
私は母の話す衝撃の内容にごくりと喉を鳴らした。
「違和感ですか?」
「ええ、王妃が下位貴族である子爵夫人と交流があるのはおかしいと思わない? 少なくともわたくしはあの王妃が下位貴族の夫人や令嬢と話しているのは見たことないわ」
「あっ………………」
言われてみれば確かにそうだ。王妃が交流する相手といえば高位貴族の夫人ばかりで、下位貴族の夫人と交流しているのを見たことは一度も無い。
「あの王妃は生まれも侯爵家だし、どちらかといえば身分で人を差別するような性格だったと思うわ。公爵夫人であるわたくしまで下に見ているような態度をとっていたもの。そんな性格の女が身分の垣根を越えて友情を育む……なんてすると思う?」
「いえ、するとは思えませんね……」
思い返せば王妃は身分で人を差別するような性格だった。
そんな王妃が元子爵令嬢で今は平民のヘレンを傍に置いて可愛がること自体に違和感がある。
(物語の設定でもそうだったから、おかしいと思わなかったわ……)
物語がそうだったから、という理由だけで変だと思わなかった。
私のこの考えも今思えば大分おかしい。
記憶を取り戻す前のミシェルも何故か“そういうもの”と受け入れていたし、もしかしてその時は何らかの強制力が働いていたのかもしれない。
「だからそのお友達という子爵夫人について調べてみたのよ。そうしたら不自然な情報がいくつも出てきたわ」
「不自然な情報? ですが、お母様は以前ヘレンを調べた際に“元子爵の遺児”という情報しか出てこなかったとおっしゃっていましたよね?」
「それは“ヘレン”についてのみ調べた場合ね。視点を変えて子爵夫人について調べてみたら沢山の事が分かったのよ。まず、その子爵夫人だけど……彼女が王妃と交流していたという形跡が全く見つからないの。邸に招いた形跡も無ければ王宮へと足を運んだ覚えもない。同じ茶会に参加した記録も無い。手紙で交流した形跡すらもよ。これでは友人どころか知り合いとも言えないのではなくて?」
「確かに……そうですね。あ、ですが、もしかすると令嬢時代の友人という可能性も……」
「それも調べたのだけどね……王妃は王都生まれの王都育ち、子爵夫人は国内の端に位置する鄙びた領地の生まれで王都に足を運んだことすらないの。これだけ物理的な距離が離れているうえに身分も違う二人が交友関係を持つのは無理があるわ。どちらかといえば……王妃と交友関係があったのは、夫人ではなくて夫の子爵の方よ」
「え……? 子爵と王妃様が?」
「ええ、その子爵……名をハスリー子爵というのだけど、元々はハスリー侯爵家の次男だったの。成人と同時に家が保有する爵位を継いで子爵となったらしいわ。そして……彼は国王と婚約前の王妃と恋人関係にあったそうよ」
「え!? 恋人関係ですか?」
「そう、だけど王妃の両親が反対したから二人は別れたそうよ。まあ、ハスリー侯爵家といえば名ばかりの貧乏貴族だし、王妃の親が反対するのは当然でしょうね。それで王家に嫁いで王妃となり、アレクセイ王子を産んだのだけど……この時期に妙な事が起こっているのよ」
「妙な事、ですか?」
「ええ……これも調査の結果分かったことなのだけど、王子を産んで数か月経った辺りで産後の肥立ちが悪いという理由で一年程生家に戻っているのよ。産んですぐならまだしも数か月経ってからというのがどうも引っかかるわ。しかも一年も王宮に戻らないなんて妙だと思わない?」
「確かに……妙ですね。それに王妃様が一年も王宮を空けるなんて……周囲は何も言わなかったのですか?」
「それが、当時はその事実を隠されていたのよ。公には体調不良で離宮にて臥せっているとされていたの。当家も見舞いの品を送ったし、お礼状だって返ってきたのよ。多分誰かの代筆なのでしょうけど」
私は母の話す衝撃の内容にごくりと喉を鳴らした。
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