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記憶にございません、で逃げるのは卑怯
「以前、お前を追ってきた王宮の兵士が言った事を覚えているか? 陛下がアレクセイ王子の動きを制限せず、監視すらつけていないと言ったあれだ」
「はい、よく覚えております。それが真実だったからこそ今回の事件が起きてしまったのですよね……」
あれが偽の情報であればアレクセイ王子が大公殿下の部屋に現れることはなかった。
それが起きてしまったということは、国王が王子を野放しにしていることが事実だという証拠だ。それに剣を持った危険人物が部屋へ侵入することも防げなかったということは、王宮の警備自体がまともに機能していない証拠でもある。
あの時ジュリエッタを大公殿下につけた私の選択は正しかった。
こうなることを予想していたわけではないが、軟禁中のアレクセイ王子が自由に出歩いている時点で何となく嫌な予感がしていたのだ。
「ああ、そうだ。しかし陛下はそのような命令を下した覚えはないと仰せでな……。結局、職務放棄として王宮の兵士が一斉解雇されることとなった」
「はい!? 一斉解雇? 陛下は兵士に責任を擦り付けたのですか……?」
「しかしその命令を下したという証拠がない。あの王命のように書面へ残したわけではなく、口頭での命令なら物的な証拠が何もないからな」
「それはそうですが……いくら何でも王宮中の兵士全員が自分の意志でアレクセイ王子を軟禁も監視もしなかった、というのは無理があるかと」
「それは此度の事件で王宮へと緊急招集された諸侯も同じような事を言っておったよ。最高権力者である陛下の命令無しにそんな勝手な真似を全員がするとは思えないと王に詰め寄っていた。しかし、陛下自身はそのような命令を下した覚えはない、と一点張りだ」
「それは嘘だとしか思えません……。そうでなければ兵士達の行動に説明がつかないです」」
「儂もそう思う。それに、以前兵士から受け取った王命が記された書状を陛下に突きつけ真意を問うたのだが……それも記憶にないそうだ」
なんだその返答! 政治家か!? いや、国王は政治家みたいなものか……。
記憶にございません、と言えば何でも許さると思いやがって!
それに、もし兵士が自分の意志でアレクセイ王子を野放しにしていたとしたら解雇だけで済む問題じゃない。職務放棄の結果、大公殿下の御身に危険が及んだのだから処刑されて当然だ。それを解雇で済ませたのだから王は自ら後ろめたいことがあると示したようなものだろう。
「真偽はどうあれ国王陛下はもう信用できん。此度の事件に諸侯も呆れておる。息子をまともに躾けられなかっただけでなく、次期王太子となる大公殿下を危険に晒してしまったのだからな。国の中枢である王家がここまで不出来な有様では諸外国に目を付けられかねん」
「その通りですね。王家が機能していないと他国が知ればいつ攻め入られるとも限りません」
「そうだ。なので、早急に国王には退位していただく。そして大公殿下には王太子位を飛ばして即位していただくことに決まった」
「え!? よく陛下がそれを了承しましたね?」
「いや、陛下は了承しておらん。儂を含めた諸侯の総意だ。陛下が嫌がろうともこの意見は押し通させてもらう」
「陛下の意志を無視するということですよね? そんなことが可能なのですか?」
「有力貴族の多くがもう今の王を支持しないと決めた。度重なるアレクセイ王子の失態に最早国王に信用など置けないと。これを無視して玉座に執着するなら強硬手段も問わない」
強硬手段とは王家に宣戦布告をするという意味だろうか。
そこまでの事態になっているのだと身震いした。
「それに国王が変われば必然的にお前の婚約も白紙に戻る。あれは現王が定めた婚約だからな」
「あ、そういうものなのですか……」
というか、まだ婚約破棄されていなかったの?
いつまで粘るつもりだったんだ、あの王は。
「そして出来れば速やかにお前と帝国の皇太子殿下との婚約を結ばせたい。お前に幸せになってほしいことは勿論のこと、我が国と帝国に結びつきがあると他国に知らしめたい。この国は今かなり危うい状況にあるからな……」
その言葉に二重の意味でドキッとした。
恋心を抱いている人と婚約を結べるであろう喜びと、この国が危うい状況にある恐怖。
それを考えると自然と体が震えるのだった。
翌朝、父は再び王宮へと向かった。国王と有力貴族で国の行く末について話し合うそうだ。
今回は母も共に行くらしく、私はまた邸に一人となった。
そうなると必ずやってくるのが“招かれざる客”だ。
両親が不在、というのは何らかのフラグなのかもしれない。
案の定今回もそれがやってきた。ふと、窓の外に目を遣ると……二頭立ての豪奢な馬車が門前に停車する光景が視界に入ってくる。
(あれは……王家の紋章。今度は一体誰が来たのかしら……?)
また王妃が文句でも言いにきたのかと思いきや、使用人が告げた来客の名は意外なものだった。
「え? ヘレンが一人で?」
なんとヘレンが一人で当家にやってきたとのこと。
もう関わることがないと思っていた人物の訪問に私は対応すべきか躊躇した。
「…………分かったわ。応接室へとお通しして」
「え!? お会いになるのですか?」
「ええ、これが最後になるかもしれないから……」
なんとなく、ヒーローを失ったヒロインが悪役令嬢にどんな話をするのか興味が湧いた。
泣き言か恨み節か、いずれにしても彼女が今の状況でどんな感情を抱くのかを知りたい。
我ながら性格が悪いな、と苦笑いしつつ私は応接室へと向かった……。
「はい、よく覚えております。それが真実だったからこそ今回の事件が起きてしまったのですよね……」
あれが偽の情報であればアレクセイ王子が大公殿下の部屋に現れることはなかった。
それが起きてしまったということは、国王が王子を野放しにしていることが事実だという証拠だ。それに剣を持った危険人物が部屋へ侵入することも防げなかったということは、王宮の警備自体がまともに機能していない証拠でもある。
あの時ジュリエッタを大公殿下につけた私の選択は正しかった。
こうなることを予想していたわけではないが、軟禁中のアレクセイ王子が自由に出歩いている時点で何となく嫌な予感がしていたのだ。
「ああ、そうだ。しかし陛下はそのような命令を下した覚えはないと仰せでな……。結局、職務放棄として王宮の兵士が一斉解雇されることとなった」
「はい!? 一斉解雇? 陛下は兵士に責任を擦り付けたのですか……?」
「しかしその命令を下したという証拠がない。あの王命のように書面へ残したわけではなく、口頭での命令なら物的な証拠が何もないからな」
「それはそうですが……いくら何でも王宮中の兵士全員が自分の意志でアレクセイ王子を軟禁も監視もしなかった、というのは無理があるかと」
「それは此度の事件で王宮へと緊急招集された諸侯も同じような事を言っておったよ。最高権力者である陛下の命令無しにそんな勝手な真似を全員がするとは思えないと王に詰め寄っていた。しかし、陛下自身はそのような命令を下した覚えはない、と一点張りだ」
「それは嘘だとしか思えません……。そうでなければ兵士達の行動に説明がつかないです」」
「儂もそう思う。それに、以前兵士から受け取った王命が記された書状を陛下に突きつけ真意を問うたのだが……それも記憶にないそうだ」
なんだその返答! 政治家か!? いや、国王は政治家みたいなものか……。
記憶にございません、と言えば何でも許さると思いやがって!
それに、もし兵士が自分の意志でアレクセイ王子を野放しにしていたとしたら解雇だけで済む問題じゃない。職務放棄の結果、大公殿下の御身に危険が及んだのだから処刑されて当然だ。それを解雇で済ませたのだから王は自ら後ろめたいことがあると示したようなものだろう。
「真偽はどうあれ国王陛下はもう信用できん。此度の事件に諸侯も呆れておる。息子をまともに躾けられなかっただけでなく、次期王太子となる大公殿下を危険に晒してしまったのだからな。国の中枢である王家がここまで不出来な有様では諸外国に目を付けられかねん」
「その通りですね。王家が機能していないと他国が知ればいつ攻め入られるとも限りません」
「そうだ。なので、早急に国王には退位していただく。そして大公殿下には王太子位を飛ばして即位していただくことに決まった」
「え!? よく陛下がそれを了承しましたね?」
「いや、陛下は了承しておらん。儂を含めた諸侯の総意だ。陛下が嫌がろうともこの意見は押し通させてもらう」
「陛下の意志を無視するということですよね? そんなことが可能なのですか?」
「有力貴族の多くがもう今の王を支持しないと決めた。度重なるアレクセイ王子の失態に最早国王に信用など置けないと。これを無視して玉座に執着するなら強硬手段も問わない」
強硬手段とは王家に宣戦布告をするという意味だろうか。
そこまでの事態になっているのだと身震いした。
「それに国王が変われば必然的にお前の婚約も白紙に戻る。あれは現王が定めた婚約だからな」
「あ、そういうものなのですか……」
というか、まだ婚約破棄されていなかったの?
いつまで粘るつもりだったんだ、あの王は。
「そして出来れば速やかにお前と帝国の皇太子殿下との婚約を結ばせたい。お前に幸せになってほしいことは勿論のこと、我が国と帝国に結びつきがあると他国に知らしめたい。この国は今かなり危うい状況にあるからな……」
その言葉に二重の意味でドキッとした。
恋心を抱いている人と婚約を結べるであろう喜びと、この国が危うい状況にある恐怖。
それを考えると自然と体が震えるのだった。
翌朝、父は再び王宮へと向かった。国王と有力貴族で国の行く末について話し合うそうだ。
今回は母も共に行くらしく、私はまた邸に一人となった。
そうなると必ずやってくるのが“招かれざる客”だ。
両親が不在、というのは何らかのフラグなのかもしれない。
案の定今回もそれがやってきた。ふと、窓の外に目を遣ると……二頭立ての豪奢な馬車が門前に停車する光景が視界に入ってくる。
(あれは……王家の紋章。今度は一体誰が来たのかしら……?)
また王妃が文句でも言いにきたのかと思いきや、使用人が告げた来客の名は意外なものだった。
「え? ヘレンが一人で?」
なんとヘレンが一人で当家にやってきたとのこと。
もう関わることがないと思っていた人物の訪問に私は対応すべきか躊躇した。
「…………分かったわ。応接室へとお通しして」
「え!? お会いになるのですか?」
「ええ、これが最後になるかもしれないから……」
なんとなく、ヒーローを失ったヒロインが悪役令嬢にどんな話をするのか興味が湧いた。
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