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ヨーク公爵家での騒動③
「奥様! セレスタン様をお連れしました!」
慌てた様子で使用人が告げ、騎士に両腕を掴まれた状態のセレスタンが邸へと入ってきた。それを見てヨーク公爵夫人は息子の元へと駆け寄り、平手打ちをかます。
「このっ……愚か者が!! 姫様に対してなんて真似を……お前は家を潰したいのですか!?」
「母上!? 何で、そのことを知って……」
「何でじゃありません! どれだけの人に目撃されたか知らないのですか! そんなことよりどうしてそんな真似をしたの!?」
「い、いや……その、えっと……」
目を泳がすセレスタンの様子にヨーク公爵夫人は益々激高した。
「お前、どこぞの女を虐めたとかふざけたことで姫様を責めたそうね? どこの雌豚に誑かされてそんな馬鹿な真似をしたというの!!」
「雌豚!? 訂正してください母上! いくら母上といえどもアンを馬鹿にすることは許せません!」
「お黙り! それはこちらの台詞よ! お前は自分の立場を理解しているの!? 姫様に婿入りする立場で、しかも婚約中に不貞など許されるはずがないでしょう!!」
「不貞だなんて……アンは私の運命の相手です! 私達は真に愛し合っているのです!」
「馬鹿なの!? お前はそれが許される立場じゃないでしょう!」
ヨーク公爵夫人は怒りと困惑でどうにかなりそうだった。
自分の息子なのに言葉が通じない。
畏れ多くも王家の姫と婚約を結んだというのに、どこぞの女を運命とか頭がおかしいとしか思えない。
どうして今まで気付かなかったのだろう、息子がこんなお花畑の思考の持ち主だったなんて……。
「セレスタン、貴方まさか、そのアンとかいう女にプレゼントなど渡していないでしょうね? このリストにある物は全て姫様にお渡ししたのよね……?」
傍で母子の言い争いを聞いていたテリア伯爵夫人がそう尋ねる。
するとセレスタンはその存在に気付き呑気な声を上げた。
「あれ? 叔母上、どうしてここに?」
「そんなことどうでもいいから答えて頂戴! このリストにある物は誰に差し上げたの?」
王女宛ての贈り物が記載してある紙を、テリア伯爵夫人はセレスタンの眼前に晒す。
すると彼は分かりやすいくらい目を泳がせた。
「そ、そんなの……フランチェスカに決まっているじゃないですか……」
「そう。だったらお礼状を見せて頂戴。姫様から贈り物へのお礼状は届いているでしょう?」
お礼状、と呟きセレスタンはキョトンとした顔を見せた。
そして何かに気付いたようにハッとし、不自然なほど目を泳がせる。
「お礼状は……その、みんな捨ててしまいましたので、手元にはありませんね。はは……」
「ふーん、そうなの。なら、届いてはいるということね?」
「そ、それは……勿論」
「ならおかしいわね? 届いたという記録がないのだけど?」
「えっ……!? い、いやそれは……たまたま漏れただけでは……」
「一つもないのだけど? 漏れたという次元の話じゃないわよ? ……貴方、そのアンとかいう女にプレゼントを横流ししているわね?」
大袈裟なほど肩をビクッと揺らすセレスタンに、夫人二人は全てを悟る。
こいつ、婚約者へのプレゼントを不貞相手に貢いでいると。
「ふざけないで!! 婚約者へのプレゼントを不貞相手に貢いだですって!? 公爵家の資産をどこぞの雌豚の為に使うだなんて……何を考えているのよお前は!!」
怒りが怒髪冠を衝いたヨーク公爵夫人は、扇子でセレスタンの頭を何度も打ち付けた。
「セレスタン、貴方は姫様に何も贈っていないということ? 信じられない……貴族としても男としても有り得ないわ……」
テリア伯爵夫人が冷めた眼で甥を一瞥し、深いため息をついた。
婚約者に何も贈らず、不貞相手に貢ぐだなんて最低だ。
自分も娘を持つ母として、もし娘がこんな目にあったなら……と想像するだけで怒りが沸々と湧き出てくる。
「セレスタン、貴方は姫様との婚約に不満でもあったというの? 臣籍降下し女公爵となる姫様の婿の座は国中の若い令息に羨まれるものなのよ? 継ぐものなど何もない次男のお前にとってこの上ない幸運な婚約だというのに……」
心底理解できないといった表情でテリア伯爵夫人が甥にそう問いかける。
貴族家の次男以降は継ぐものが無いので、どこぞに婿入りするか自分で生計を立てるかしなければ生きていけない。下手すれば平民として生きていくことも有り得る。
王女の婿の座は国中の令息が羨むもの。
それを“ヨーク公爵家の令息だから”という理由だけで、何の苦労もなく手に入れたというのに、何の不満があるというのか。
おまけに王女は国の至宝と謳われるほどの美貌の持ち主。
王家に次ぐ高い地位と、美しい妻。その両方を手に入れられる幸運に恵まれたというのに。
「……それですよっ! その、有難がって当然という考え! 皆この婚約を“幸運”だと言うが……私にとっては好きでもない女と一生過ごさなければならないという“不幸”でしかない!」
「……なんですって? 不幸? 貴方、それを本気で言っているの?」
「本気に決まっているではありませんか! この際だから言いますけどね……私はずっとこの婚約が不満だったんですよ! 何で私が我儘な王女様の機嫌を伺いながら生きねばならないのですかっ!」
「我儘な王女様ですって? 姫様のどこが我儘だというの!」
フランチェスカ王女は聡明で穏やかな人物だ。我儘だという話は聞いたことがない。
だというのに、セレスタンは何を言っているのか。
「だって、フランチェスカが私に一目惚れしたからこの婚約が成ったのでしょう?私を見初めた彼女が、陛下に我儘を言ったから……!」
「は……? 一目惚れ? 何を言っているの……?」
この婚約はヨーク公爵家の権威を保つ為に成されたもの。
それは他家のテリア伯爵夫人すら理解している。
それがどうして王女がセレスタンに一目惚れしたという話が出てくるのか……。
慌てた様子で使用人が告げ、騎士に両腕を掴まれた状態のセレスタンが邸へと入ってきた。それを見てヨーク公爵夫人は息子の元へと駆け寄り、平手打ちをかます。
「このっ……愚か者が!! 姫様に対してなんて真似を……お前は家を潰したいのですか!?」
「母上!? 何で、そのことを知って……」
「何でじゃありません! どれだけの人に目撃されたか知らないのですか! そんなことよりどうしてそんな真似をしたの!?」
「い、いや……その、えっと……」
目を泳がすセレスタンの様子にヨーク公爵夫人は益々激高した。
「お前、どこぞの女を虐めたとかふざけたことで姫様を責めたそうね? どこの雌豚に誑かされてそんな馬鹿な真似をしたというの!!」
「雌豚!? 訂正してください母上! いくら母上といえどもアンを馬鹿にすることは許せません!」
「お黙り! それはこちらの台詞よ! お前は自分の立場を理解しているの!? 姫様に婿入りする立場で、しかも婚約中に不貞など許されるはずがないでしょう!!」
「不貞だなんて……アンは私の運命の相手です! 私達は真に愛し合っているのです!」
「馬鹿なの!? お前はそれが許される立場じゃないでしょう!」
ヨーク公爵夫人は怒りと困惑でどうにかなりそうだった。
自分の息子なのに言葉が通じない。
畏れ多くも王家の姫と婚約を結んだというのに、どこぞの女を運命とか頭がおかしいとしか思えない。
どうして今まで気付かなかったのだろう、息子がこんなお花畑の思考の持ち主だったなんて……。
「セレスタン、貴方まさか、そのアンとかいう女にプレゼントなど渡していないでしょうね? このリストにある物は全て姫様にお渡ししたのよね……?」
傍で母子の言い争いを聞いていたテリア伯爵夫人がそう尋ねる。
するとセレスタンはその存在に気付き呑気な声を上げた。
「あれ? 叔母上、どうしてここに?」
「そんなことどうでもいいから答えて頂戴! このリストにある物は誰に差し上げたの?」
王女宛ての贈り物が記載してある紙を、テリア伯爵夫人はセレスタンの眼前に晒す。
すると彼は分かりやすいくらい目を泳がせた。
「そ、そんなの……フランチェスカに決まっているじゃないですか……」
「そう。だったらお礼状を見せて頂戴。姫様から贈り物へのお礼状は届いているでしょう?」
お礼状、と呟きセレスタンはキョトンとした顔を見せた。
そして何かに気付いたようにハッとし、不自然なほど目を泳がせる。
「お礼状は……その、みんな捨ててしまいましたので、手元にはありませんね。はは……」
「ふーん、そうなの。なら、届いてはいるということね?」
「そ、それは……勿論」
「ならおかしいわね? 届いたという記録がないのだけど?」
「えっ……!? い、いやそれは……たまたま漏れただけでは……」
「一つもないのだけど? 漏れたという次元の話じゃないわよ? ……貴方、そのアンとかいう女にプレゼントを横流ししているわね?」
大袈裟なほど肩をビクッと揺らすセレスタンに、夫人二人は全てを悟る。
こいつ、婚約者へのプレゼントを不貞相手に貢いでいると。
「ふざけないで!! 婚約者へのプレゼントを不貞相手に貢いだですって!? 公爵家の資産をどこぞの雌豚の為に使うだなんて……何を考えているのよお前は!!」
怒りが怒髪冠を衝いたヨーク公爵夫人は、扇子でセレスタンの頭を何度も打ち付けた。
「セレスタン、貴方は姫様に何も贈っていないということ? 信じられない……貴族としても男としても有り得ないわ……」
テリア伯爵夫人が冷めた眼で甥を一瞥し、深いため息をついた。
婚約者に何も贈らず、不貞相手に貢ぐだなんて最低だ。
自分も娘を持つ母として、もし娘がこんな目にあったなら……と想像するだけで怒りが沸々と湧き出てくる。
「セレスタン、貴方は姫様との婚約に不満でもあったというの? 臣籍降下し女公爵となる姫様の婿の座は国中の若い令息に羨まれるものなのよ? 継ぐものなど何もない次男のお前にとってこの上ない幸運な婚約だというのに……」
心底理解できないといった表情でテリア伯爵夫人が甥にそう問いかける。
貴族家の次男以降は継ぐものが無いので、どこぞに婿入りするか自分で生計を立てるかしなければ生きていけない。下手すれば平民として生きていくことも有り得る。
王女の婿の座は国中の令息が羨むもの。
それを“ヨーク公爵家の令息だから”という理由だけで、何の苦労もなく手に入れたというのに、何の不満があるというのか。
おまけに王女は国の至宝と謳われるほどの美貌の持ち主。
王家に次ぐ高い地位と、美しい妻。その両方を手に入れられる幸運に恵まれたというのに。
「……それですよっ! その、有難がって当然という考え! 皆この婚約を“幸運”だと言うが……私にとっては好きでもない女と一生過ごさなければならないという“不幸”でしかない!」
「……なんですって? 不幸? 貴方、それを本気で言っているの?」
「本気に決まっているではありませんか! この際だから言いますけどね……私はずっとこの婚約が不満だったんですよ! 何で私が我儘な王女様の機嫌を伺いながら生きねばならないのですかっ!」
「我儘な王女様ですって? 姫様のどこが我儘だというの!」
フランチェスカ王女は聡明で穏やかな人物だ。我儘だという話は聞いたことがない。
だというのに、セレスタンは何を言っているのか。
「だって、フランチェスカが私に一目惚れしたからこの婚約が成ったのでしょう?私を見初めた彼女が、陛下に我儘を言ったから……!」
「は……? 一目惚れ? 何を言っているの……?」
この婚約はヨーク公爵家の権威を保つ為に成されたもの。
それは他家のテリア伯爵夫人すら理解している。
それがどうして王女がセレスタンに一目惚れしたという話が出てくるのか……。
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