フランチェスカ王女の婿取り

わらびもち

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優秀な彼

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「ルイ卿も母君と同様の考えをお持ちのようです。ご自分が無事に生まれ、何不自由ない暮らしが出来るのは公爵夫人のおかげだと恩義を感じておられます。実際、生活にかかる資金全ては夫人が用立てているようですし」

「生活資金を夫人が? それは凄いわね」

「あの若さで高位貴族としての礼儀作法も領地経営学も全て履修済みだそうで。能力はセレスタン様以上かと思われます」

「ああ……セレスタン様は領地経営についてあまり学んでいなかったものね」

 そう考えるとあの人は一体何をしに来るつもりだったのだろう。
 婿入りにしろ、嫁入りにしろ、婚家の役に立つために学ぶことは必要不可欠だ。
 私が領地の話を振っても興味もなさそうだったし、結婚後も彼が役に立つとは思えない。

 もしかして、ただ遊んで暮らすつもりだったのだろうか。
 アンヌマリーとイチャつきながら、何もせずただ贅沢な暮らしを享受するつもりだったのでは……。

「ルイ様はとても優秀な方なのね」

「ええ、とても真面目で勤勉な方のようで。それにセレスタン様のように女性関係にだらしない、ということもございません。母君はルイ卿を身綺麗にしておくため、女性と関係を持つことを許さなかったようです」

「え!? それは厳しすぎないかしら?」

「ですが、ルイ卿本人も納得しているそうで。それに、仮にその辺の女と恋仲になり結婚した場合、言い方は悪いですが今までかけた教育もお金も無駄になってしまいます。おまけに公爵夫人への恩も返せません。いくら夫人が姑への嫌がらせ目的で母子を保護したとはいえ、家門の利益にならない婚姻をすれば恩知らずと罵倒されても文句は言えないでしょう」

「そう考えると……それもそうね」

 それに、それは私にも言えることだ。
 もし私がその辺の男を好きなり添い遂げたいと願っても、それは国の利益にならない。
 それどころか今まで私にかけたお金も時間も無駄になってしまう。
 私が望んだことではなくとも、王女として生まれた以上成すべきことは成さねばという信念のようなものはある。

 話を聞いている限りだと、ルイも私と同じような考えを持つのではないかと思えてくる。

 公爵夫人への恩を返そうと思えるような律儀な人。
 己の成すべきことを成そうと考えられるような責任感のある人。

 そういった人ならば、互いに尊敬しあえるような関係を築けるかもしれない……。

「調べてくれてありがとう。これで心が決まったわ」

 今度は二人でゆっくり話をしてみよう。
 彼もこの婚約に納得しているのならば、もう決めてしまってもいいのかもしれない。

「勿体ないお言葉にございます。それとアンヌマリーの現状も調べてきました。よろしければお聞きになりますか?」

「アンヌマリーの? どうしているかって……生家に帰ったのではなくて?」

「いえ、一度生家に帰りはしたのですが、そこから娼館に売られました」

「……は? 娼館に!? え……? どうしてそんなことに……?」

 アンヌマリーは私を裏切り私の婚約者と通じていた嫌な女ではある。
 だが別にそこまで落ちぶれてほしいとまでは思っていない。

 小説の展開通り、私が産んだ子と自分が産んだ子をすり替えるという蛮行が成された後であればともかく、今の彼女はそれよりも前の段階で舞台から退場している。この段階で私が彼女に思うことはそこまでない。

 母からアンヌマリーは”鞭打ちの上、王宮から永久追放”と聞いたので、罰はもうそれで充分と思っていた。

 なのに、まさか娼婦に落とされていたとは……。

「アンヌマリーの生家は彼女の姉君が当主を継いでおります。どうやらアンヌマリーはそのご当主に酷く恨まれていたようでして、帰宅して早々に娼館に売られたようです」

「娼館に売られるほどの恨みって何!? どうすれば実の姉にそこまで恨まれるの?」

「どうやらアンヌマリーは過去に姉君の夫を奪っていたようです。それで姉夫婦は新婚早々に離縁することとなり、姉君も再婚相手を探すことに相当苦労なされたようで……。その時の恨みと、此度の件が相まってそうなってしまったのかと……」

「え、実の姉の夫を奪ったの……?」

 そんな妹が現実に存在するなんて……小説の世界だけの話だと思っていたのに。
 いや、そういえばここは小説の世界だったな。
 それにしてもアンヌマリーは元から奪い癖のある女だったようだ。
 まあそうでなければ王家の姫から婚約者を寝取るような、非常識で倫理観のない愚行を犯すはずがないか。

「実の姉の夫を奪っておいて、よく生家に帰れたものね。普通なら気まずくて二度と顔を出せないでしょうに」

からこそ、そんな図々しい真似が出来たのでしょう。だからそうやって自分を恨んでいる相手の元に平気で顔を出し、痛い目を見たのです。自業自得、因果応報ですよ。それに畏れ多くも姫様の婚約者に手を出すような卑しい女にお似合いの末路かと」

 軽蔑したようにそう吐き捨てる様子から、彼女達侍女の目線から見てもアンヌマリーの行動は相当あり得ないことだと分かる。

 先ほど私は”そこまでしなくても……”と思ったが、アンヌマリーの行いは客観的に見るとだった。王女や実の姉の伴侶を奪うという行為は、この国の一般常識に当てはめてみても。私や彼女の姉の方が、彼女よりも身分が高いのだから。

 身分制度が厳しい社会で格上の者から男を奪うなんて自殺行為に等しい。

 なら彼女の末路は自業自得か……。
 そう考え、私はそれ以上アンヌマリーについて考えることを止めた。

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