40 / 84
身の程知らず
「そ、そんな大袈裟な……! だってアタシの方があの王女様よりもルイのことをよく知っているのは事実だし? ルイのお嫁さんになる人に、ルイのことをよく教えておいてあげようと……」
「ふざけるのも大概になさい! それと使用人如きが主人を呼び捨てにするなど言語道断! きちんと敬称をお付けなさい!」
「ひっ!? だ、だって……ルイとアタシは幼馴染よ? そんな畏まった仲じゃないの!」
「だから何ですか? お前とルイ様が幼馴染であろうとなかろうと関係ありません。それに畏れ多くも王女様に向かって”教えてあげる”などと上から物を言うなど不敬な……!」
「なっ……なによ! あんな自分で怒ることも出来ないようなお姫様、ルイに相応しくないわ!」
「はあ……お前は本当に馬鹿なのですね。王女様がお前に怒りを露わになどしていたのなら、今頃お前の首は胴体から離れておりましたよ?」
「へっ…………? え、え……? どういうこと?」
本気で理解していないジェーンに侍女長は侮蔑の視線を向けた。
この女は本当に貴族令嬢なのか、と言わんばかりの目だ。
「王族の怒りを買った者は首をはねられる、というのは常識でしょう? 過去に王族を怒らせた者は例外なく斬首の刑に処されておりますよ。だから王女様は自ら怒ることなく、代わりに王女様の侍女がお前を怒ったのですよ。怒ったのが侍女であれば、王族の怒りを買ったことにはなりません。誠に王女様はご分別のあるご立派な方です。感情のままに動くような方であれば、今頃お前は生きていません。ご恩情に感謝なさい」
王族の怒りを買うことは死を意味する。
フランチェスカもそれを重々理解しているからこそ、滅多なことでは怒りを表に出さない。
出してしまえばその者の命を摘み取ってしまうからだ。それだけ王族である自分の言動が重いと分かっている。
「お前は畏れ多くも王女様相手に嫉妬をしているのでしょう? 王女様のような至上の御方に嫉妬するなど、なんと身の程知らずな……」
蔑んだ物言いにジェーンはカッと頭に血が上り侍女長を睨みつける。
だが侍女長の底冷えのするような眼差しに驚き「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。
「それに、ルイ様はどう見ても王女様を好いていらっしゃいます。当然ですね、王女様は分別があり聡明な御方ですし、何よりこの国で最も美しい女性。……お前如きが敵うとでも?」
人としても女としてもお前の方が劣っている、というような事を言われジェーンは羞恥と怒りで顔を真っ赤に染める。
「でも……でも、ルイにあんな煌びやかな人は似合わないわ! アタシの方がルイは安心できるはずよ!」
「お前は馬鹿ですか? お前とルイ様が結ばれることに何の意味が?」
「は? 意味って何よ! 愛し合う二人が結ばれるのは当然のことでしょう!?」
何だかこれに近い台詞をこの家の息子の口から聞いたな。
侍女長は遠い目をしながらそんなことを思い出した。
「この家は呪われているのかしら……。セレスタン様といい、お前といい、何故似たような思考の馬鹿が集うのでしょう……」
「は? 誰よセレスタンって」
「お前が気にすることではありません。もういい、洗濯場へ連れて行きなさい」
元から説得するつもりなどない侍女長は、騎士にジェーンを連れていくよう命じた。
「ちょっと待ってよ! 本気でアタシを洗濯下女にするつもりなの!?」
「だからそうだと言っているでしょう? 何ですか今更」
「ふざけないで! アタシはルイのお世話をするためにここへ来たのよ!? アタシがいなきゃ誰がルイのお世話をするのよ!」
「それは私が務めますので何も心配せずともよろしい」
今回、侍女長はジェーンの暴走を傍にいたにも関わらず止められなかった罰としてルイの侍女を任されることとなった。侍女長としての仕事も忙しいのに、更に専属侍女も務めるとなるとかなりの仕事量になる。老いた体には重労働だが、それもルイが婿入りするまでの間だと割り切った。
この女が主人に懸想などせず真面目に勤めていれば自分はいらぬ苦労をせずに済んだ。
侍女長はジェーンに対してそういった恨みを抱かずにはいられなかった。
「待って! せめてルイに会わせて!」
「会わせるわけがないでしょう? ちゃんと頭に脳味噌は詰まっているのですか? それにしては全く機能していないようですね」
呆れた顔で一瞥し、侍女長は騎士に『早く連れていけ』と合図を出す。
未だ何かをぎゃあぎゃあと喚き引きずられていく女を侍女長はうんざりとした表情で眺めていた。
「ふざけるのも大概になさい! それと使用人如きが主人を呼び捨てにするなど言語道断! きちんと敬称をお付けなさい!」
「ひっ!? だ、だって……ルイとアタシは幼馴染よ? そんな畏まった仲じゃないの!」
「だから何ですか? お前とルイ様が幼馴染であろうとなかろうと関係ありません。それに畏れ多くも王女様に向かって”教えてあげる”などと上から物を言うなど不敬な……!」
「なっ……なによ! あんな自分で怒ることも出来ないようなお姫様、ルイに相応しくないわ!」
「はあ……お前は本当に馬鹿なのですね。王女様がお前に怒りを露わになどしていたのなら、今頃お前の首は胴体から離れておりましたよ?」
「へっ…………? え、え……? どういうこと?」
本気で理解していないジェーンに侍女長は侮蔑の視線を向けた。
この女は本当に貴族令嬢なのか、と言わんばかりの目だ。
「王族の怒りを買った者は首をはねられる、というのは常識でしょう? 過去に王族を怒らせた者は例外なく斬首の刑に処されておりますよ。だから王女様は自ら怒ることなく、代わりに王女様の侍女がお前を怒ったのですよ。怒ったのが侍女であれば、王族の怒りを買ったことにはなりません。誠に王女様はご分別のあるご立派な方です。感情のままに動くような方であれば、今頃お前は生きていません。ご恩情に感謝なさい」
王族の怒りを買うことは死を意味する。
フランチェスカもそれを重々理解しているからこそ、滅多なことでは怒りを表に出さない。
出してしまえばその者の命を摘み取ってしまうからだ。それだけ王族である自分の言動が重いと分かっている。
「お前は畏れ多くも王女様相手に嫉妬をしているのでしょう? 王女様のような至上の御方に嫉妬するなど、なんと身の程知らずな……」
蔑んだ物言いにジェーンはカッと頭に血が上り侍女長を睨みつける。
だが侍女長の底冷えのするような眼差しに驚き「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。
「それに、ルイ様はどう見ても王女様を好いていらっしゃいます。当然ですね、王女様は分別があり聡明な御方ですし、何よりこの国で最も美しい女性。……お前如きが敵うとでも?」
人としても女としてもお前の方が劣っている、というような事を言われジェーンは羞恥と怒りで顔を真っ赤に染める。
「でも……でも、ルイにあんな煌びやかな人は似合わないわ! アタシの方がルイは安心できるはずよ!」
「お前は馬鹿ですか? お前とルイ様が結ばれることに何の意味が?」
「は? 意味って何よ! 愛し合う二人が結ばれるのは当然のことでしょう!?」
何だかこれに近い台詞をこの家の息子の口から聞いたな。
侍女長は遠い目をしながらそんなことを思い出した。
「この家は呪われているのかしら……。セレスタン様といい、お前といい、何故似たような思考の馬鹿が集うのでしょう……」
「は? 誰よセレスタンって」
「お前が気にすることではありません。もういい、洗濯場へ連れて行きなさい」
元から説得するつもりなどない侍女長は、騎士にジェーンを連れていくよう命じた。
「ちょっと待ってよ! 本気でアタシを洗濯下女にするつもりなの!?」
「だからそうだと言っているでしょう? 何ですか今更」
「ふざけないで! アタシはルイのお世話をするためにここへ来たのよ!? アタシがいなきゃ誰がルイのお世話をするのよ!」
「それは私が務めますので何も心配せずともよろしい」
今回、侍女長はジェーンの暴走を傍にいたにも関わらず止められなかった罰としてルイの侍女を任されることとなった。侍女長としての仕事も忙しいのに、更に専属侍女も務めるとなるとかなりの仕事量になる。老いた体には重労働だが、それもルイが婿入りするまでの間だと割り切った。
この女が主人に懸想などせず真面目に勤めていれば自分はいらぬ苦労をせずに済んだ。
侍女長はジェーンに対してそういった恨みを抱かずにはいられなかった。
「待って! せめてルイに会わせて!」
「会わせるわけがないでしょう? ちゃんと頭に脳味噌は詰まっているのですか? それにしては全く機能していないようですね」
呆れた顔で一瞥し、侍女長は騎士に『早く連れていけ』と合図を出す。
未だ何かをぎゃあぎゃあと喚き引きずられていく女を侍女長はうんざりとした表情で眺めていた。
あなたにおすすめの小説
「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚
きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」
新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。
それもそのはず。
2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。
でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。
美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。
だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。
どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。
すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?
焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです
藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。
理由は単純。
愛などなくても、仕事に支障はないからだという。
──そうですか。
それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。
王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。
夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。
離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。
気づいたときにはもう遅い。
積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。
一方で私は、王妃のもとへ。
今さら引き止められても、遅いのです。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。