フランチェスカ王女の婿取り

わらびもち

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身の程知らず

「そ、そんな大袈裟な……! だってアタシの方があの王女様よりもルイのことをよく知っているのは事実だし? ルイのお嫁さんになる人に、ルイのことをよく教えておいてあげようと……」

「ふざけるのも大概になさい! それと使用人如きが主人を呼び捨てにするなど言語道断! きちんと敬称をお付けなさい!」

「ひっ!? だ、だって……ルイとアタシは幼馴染よ? そんな畏まった仲じゃないの!」

「だから何ですか? お前とルイ様が幼馴染であろうとなかろうと関係ありません。それに畏れ多くも王女様に向かって”教えてあげる”などと上から物を言うなど不敬な……!」

「なっ……なによ! あんな自分で怒ることも出来ないようなお姫様、ルイに相応しくないわ!」

「はあ……お前は本当に馬鹿なのですね。王女様がお前に怒りを露わになどしていたのなら、今頃お前の首は胴体から離れておりましたよ?」

「へっ…………? え、え……? どういうこと?」

 本気で理解していないジェーンに侍女長は侮蔑の視線を向けた。
 この女は本当に貴族令嬢なのか、と言わんばかりの目だ。

「王族の怒りを買った者は首をはねられる、というのは常識でしょう? 過去に王族を怒らせた者は例外なく斬首の刑に処されておりますよ。だから王女様は自ら怒ることなく、代わりに王女様の侍女がお前を怒ったのですよ。怒ったのが侍女であれば、王族の怒りを買ったことにはなりません。誠に王女様はご分別のあるご立派な方です。感情のままに動くような方であれば、今頃お前は生きていません。ご恩情に感謝なさい」

 王族の怒りを買うことは死を意味する。
 フランチェスカもそれを重々理解しているからこそ、滅多なことでは怒りを表に出さない。
 出してしまえばその者の命を摘み取ってしまうからだ。それだけ王族である自分の言動が重いと分かっている。

「お前は畏れ多くも王女様相手に嫉妬をしているのでしょう? 王女様のような至上の御方に嫉妬するなど、なんと身の程知らずな……」

 蔑んだ物言いにジェーンはカッと頭に血が上り侍女長を睨みつける。
 だが侍女長の底冷えのするような眼差しに驚き「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。

「それに、ルイ様はどう見ても王女様を好いていらっしゃいます。当然ですね、王女様は分別があり聡明な御方ですし、何よりこの国で最も美しい女性。……お前如きが敵うとでも?」

 人としても女としてもお前の方が劣っている、というような事を言われジェーンは羞恥と怒りで顔を真っ赤に染める。

「でも……でも、ルイにあんな煌びやかな人は似合わないわ! アタシの方がルイは安心できるはずよ!」

「お前は馬鹿ですか? お前とルイ様が結ばれることに何の意味が?」

「は? 意味って何よ! 愛し合う二人が結ばれるのは当然のことでしょう!?」

 何だかこれに近い台詞をこの家の息子の口から聞いたな。

 侍女長は遠い目をしながらそんなことを思い出した。

「この家は呪われているのかしら……。セレスタン様といい、お前といい、何故似たような思考の馬鹿が集うのでしょう……」

「は? 誰よセレスタンって」

「お前が気にすることではありません。もういい、洗濯場へ連れて行きなさい」

 元から説得するつもりなどない侍女長は、騎士にジェーンを連れていくよう命じた。

「ちょっと待ってよ! 本気でアタシを洗濯下女にするつもりなの!?」

「だからそうだと言っているでしょう? 何ですか今更」

「ふざけないで! アタシはルイのお世話をするためにここへ来たのよ!? アタシがいなきゃ誰がルイのお世話をするのよ!」

「それは私が務めますので何も心配せずともよろしい」

 今回、侍女長はジェーンの暴走を傍にいたにも関わらず止められなかった罰としてルイの侍女を任されることとなった。侍女長としての仕事も忙しいのに、更に専属侍女も務めるとなるとかなりの仕事量になる。老いた体には重労働だが、それもルイが婿入りするまでの間だと割り切った。

 この女が主人に懸想などせず真面目に勤めていれば自分はいらぬ苦労をせずに済んだ。
 侍女長はジェーンに対してそういった恨みを抱かずにはいられなかった。

「待って! せめてルイに会わせて!」

「会わせるわけがないでしょう? ちゃんと頭に脳味噌は詰まっているのですか? それにしては全く機能していないようですね」

 呆れた顔で一瞥し、侍女長は騎士に『早く連れていけ』と合図を出す。

 未だ何かをぎゃあぎゃあと喚き引きずられていく女を侍女長はうんざりとした表情で眺めていた。

 

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