フランチェスカ王女の婿取り

わらびもち

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ジェーン③

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「セレスタン様~、お食事をお持ちしましたよー!」

 あれからジェーンはセレスタンを懐柔するため、食事の度にこうして明るく話しかけるようになった。
 暇を持て余していた彼は、表向きは鬱陶しそうにしながらもジェーンの問い掛けに一言二言返すようになり、ついには会話に発展するまでとなる。

「ああ、来たのか。ふん、いつ見ても能天気な顔をしているな」

 セレスタンのこちらを見下した物言いにジェーンは内心『なんだこいつ、食事に毒でも盛ってやろうか!?』と殺意が芽生えたが、それを笑顔で押し込めた。

「うふふー、セレスタン様は今日も憂いを帯びたお顔をしてらっしゃいますね?」

 つまりは『今日も辛気臭い顔してんな』という意味なのだが、セレスタンはジェーンの嫌味に気づきもしない。
 それどころか満更でもないような顔を見せる。

「ふん……。それなのに笑えるわけないだろう……」

「そうですよね、お辛いですよね……」

 ジェーンは内心で『馬鹿じゃねえの?』と見下しながら、精一杯憐みの表情を作る。

 恋人に裏切られた、と言うがそれはジェーンがついただった。
 
「男をお金でしか見ていない女って、それなりにいますよ。きっとそのもそうだったんですよ」

 未だ悲しそうな顔で恋人の裏切りに傷つくセレスタンにジェーンは内心でほくそ笑む。

「ああ、そうだな……。金持ちの男に見初められただけで私を捨てるような女だった。ただ、それだけだったんだな……」

 ジェーンはセレスタンに浮気相手アンを諦めさせるため嘘をついた。
 
 と。

 これはもう何の根拠もない出鱈目でしかない。そもそもジェーンはセレスタンの浮気相手の本名も知らないから、彼女が今どこで何をしているかなんて知りようもない。

 ただセレスタンに「貴方の恋人は貴方を裏切って、金持ちの男と恋仲になっている」と囁いただけ。
 ぽっと出の下女の口から出た言葉を勝手に信じたのはセレスタンだ。

 どうしてジェーンがそんな嘘をついたかというと、単にその浮気相手の存在が邪魔だったから。ただそれだけだ。
 
「所詮その程度の愛だったんですよ~。それに比べてといったら……。今でも深くセレスタン様を想っているらしいですよ」

「ふん……そうか。いけ好かない女だと思ったら、可愛いところもあったのだな……」

 満更でもない様子のセレスタンにジェーンは心の中で「そんなわけないっつーの」と突っ込んだ。
 婚約中に浮気をした男を今でも愛しているようなお目出度い女なんて滅多にいない。
 ましてやここまで女を見下している傲慢な男に、そのような価値があるものか。

(こいつ本当に何でもかんでも簡単に信じるわね……。こんな単純な頭でよく貴族やってこれたものだわ)

 ジェーンがセレスタンについた嘘は二つ。
 一つは『浮気相手にはもう別の男がいる』という嘘。
 もう一つは『王女は今でもセレスタンを愛している』という嘘。

 勿論どちらも真っ赤な嘘だ。何の根拠もない出鱈目でしかない。
 だが、セレスタンはどちらも信じた。面白いくらい簡単に。

 何故こんな嘘をついたのかというと、全てはルイと結ばれるためだ。
 彼と結ばれるためには王女が邪魔。なので邪魔者を排除するためにセレスタンを利用しようと考えた。

「セレスタン様が会いに行ったなら~、きっと王女様泣いて喜ぶと思うんですよね~。だって王女様、この間泣いてましたもん……セレスタン様に会いたいって……」

「なに!? あいつがか? そうか……中々に可愛いことを……」

 ジェーンはこうやって度々セレスタンを焚き付け、王女がまだ自分を好きだと勘違いするように仕向けた。
 現実の王女はそんなことは一言も言っていないし、ましてやそれを一介の下女相手に零すはずもない。
 
 ちょっと考えられる頭があればジェーンの発言が全て嘘であると分かるのだが、物事を自分の都合がいいようにしか考えないセレスタンはそれが分からない。だからこうやって簡単に嘘を信じてしまうのだ。

「優秀さを鼻にかけた嫌な奴だと思っていたが……そうか、私の事をそんなに好きだったか」

 セレスタンと話すようになり、ジェーンは気づいたことがある。
 それはこの男が賢い女に対して、やけに劣等感を抱いているということだ。

「小賢しい女は好きではないが……まあ、たまに相手をしてやるのも悪くはない。あいつは見てくれは美しいからな」

「はは……そうですね~」

 本当にくだらない男……。

 ジェーンはため息をつきそうなるのを必死にこらえ、愛想笑いを繰り返す。
 王女からルイを取り戻すため、セレスタンを懐柔しようと話し相手を務めているがその度にウンザリする。

 女は馬鹿なほうがいいだの、賢い女はこちらを見下すから好きではないだの、どれだけ劣等感を抱えているんだと苛ついてひっぱたきたくなるのだ。 この男に合わせて馬鹿みたいに語尾を伸ばす話し方にも疲れてくる。

「それに、私もいい加減こんな生活はウンザリだ。お前は本当に私を?」

「はい~、もちろんです~」

 セレスタンをここから出して、王女に会わせる。

 それが果たされるのなら我慢なんていくらでもしてみせる、とジェーンは心の中で嗤った。
 

 
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