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新居に現れた不審人物①
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「ルイ、今度の週末にもう一度新居を見に行きませんか?」
「いいですね、そろそろフランの部屋も完成した頃でしょうし」
あれからルイとは幾度となく逢瀬を重ね、今では名前を愛称と呼び捨てで言い合う仲となった。
あのことがあってからもうヨーク公爵家に訪問することはなくなり、ルイとは王宮や街で会うようにしている。侍女の非礼を公爵夫人は可哀想になるくらい平身低頭して詫びてくれたものの、公爵家のためにもこれ以上何かあっては困ると訪問しない事を決めた。
セレスタンの一件、そして侍女の非礼の一件でヨーク公爵家はもう反逆罪を言い渡されてもおかしくないところまできている。正直もうギリギリ一歩手前だ。これ以上非礼を重ねてしまうと公爵家の存続自体も危うくなる。
婚約者の生家を没落させるわけにはいかないので、もう極力関わらないようにするしかない。
幸いにしてあれ以降は何もなく、平和な毎日を過ごしている。
「そろそろ家具なども決めませんとね」
私が治める予定の領地には、私とルイが住むための新居が建てられている。
外観は完成しているので、今は内装工事の真っ最中だ。
二人で住む邸の内装を、こうして話し合う時間はとても楽しい。
早くルイと一緒に暮らしたいという願望が沸き上がってくる。
「ええ、そうですね。早くフランと一緒に暮らしたいです」
「まあ、ルイったら……」
同じ気持ちでいてくれることが嬉しい。
この人が婚約者でよかった。
*
週末、私とルイは馬車に乗り領地までやってきた。
新居の管理人が私達を恭しく出迎え、中を案内してくれる。
「内装工事は全て完了しました。運んでいただいた荷物は一つの場所に纏めて置いておりますので、確認をお願いします」
「え? 荷物?」
管理人の言葉に私は首を傾げた。
彼は今”運んだ荷物”と言ったが、私はここに荷物を運ぶよう指示した覚えはない。
「ルイ、ここに何か荷物を運んだ覚えはある?」
「え? いいえ、私は何も……」
ルイに聞いても覚えがないと言う。
なら一体誰が、何の荷物を運んだというのだろう……。
「姫様とルイ様が指示したわけではない……? も、申し訳ございません! 得体の知れない荷物を邸内に入れていたなんて……すぐに回収しますので!」
慌てた管理人が得体の知れない荷物を外に出すべく動き出す。
ただならぬ事態に私は騎士に荷物を確認するよう指示を出した。
「フラン、一体何が……」
「……どうやら、私やルイ以外の誰かがこの邸内に何らかの荷物を運び入れたようです」
「何ですって!? 一体誰がそんなことを……。いや、とりあえずフラン、外に出ましょう。ここにいては危険です!」
そうルイに促され、私達は邸の外に出ることにした。
もし荷物の中に危険な物など入っていたら確かに危ない。
馬車の中で青褪める私をルイは守るように抱きしめてくれていた。
その温もりが心地よく、段々と落ち着きを取り戻した。
「失礼します。姫様、荷物の中身を全て確認致しました。ご報告させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ……お願い」
「畏まりました。ではまず中身なのですが、全てワインの空き瓶が詰められておりました」
「え……? ワインの空き瓶が?」
騎士の報告によると荷物は全て四角い木箱で、その中身は全てワインの空き瓶が詰められていたという。
「どうしてそんな物が……。この荷物を運んだ者はどういう人物だったのかしら?」
「はっ、はいっ! 確か男女二人組でした! 王宮からだと伺ったので、そのまま受け入れてしまいまして……」
私の質問に真っ青を通り越して土気色に染まった顔の管理人が口を開いた。
得体の知れない者を王女の新居に招き入れてしまったのだから彼の責任は重い。
それを自覚しているのだろう、彼は可哀想になるほど恐怖で体を震わせている。
「どうしてそんな得体の知れない者を入れてしまったの?」
「す、すみません! 女の方がエメラルドのブローチを身に着けていたので、てっきり姫様の侍女かと……!」
「え……? エメラルドのブローチですって?」
確かに私は専属と定めた侍女にエメラルドのブローチを贈っている。
だが………
「そのブローチはユリの形をしていたかしら?」
私が贈ったブローチは全てユリを象った物だ。
本当にその女が私の侍女ならば、ユリの形をしたブローチを身に着けていないのはおかしい。
「へっ? ユリ、ですか……? いえ、そういったものではなく、普通のブローチでしたね。こう……四角い形の台座の中央に丸い石がはめ込まれていました。パッと見でもエメラルドだと分かるくらい大きめの石だったと思います」
「大きめのエメラルドをはめ込んだブローチを、その怪しい人物が? だとしたら……」
大きめのエメラルドのブローチなんて資産に余裕のある者でないと買えない。
だけどそんな人物がわざわざ酒の空き瓶を持ってくる理由って何だろう……。
「いいですね、そろそろフランの部屋も完成した頃でしょうし」
あれからルイとは幾度となく逢瀬を重ね、今では名前を愛称と呼び捨てで言い合う仲となった。
あのことがあってからもうヨーク公爵家に訪問することはなくなり、ルイとは王宮や街で会うようにしている。侍女の非礼を公爵夫人は可哀想になるくらい平身低頭して詫びてくれたものの、公爵家のためにもこれ以上何かあっては困ると訪問しない事を決めた。
セレスタンの一件、そして侍女の非礼の一件でヨーク公爵家はもう反逆罪を言い渡されてもおかしくないところまできている。正直もうギリギリ一歩手前だ。これ以上非礼を重ねてしまうと公爵家の存続自体も危うくなる。
婚約者の生家を没落させるわけにはいかないので、もう極力関わらないようにするしかない。
幸いにしてあれ以降は何もなく、平和な毎日を過ごしている。
「そろそろ家具なども決めませんとね」
私が治める予定の領地には、私とルイが住むための新居が建てられている。
外観は完成しているので、今は内装工事の真っ最中だ。
二人で住む邸の内装を、こうして話し合う時間はとても楽しい。
早くルイと一緒に暮らしたいという願望が沸き上がってくる。
「ええ、そうですね。早くフランと一緒に暮らしたいです」
「まあ、ルイったら……」
同じ気持ちでいてくれることが嬉しい。
この人が婚約者でよかった。
*
週末、私とルイは馬車に乗り領地までやってきた。
新居の管理人が私達を恭しく出迎え、中を案内してくれる。
「内装工事は全て完了しました。運んでいただいた荷物は一つの場所に纏めて置いておりますので、確認をお願いします」
「え? 荷物?」
管理人の言葉に私は首を傾げた。
彼は今”運んだ荷物”と言ったが、私はここに荷物を運ぶよう指示した覚えはない。
「ルイ、ここに何か荷物を運んだ覚えはある?」
「え? いいえ、私は何も……」
ルイに聞いても覚えがないと言う。
なら一体誰が、何の荷物を運んだというのだろう……。
「姫様とルイ様が指示したわけではない……? も、申し訳ございません! 得体の知れない荷物を邸内に入れていたなんて……すぐに回収しますので!」
慌てた管理人が得体の知れない荷物を外に出すべく動き出す。
ただならぬ事態に私は騎士に荷物を確認するよう指示を出した。
「フラン、一体何が……」
「……どうやら、私やルイ以外の誰かがこの邸内に何らかの荷物を運び入れたようです」
「何ですって!? 一体誰がそんなことを……。いや、とりあえずフラン、外に出ましょう。ここにいては危険です!」
そうルイに促され、私達は邸の外に出ることにした。
もし荷物の中に危険な物など入っていたら確かに危ない。
馬車の中で青褪める私をルイは守るように抱きしめてくれていた。
その温もりが心地よく、段々と落ち着きを取り戻した。
「失礼します。姫様、荷物の中身を全て確認致しました。ご報告させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ……お願い」
「畏まりました。ではまず中身なのですが、全てワインの空き瓶が詰められておりました」
「え……? ワインの空き瓶が?」
騎士の報告によると荷物は全て四角い木箱で、その中身は全てワインの空き瓶が詰められていたという。
「どうしてそんな物が……。この荷物を運んだ者はどういう人物だったのかしら?」
「はっ、はいっ! 確か男女二人組でした! 王宮からだと伺ったので、そのまま受け入れてしまいまして……」
私の質問に真っ青を通り越して土気色に染まった顔の管理人が口を開いた。
得体の知れない者を王女の新居に招き入れてしまったのだから彼の責任は重い。
それを自覚しているのだろう、彼は可哀想になるほど恐怖で体を震わせている。
「どうしてそんな得体の知れない者を入れてしまったの?」
「す、すみません! 女の方がエメラルドのブローチを身に着けていたので、てっきり姫様の侍女かと……!」
「え……? エメラルドのブローチですって?」
確かに私は専属と定めた侍女にエメラルドのブローチを贈っている。
だが………
「そのブローチはユリの形をしていたかしら?」
私が贈ったブローチは全てユリを象った物だ。
本当にその女が私の侍女ならば、ユリの形をしたブローチを身に着けていないのはおかしい。
「へっ? ユリ、ですか……? いえ、そういったものではなく、普通のブローチでしたね。こう……四角い形の台座の中央に丸い石がはめ込まれていました。パッと見でもエメラルドだと分かるくらい大きめの石だったと思います」
「大きめのエメラルドをはめ込んだブローチを、その怪しい人物が? だとしたら……」
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