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嫌がらせの犯人
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「ビット男爵令嬢……」
「ひっ!? ひゃ、ひゃいっ!」
無表情のアンゼリカに恐怖し、ルルナは体を大袈裟なまでにビクッと震わせた。
「貴女は殿下に婚約者がいると分かっていながら恋仲になったそうですが、それはどうしてですか?」
「へ……? どうしてって……それは、エド様のことを好きになったからです……」
先ほどまで顔面蒼白だったルルナは好きな相手への告白に頬を真っ赤に染めた。
それを見た王太子も目を潤ませ「ルルナ……」と熱っぽく囁く。
そのまま二人の世界に突入しそうな雰囲気が流れたが、アンゼリカがそんな空気を読む義理はない。
案の定その甘い空気は彼女の一言によって壊される。
「なるほど、ビット男爵令嬢は好きになれば相手に婚約者がいても構わないと。まるで発情期の動物ですね! 殿下と同じですわ!」
「はあ!? な……ひ、ひどいっ! 発情期だなんて……何でそこまで言われなければいけないのですか!! そんな傷つける言葉を平気で吐くなんて……貴女は最低です!」
「え? だって、人には理性があって、その理性で他人の伴侶は奪ってはいけないと抑えるものですよ。その理性が働かないのですから、人ではなく動物だと言えるでしょう。動物は理性ではなく本能で動いておりますから。貴女や殿下もそうでしょう? 気に入った異性を手に入れたいという本能しか働いていない、そこに理性はこれっぽっちも働いていない」
「そんなの……貴女が本物の恋を知らないから言えるのです! 本当に好きな人が出来れば……誰だって相手を手に入れるために理性を無くします! 綺麗ごとばかり言わないでください!」
「本物の恋とは人を壊すことへの免罪符になりえるのですか? あなた方はミラージュ様をあそこまで追い詰めて壊しておいて全く罪悪感を覚えていらっしゃらない。そういうところも人というより獣に近いと思うのですが……その点についてビット男爵令嬢はどうお考えで?」
「は……? ちょっと待ってください、ミラージュ様を壊したって……いったい何のことです?」
「あら? もしかして貴女はミラージュ様がどうなったかをご存じない?」
「知りません……。だって、ミラージュ様はエド様から婚約破棄されて領地に戻ったとしか聞いていない……」
「まあまあ、どなたも貴女にミラージュ様の現状を伝えていないのですね? 彼女は今、心を壊して療養中です。なんでも殿下や側近の方々に責められたせいだと聞きましたね」
「え……? 心を壊した? 何それ……どういうことです!?」
「それはわたくしよりも当事者である殿下に聞かれた方がよろしいのでは? ねえ、殿下?」
アンゼリカから話を振られると王太子はバツが悪そうに目を逸らした。
だが、困惑したルルナからも「どういうことです!?」と詰め寄られ、渋々口を開く。
「ちがう……あれは、ルルナを守る為に仕方なく……」
「私を守る為!? 守る為ってどういうこと!?」
「ルルナは多くの令嬢から虐げられていただろう? それを主導したのはミラージュだ。だから私は彼女を断罪した! それを責め立てたと言われればそうかもしれぬ……」
「私の為に……? でも、心を壊すまで責め立てるのはあまりにも……」
「お待ちください、殿下。ビット男爵令嬢への攻撃を主導したのはミラージュ様と仰いましたが、それは違いますよ? 加害者たちはそれぞれ自分の意志でビット男爵令嬢へ危害を加えましたから」
険悪な雰囲気が漂う中、ふと疑問を感じたアンゼリカが彼等の話に割って入った。
淡々とした物言いに二人は勢いよく顔をアンゼリカの方へと向ける。
「お前は何を言っている、首謀者はミラージュだ。あいつは私の寵愛を受けるルルナに嫉妬して非道な行いに手を染めたのだぞ! 自分の手を染めず取り巻きを使うなど卑怯者のすることだ! 王太子としてそんな行いをするものを許してなどおけぬ!」
「いえ、ビット男爵令嬢が階段から突き飛ばされた事件も、ドレスを引き裂かれた事件も、街で誘拐されそうになった事件も、全てその取り巻きが勝手にしたことですよ? ちなみに取り巻きとは殿下の側近方の婚約者ですよね?」
「は……? ちょっと待て! どうしてお前がそれを知っているんだ!? しかもルルナが被害に遭った事件のことまで、どうして……」
ルルナは当時数々の嫌がらせを受けていた。
それこそ先ほどアンゼリカが挙げた大きなものから細かなことまで両手では数えきれないほど沢山の嫌がらせを。
それを当事者でもなく、関係者でもないアンゼリカがどうして知っているのかと王太子は困惑した。
「ひっ!? ひゃ、ひゃいっ!」
無表情のアンゼリカに恐怖し、ルルナは体を大袈裟なまでにビクッと震わせた。
「貴女は殿下に婚約者がいると分かっていながら恋仲になったそうですが、それはどうしてですか?」
「へ……? どうしてって……それは、エド様のことを好きになったからです……」
先ほどまで顔面蒼白だったルルナは好きな相手への告白に頬を真っ赤に染めた。
それを見た王太子も目を潤ませ「ルルナ……」と熱っぽく囁く。
そのまま二人の世界に突入しそうな雰囲気が流れたが、アンゼリカがそんな空気を読む義理はない。
案の定その甘い空気は彼女の一言によって壊される。
「なるほど、ビット男爵令嬢は好きになれば相手に婚約者がいても構わないと。まるで発情期の動物ですね! 殿下と同じですわ!」
「はあ!? な……ひ、ひどいっ! 発情期だなんて……何でそこまで言われなければいけないのですか!! そんな傷つける言葉を平気で吐くなんて……貴女は最低です!」
「え? だって、人には理性があって、その理性で他人の伴侶は奪ってはいけないと抑えるものですよ。その理性が働かないのですから、人ではなく動物だと言えるでしょう。動物は理性ではなく本能で動いておりますから。貴女や殿下もそうでしょう? 気に入った異性を手に入れたいという本能しか働いていない、そこに理性はこれっぽっちも働いていない」
「そんなの……貴女が本物の恋を知らないから言えるのです! 本当に好きな人が出来れば……誰だって相手を手に入れるために理性を無くします! 綺麗ごとばかり言わないでください!」
「本物の恋とは人を壊すことへの免罪符になりえるのですか? あなた方はミラージュ様をあそこまで追い詰めて壊しておいて全く罪悪感を覚えていらっしゃらない。そういうところも人というより獣に近いと思うのですが……その点についてビット男爵令嬢はどうお考えで?」
「は……? ちょっと待ってください、ミラージュ様を壊したって……いったい何のことです?」
「あら? もしかして貴女はミラージュ様がどうなったかをご存じない?」
「知りません……。だって、ミラージュ様はエド様から婚約破棄されて領地に戻ったとしか聞いていない……」
「まあまあ、どなたも貴女にミラージュ様の現状を伝えていないのですね? 彼女は今、心を壊して療養中です。なんでも殿下や側近の方々に責められたせいだと聞きましたね」
「え……? 心を壊した? 何それ……どういうことです!?」
「それはわたくしよりも当事者である殿下に聞かれた方がよろしいのでは? ねえ、殿下?」
アンゼリカから話を振られると王太子はバツが悪そうに目を逸らした。
だが、困惑したルルナからも「どういうことです!?」と詰め寄られ、渋々口を開く。
「ちがう……あれは、ルルナを守る為に仕方なく……」
「私を守る為!? 守る為ってどういうこと!?」
「ルルナは多くの令嬢から虐げられていただろう? それを主導したのはミラージュだ。だから私は彼女を断罪した! それを責め立てたと言われればそうかもしれぬ……」
「私の為に……? でも、心を壊すまで責め立てるのはあまりにも……」
「お待ちください、殿下。ビット男爵令嬢への攻撃を主導したのはミラージュ様と仰いましたが、それは違いますよ? 加害者たちはそれぞれ自分の意志でビット男爵令嬢へ危害を加えましたから」
険悪な雰囲気が漂う中、ふと疑問を感じたアンゼリカが彼等の話に割って入った。
淡々とした物言いに二人は勢いよく顔をアンゼリカの方へと向ける。
「お前は何を言っている、首謀者はミラージュだ。あいつは私の寵愛を受けるルルナに嫉妬して非道な行いに手を染めたのだぞ! 自分の手を染めず取り巻きを使うなど卑怯者のすることだ! 王太子としてそんな行いをするものを許してなどおけぬ!」
「いえ、ビット男爵令嬢が階段から突き飛ばされた事件も、ドレスを引き裂かれた事件も、街で誘拐されそうになった事件も、全てその取り巻きが勝手にしたことですよ? ちなみに取り巻きとは殿下の側近方の婚約者ですよね?」
「は……? ちょっと待て! どうしてお前がそれを知っているんだ!? しかもルルナが被害に遭った事件のことまで、どうして……」
ルルナは当時数々の嫌がらせを受けていた。
それこそ先ほどアンゼリカが挙げた大きなものから細かなことまで両手では数えきれないほど沢山の嫌がらせを。
それを当事者でもなく、関係者でもないアンゼリカがどうして知っているのかと王太子は困惑した。
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