ねこのフレンズ

楠乃小玉

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第二章

三十話 もしかしたら、ねこのフレンズ 第二章(完)

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 ドカンちゃんたちは小豆島の険しい山道を登り、
 その頂点を越えると、あとは爽快な下り道。
 フェリー乗り場に到着すると周囲に急に町がひろがった。
 それまではずっと森の中だった。

 そこからフェリーに乗って姫路へ。

 小豆島から姫路までは高松から小豆島や岡山に比べて
 時間が短く感じた。

 姫路から明石までは寄り道せずまっすぐくると、ずっと平地なので
 すんなり帰れた。
 いままで、すさまじいアップダウンばっかりだったので、
 姫路から明石までのルートがいかに楽か、ドカンちゃんは思い知った。

 さっそく旅行から帰ってきた事を木戸さんに報告しようとスマホで連絡をとり、
 木戸さんの家に行った。

 木戸さんはニコニコしている。
 
 「あ、木戸さん、どうしたんですか?」

 「実はね、私の持っていた土地がけっこう高値で売れたんだ!
 しかも、井戸にはパイプを通して息抜き穴を作ってくれるんだって!」

 
 「やったわー!よかったわねサバンちゃん!」
 「やっほーい!これで、これからもシアンちゃんと遊べるよ!」

 シアンちゃんとサバンちゃんは手を取り合って踊った。
 
 「よかった、よかったですね」
 ドカンちゃんは涙ぐんだ。
 「よかった!よかった!」
 チカンちゃんはニコニコ笑った。

 「あ!じゃあ、もしかしたら、ねこのフレンズ、本当にできるかもしれないんですね!」

 「ただ、銀行との交渉はこれからだから、裁判になったら少し時間がかかるかもしれない。
 ただし、買ってくれたのは個人じゃなくて建築会社なので、脅しが通じる相手じゃないのが
 安心だよ」

 「そうですね。裁判にならないといいですね」

 「だから、今はいくらで売れたとか、細かいことは言えないんだ。
 とはいえ、ねこのフレンズは本当に建設できるかもできない。
 ほんの少しでも可能性ができたってことさ」

 「それは素晴らしいですね!
 それじゃ、早速、ねこのフレンズのアイデアを考えなきゃ」

 「よろしくお願いするよ」
 木戸さんはニッコリ笑った。
 
 「ねえ木戸、今回の旅で35万ほど使っちゃった」
 シアンちゃんが木戸さんのところに行って言った。

 「ああ、そうなんですね」

 そう言って木戸さんは家の中に入っていった。

 「やばいよ、使いすぎなんじゃね?木戸さんきっと怒ってるよ」

 「べ、べ、べつにいいわよ、怒ったって、私な、な、な、なんとも思ってないから」

 「うわー、シアンちゃんむっちゃ動揺してる」
  サバンちゃんがフレーメン現象みたいな顔をした。

 木戸さんが家の中からお札の束を持って出てくる。
 「はい、40万。これ補充分です。
 今後ともドカンちゃんを見守って助けてあげてください」
 
 「よよよ、四十万!」 
 シアンちゃんの手がプルプル震えた。

 「あー前に百万円見せられて泡吹いて倒れた時より進歩したね」
 サバンちゃんがつぶやいた。

 チカンちゃんがドカンちゃんの処にポテポテと歩いていって、ドカンちゃんに
 ピトッとくっつく。
 「ねえ、ドカンちゃん、ドカンちゃんが考えたアイデア、
 天神様の黒猫さんに聞いてもらおうよ」
 
 「あ、それは良い考えだね!一緒に行きましょう」

 ドカンちゃんとチカンちゃんは三行電車の南にある天神様に行った。

 「黒猫様、おうかがいしたいことがあるんですか」

 ドカンちゃんがそう言うと、黒猫が長細い腰掛け石からぼわんと出てきた。

 「なんだね」
 「あの、もしかして、ねこのフレンズが本当にできるかもしれないんです。
 それで、ボク、ねこのフレンズのアイデアを考えたんです。
 聞いてもらっていいでしょうか」

 「いいよ」

 「あの、あのですね、マンションの壁に猫の壁画をかざって、ドアノブは猫ちゃんの
 尻尾の形をしたかわいいドアノブがあるんですが、それを全室につけたらいいと思うんです。
 色は金と黒と白銀があるんですが、清潔な白銀がいいかなって思ってるんです」

 「……」

 黒猫はそれを聞いても何も言わない。あさっての方向の虚空に視線を泳がせた。

 「どうしたんですか?答えてください、うんと厳しい答えでもいいですから」

 「……それはダメだね」

 「なぜ、ダメなんですか」

 「君は、入居された借り主さんの猫ちゃんが黒猫だった時の事は考えたかい?
  猫の壁画も、自分の飼っている猫とちがう種類だと感情移入できないかもしれない。
  ドアノブをどうするか、壁の壁画をどうするか、それは、全部
  入居者さんが自分で決めることだ。そんな事を押しつけてはならない。
 それよりも、第一に考えるべきは、そこに住む猫ちゃんの幸せだ。

 君は、自分の夢ばかり語って、猫ちゃんの幸せに目がいっていない。
 そういうのはダメだ」

 そう言われてドカンちゃんはハッと目を見張った。

 「言われてみれば、その通でしたね。
 ボクは神様から勇気をもらって、自分の思い通りに行動できるようになって、
 有頂天になって、周りが見えていなかった気がします。
 弱くてフラフラしてビクビクしていた時は周囲のみんなの心遣いに
 助けられていたのに。なんてことだ。
 うれしくなって、人の事を思いやる気持ちを忘れていました」

 「気づけばよろしい」
 
 「黒猫さんは本当に素晴らしいですね、そのお知恵はどこから沸いてくるんですか?」

 「太宰府」

 「太宰府?」

 「そうだよ」

 「ボクもそこに行ってみたいな」
 
 「やめておけ、そこは修羅の国だ」
 
 「修羅の国?」

 「あぶないから」

 「そんなことないですよ、だって、黒猫様みたいな厳しくても素敵な方が
 おられた場所なんだから」


 「……お前は止めても行くのだろう」
 「行きたいです」
 「では、今まで一緒に旅をした猫の地霊の仲間たちを一緒につれていきなさい。
 生半可な旅ではないぞ。しかし、それをなしえたとき、
 お前はより多くの事を学ぶことができるであろう。

 最初は優しい大分県や宮崎県から回りなさい。
 あちらは風土が優しいから」

 「はい、ありがとうございます!大分、宮崎ってことは九州ですね」

 「そうだ。くれぐれも気をつけてな。無理はせずに、もうだめだと思ったら
 すぐに帰ってきなさい」

 「はい!わかりました」
 ドカンちゃんはニッコリと笑った。

 「ドカンちゃん、新しい旅の始まりだね!」
 「そうだね、チカンちゃん!」

 ドカンちゃんとチカンちゃんは満面の笑みで微笑み合った。



 
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