ねこのフレンズ

楠乃小玉

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一話 頭の上にナマリが乗っている生活

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 白井ルカシロイルカはもう中学校は卒業したけど、
 一応中学時代の友達のライングループには入っていた。
 時々鈍感な男の子が
 「白井はいいよね、毎日が日曜日で。
 こっちはクラブ活動で死にそうだよ」
 とか言って、女の子に怒られていた。

 しだいに居づらくなってライングループから抜けた。
 
 いや、わからないだろ。
 毎日が日曜日なのが一番の地獄なんだって!
 
 痛む良心。
 見えない明日。
 不安で押しつぶされそうになる。
 
 世間からの軽蔑。
 毎日、死にたい、死にたい、死にたい、
 そう念じて生きている。
 小さい体、いつまでたっても発達しない胸。
 笑いながらからかう男子。
 その言葉が胸に突き刺さった。
 だれも、好きこのんで発達しないんじゃない。
 
 みんな、ルカの事を気楽でいいなって思ってるんだろうけど、
 本人にとっては地獄だって。
 ルカだって、みんなみたいにクラブ活動したり勉強したり学校に通いたい。
 
 線路から外れたフリーの恐ろしさ。
 それは線路の上に乗ってる人には分からないだろ。
 線路の上を走る電車に乗っている人にとって電車は日常だが、
 線路から降りて、線路の上を歩いている人間にとって電車は
 自分を殺しにくる大きなプレッシャーなのだ。
 ま
 いってもわからないか。

 そんなある日、お母さんが精神科に行くよう勧めてくれた。
 よほど、思い詰めている顔をしてたんだろう。
 時々、吐くし。
 
 精神科に行くのはすごく怖かった。
 でも、行ってみたら、ウッド作りの室内で、とても暖かい雰囲気だった。
 先生も優しいおじいちゃんで、ニコニコしながらお話を聞いてくれた。
 
 いつから引きこもりになったのか先生が聞いた。
 えーといつだっけ、
 ルカは考えた。
 何で引きこもりになったんだっけ。

 あ、そうだ。
 思い出した。
 
 国語の先生に言われたんだ。
 「お前の書いた小説、あれ、ゴミだな。
 べつにな、お前にプロ並みの作品を書けなんて
 言うつもりはさらさらないよ。
 
 でもな、せめて、家庭料理とは言わない。
 食べ残しの残飯くらいのものは書けよ。
 お前のは食べられないから残飯以下なんだよ」
 
 あ、そうだ、そう言われて、ゲリになって、
 食べたもの嘔吐して、
 得意だった歴史小説書こうとすると手がしびれて書けなくなったんだ。
 友達、みんな楽しみに待ってくれていたのに、
 本当に申し訳ない。
 ルカは自分の布団の上につっぷして一人つぶやいた。
 「ボクはもうだめだよ」
 
 そうそう、自分の事をボクっていうのも陰で

 「変な子」
 って言われてたらしい。
 べつにいいじゃん。ボクの勝手だよ。

 あんなに泉のようにわき出していたアイデアが一切うかばなくなった。
 ああ、嫌な事を思いだした。

 「大変な目にあいましたね」
 先生はそう言ってくれた。
 そして睡眠薬を処方してくれた。
 それを飲んだけど全然効かない。
 
 夜になったら恐怖が空から降ってきて
 不安で不安で眠れない。

 正直にお医者様に相談した。

 「そうだね、運動が足りないんだね」
 先生にそう言われた。
 
 精神科の薬を飲んでもまったく効かないという人がいる。
 しかし、
 効かないのには何か理由がある。
 
 ルカの場合は運動不足だそうだ。
 運動すればよく眠れるようになるという。

 でも、気力が萎えて動く気がない。

 「そうだね、じゃあ、なにか目標を決めて行ってみよう」
 先生がそう言われた。
 
 ルカは考えた。
 どうしよう。
 そうだ、お宮参りしてみよう。
 昔、ルカをものすごくかわいがってくれたおじいちゃん。
 おじいちゃんがよくお宮参りにつれて行ってくれた。
 
 近所に稲妻神社というすごい名前の神社がある。
 御利益は敵国討伐。
 なんじゃそりゃ。
 
 昔、大陸から日本に攻め込んできた鉄人という将軍が
 ルカが住んでいる兵庫県明石市まで攻めてきたとき、
 大稲妻が鳴って、鉄人が落馬して、
 日本軍に討ち取られてしまったらしい。

 それで、稲妻神社。
 凄い名前の神社。

 行って見ると、とても立派な随神門がある。
 すごく古い木造の神様の像が門の中の左右に入っている。
 そこを通ると、若いほうの随神様にじろりと睨まれた気がして
 ルカはドキッとした。

 その門をくぐると向かって右に手水鉢がある。
 大きな石の水桶の前に龍みたいな顔の亀の石像があり
 その口から水が流れ出ている。
 
 その水で手を洗い、口をすすごうとした。
 その時である。

 「その水は井戸水だから飲んじゃだめ!」
 
 「え?!」
 ルカは周囲を見回した。
 だれも居ない。
 「その横に綠色の龍の格好がした水道があるでしょ」
 その声の言うとおり、石の手水鉢の横に綠色の龍の格好がした水道があった。
 頭の上に丸い宝珠が乗っていて、それをひねると水が出た。

 「その龍の蛇口が水道水だからそれで口をすすいで」
 言われるがままに、ルカは口をすすいだ。

 そのあとルカは声がした方向を見た。
 
 誰もいない。
 ただ、大きな石碑があって、
 その真ん中に
 「花心」
 と彫り込まれていた。
 たしか声はその裏側からした。

 そっと石碑の裏に回ってみると、オレンジ色の御札が貼っている。
 ルカは神社の事とか詳しくないので、何も考えずにその御札をはがす。
 ポン!
 軽い音がして白い煙があがる。
 そこにはオレンジ色の中国服を着た体長五十センチくらいの女の子がいた。
 驚いた事に、その女の子の頭にはたれた猫みたいな耳がはえていた。
 
 「あの、君は誰ですか?」
 ルカは聞いた。
 「地霊が真名なんて人に言えるわけないじゃん!」
 「そうなんですか?じゃあ、どう呼びましょう」
 「ニックネームをつけて!お前はお胸がなくて
 ツルペタだから、ドカンちゃんな」

  それを聞いてルカはちょっとムッとした。
  この猫の女の子、全然優しくない。

 「あの、その耳はひょっとして猫さんなんですか?」
 「種類で言うならマンチカンの地霊だよ」
 「そうなんですか、じゃあ、チカンちゃんで」
 ルカはちょっと仕返しをした。
 「なんだよ!チカンって!もっといいの考えてよ」
 「そうですね~じゃあ、マンチカンだからマン子ちゃんで」
 「もっとダメだよ!」
 「じゃあマンちん子ちゃんで」
 「もうチカンちゃんでいいよ!」
 チカンちゃんはぴょんぴょん跳ねながらプンプン怒った。
 
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