ねこのフレンズ

楠乃小玉

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二十三話 シアンちゃんはタオルを食べた

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「はあ、はあ、はあ」
 サバンちゃんの体が小刻みに震える。
「我慢しなさい、もう少しだから」
 シアンちゃんはカバンちゃんに肩をかす。
 ジュッと音がする。
 「やめてよ、シアンちゃんが火傷しちゃう」
 「うるさいわね、人の心配してる場合?」
 「やめてよ!」
 サバンちゃんはシアンちゃんを突き放す。
 「ボクも蒸発して疲れるからやめて」
 「ご、ごめんなさい」
 シアンちゃんは素直に謝る。
 サバンちゃんはやっとの事で明石川の嘉永橋までたどり着く。
 「もう我慢できないよ、アイ、キャン、フライ!」

 サバンちゃんは橋の上から飛び降りる。
 「キャー!」
 シアンちゃんが悲鳴をあげる。
 
 バシャン水音がしてサバンちゃんは川の水に叩き付けられる。
 「サバンちゃん!」
  シアンちゃんは少し橋の端っこのほうまで走って、そこから橋の下にダイブする。
 ビタン!
 川の側道のアスファルトにシアンちゃんの体が叩き付けられる。
 それでも根性で起き上がるシアンちゃん。
 
 「来ちゃだめ、シアンちゃん本当に死んじゃう!」
 サバンちゃんが叫ぶ。

 「何言ってるのよ!サバンちゃんを助けるためなら、私は死んでもいいのよ!」
 「だめ!ボクが悲しいよ!」
 「あなたは生きて!私の分まで!」
 
 フワッ

 サバンちゃんの体が宙に浮く。
 
 「これ、何をしとるじゃ」
 背広を着てメガネをかけたおじいさんが、
 川に飛び込もうとジャンプしたシアンちゃんを抱き留める。

 シアンちゃんの目からボロボロと涙がこぼれる。
 「私なんてどうでもいいの、サバンちゃんを助けて、
 私の大切なお友達のサバンちゃんを助けて」
 
 シアンちゃんは懇願する。
 「どれどれ」

 おじいさんは杖をもっていて、川の腋まで歩いて行く。
 「ボクは大丈夫だよ~」
 サバンちゃんはジャバジャバ泳いで岸までたどり着く。
 「よっこいしょういち」
 おじいさんは川の水際に腰掛け、サバンちゃんにステッキを差し出す。
 サバンちゃんはそれに捕まって岸にあがった。
 「おじいさん、ありがとー」
 
 「なんじゃ、びしょびしょじゃないか、
 うちに来てタオルで拭きなさい」
  おじいさんが言った。
 「心配ご無用だよ~」
 そう言ってサバンちゃんが体をブルブルッとふるうと
 サバンちゃんの体はすぐに乾いた。

 「こりゃおもしろいね、うちでお茶でも飲んでいかんかね」
 「は~い」
 サバンちゃんは脳天気に答えた。
 「あ!」
 サバンちゃんはシアンちゃんがサバンちゃんの体を無理に支えたときに
 掌が火傷みたいになって皮がズルズルむけて水ぶくれになっているのを発見した。
 「ごめん、ごめんねシアンちゃん」
 サバンちゃんは涙ぐむ。
 「何言ってるの、あなたが助かったんだから、何も痛くはないわ」
 シアンちゃんはそう言って強がったけど、足が小刻みにガクガク震えていた。
 
 「どうだい、ウチの店に来ないかい、すぐ近くなんだ」
 「ちょっと寄らせてもらおうかしら」
 シアンちゃんは言った。

 このおじさんのお店は、橋をわたってすぐ、向かって左にあった。
 不動産屋さんだった。
 
 事務員の人がお茶を出してくれた。
 「ゴクゴクゴク、あーおいしー」
 サバンちゃんはお茶を一気に飲み干した。
 「それよりタオルいただけないかしら」
 シアンちゃんが言った。
 「はい」
 事務員の人がタオルを渡した。
 「モシャモシャモシャ」
 シアンちゃんはタオルを食べた。
 ゴオッ!
 体の中で燃える音がした。
 「こりゃおもしろい、新聞紙でも喰うかい」
 おじいさんが新聞紙を差し出す。
 「新聞紙は痰の毒だから食べぬ」
 シアンちゃんは拒否した。
 「ははは、石田三成みたいな事言うんだな、おもしろい」
 おじいさんは笑った。
 「それじゃ、先をいそぐので失礼するわ」
 シアンちゃんは外に出ようとする。
 「また遊びにおいでよ、ワシは桜不動産の社長の桜木サクラギじゃ」
 おじいさんが手を振った。
 「ばいば~い!」
 サバンちゃんが手を振る。
 「さよなら」 
 シアンちゃんが一礼した。
 
 「また社長が何も無い空中に向かってしゃべってるわよ」
 「シッ、もうお年だから、そっとしておいてあげなさい。
 私だってゴッコ遊びに付き合って誰も居ないテーブルに
 お茶置いたんだから」
 事務員の女の子たちがこそこそとしゃべっていた。
 

 
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