ねこのフレンズ

楠乃小玉

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三十九話 生きろ

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 家に帰る途中、木戸さんの家に寄ってみた。
 木戸さんは玄関口で男性と話していた。
 木戸さんも男性も困り顔をしていた。
 
 「どうしたんですか」
 ドカンちゃんは木戸さんに歩み寄る。
 男性は木戸さんを見る。
 「いいです、この人は大丈夫です。身内ですから」
 木戸さんに身内と言われて、一瞬、ドカンちゃんは体がカーッと
 熱くなった。

 家族以外で誰にもそんな事言われたことがなかったから。
 ドカンちゃんは気持ちを抑え、できるだけ平静をよそおう。

 「実はドカンちゃん、長い時間父を説得して、
 やっと私の自宅の土地を売ること了承してくれたんだ。
 この人は不動産会社の人だよ。

 私の自宅の土地を売って、父の借金を
 返済しようと思ってたんだけど、出来なかったんだ」

 「どうしてですか」
 「六千万で買い手がついたんだけど……」

 「それじゃ、借金返済できるじゃないですか」

 「それが、不動産売却税が20%も加算されるんだ。だから、
 土地を売っても借金が返せない。それで、最終的に売却を断念したんだ」

 「そんな無茶苦茶な!」
 「無茶苦茶な悪法でも法は法なんだ。
 20%の売却税はバブルの時に土地が高騰したので、
 それを防ぐために作られた法律なのに、こんなに不景気になっても
 まだ同じ法律が続いている。でも、法律だから仕方ないよ」

 「そうですか、残念です」

 「これでもう、どうしようもなくなった。
 毎日、メンテナンスの脅しを受けるかもしれないと思って
 冷や冷やしながら生きなければならない。
 結局、私は銀行に勝てなかった。
 悔しいけど、財産全部、銀行に取られてしまうしかない。
 そして私の今住んでいる家に両親を引き取るよ。
 どうして、こんな事になってしまったのか」


 「天神様に行って見ようよ、何か良いお知恵を授けてくださるかもしれない」
 ドカンちゃんが言った。
 「どうせ、依存するな~自分で考えろ~とか冷たい事言われるよ!」

 チカンちゃんが言った。
 「そんな事、行く前から勝手に決めてちゃだめだよ」
 ドカンちゃんは木戸さんを見る。 
 「さあ、木戸さん、行きましょ」
 「そうだね」
 
 木戸さんとドカンちゃん、そしてチカンちゃんは天神様に行った。
 いつも通り、チカンちゃんが社殿の横の長細い石に向かって声をかける。
 「出てきてよ」

 「またか、しつこいぞ」
 少し不機嫌そうに黒い猫が出てきた。

 「もう万策尽きました。あとは、ゆっくりと銀行に殺されていくしかありません。
 それでも私は生きる道を選びました。屈辱に耐えて、銀行に頭をさげて、
 虐められても、とにかく謝罪して服従しつづけるつもりです」
 その場に跪いて木戸さんが言った。

 「……」

 黒猫は木戸さんを凝視した。まぶたをゆっくり閉めて、またゆっくりあけた。
 黒猫はノソノソと玉垣に近づいてきた。
 そして石で出来た玉垣をすり抜ける。

 「通訳しようか?
 チカンちゃんが言う。
 「無用。私が直接話しかける」
 
 その声に驚いて木戸さんが上を見る。
 「あ、黒い猫」

 黒い猫は木戸さんに歩み寄る。
 
 「よくぞ耐えた、我が氏子よ。
 人は戦うことばかりが勝利だと思いがちだ、
 しかし、
 勝利とは生き残ることだ。
 どんな苦渋を飲んで、服従して
 屈辱にまみれても、
 生きていれば、必ず活路がある。
 よくぞ耐えたな、人間よ。
 耐えること、我慢すること、
 生き残ること。
 それこそが人生だ。」

 「なんだか心臓の中に鉛を埋め込まれたようです。苦しくて、苦しくて
 息が詰まりそうなんです」

 「それが人の世だ。皆、その鉛を心の中に抱えながら
 毎日、歯を食いしばって生き延びているのだ。
 お前は生きている。
 そう、生きているのだ」
 
 そう言って黒い猫は木田さんに近づき、強く抱きしめた。
 黒い猫は木戸さんの耳元い口を近づけ、なにかささやいた。
 
 木戸さんは目からポロポロと涙をこぼし、
 その場に崩れ落ちた。
 
 「何?何?」
 チカンちゃんが木戸さんの顔をのぞき込む。
 「生きろと……」
 
 「よく頑張ったね、偉いですよ、木戸さん」
 そう言ってドカンちゃんは木田さんの背中をさすった。

 「悔しい……悔しい……」
 木田さんは何度も神社の玉砂利の上を拳で叩いた。
 
 チカンちゃんは黒い猫が怒るのではないかと思ったのか、
 心配そうに黒い猫の顔を見る。

 黒い猫は無表情にそれを見下ろしていた。そして、
 手をヒラヒラさせて、「よいよい」という合図を送った。
 そして、神社の玉垣の中に消えていった。

  チカンちゃんが冷静な表情で腕組みをする。
 「そりゃ、こうなるよ。これは小説や物語じゃなくて現実なんだ。
 銀行側だって、最初からひっくり返されないように計画建ててるわけだし
 こっちは法律の素人。
 普通に考えて99%負ける戦い。
 よくドラマとかで圧倒的不利な状況から大逆転とかあるけど、
 実際の日本の何千年もの歴史の中でそういう事って、鵯越えと桶狭間くらいでしょ。
 こんなに莫大な時間の中で何万回と戦いが繰り広げられて、たった二回。
 そりゃ、普通に考えて負けるよ、それが普通。
 そんな中で、木田さんの自宅だけでも残ったなら、それだけでも勝利だと
 思わなきゃ。お父さん名義じゃないお家が一つだけでもあってよかった」

 チカンちゃんはそう言うと自分に言い聞かせるように何度も頷いた。


 
 
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