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33話 ありがとう神様

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 桑の実が大きく育った。
 育ちすぎてるのは真っ黒になっていた。
 これは食べられないな。
 赤い実を食べよう。

 一つ食べてみた。
 
 うわっ!すっぱ!

 食べられないよ。

 なんだ黒い実が熟成してるのか。

 なんか生臭いような独特の風味で全然美味しくない。
 桑の実美味しくない。

 なんかマルベリーとかいうどう考えても美味しそうな名前なのに全然美味しくない。
 大失敗だ。

 「なんだ、お前らマルベリーの食べ方も知らないのか、この間抜けめ」

 リリカ先生が小ばかにしたように言った。

 「これ食べられるんですか?」

 「当たり前だろ、ジャムにするのだ」

 「あー」

 しかし、ここに甘味の元はあるのか?砂糖は見た事がないけど。だけとチョコレートは甘かったなあ」

 「お前、甘味の元を何にしようか迷ってるな?」

 「あ、はい」

 たぶんこの地方ではサトウキビは栽培できないだろう。どうするんだろう。

 「まず、甘味の材料はテンサイ、メープル、ハチミツ、麦芽だ」

 メープルとハチミツは定番だが、テンサイって聞いたことがない。異世界の品種か?
 麦芽はムギだよな。

 「テンサイってこの地方独特の品種ですか?」

 「異世界渡来品だ」

 そうなんだ。知らなかった。

 「麦芽が一番簡単に材料が手に入りそうですが」

 「そう思うだろ、でも一番作る手間がかかるぞ。まず大麦を発芽させて大麦もやしをつくる。
 それを乾燥させて粉末にする。次にもち米のおかゆをつくって少しさます。そこに粉末発芽麦芽を
 入れてる。少し煮込んでからさます。それをこし布でこした汁を煮詰めて出来上がりだ。
 どうだ、面倒だろ」

 「面倒ですね」

 「テンサイが一番簡単だな。テンサイをすりおろしてこして、煮込めば終わりだ。」

 「メープルはどうなんですか?」

 「サトウカエデの樹液だ。本来、北方に多くある木で、この辺りにはあまりないので高級品だ」

 「ハチミツは……」

 「まあ、最初からそのままだけど、危険だ。分かってるだろ」

 「そうですね」

 結局、オレ達はテンサイというのを一番に買いにいった。

 実際見てみると、でこぼこしたカブラだった。

 このカブラが甘いのか。

 独特のものだな。

 これをすりおろし、こして煮込んで蜜をつくる。

 次は桑の木の下にシートを引いて桑の実を振るい落とす。

 ふるい落としたあとで大きなタライに入れて水につける。

 「何で水につけるんですか?

 「ふふふ、青虫を食べたくないだろ」

 リリカ先生が悪い顔で笑った。

 ああそうか。

 実際、ちょっとだけ青虫が浮いてきた。

 水面で暴れている虫たちを排除して実にひとつずつついている枝を取る。

 大鍋に入れて蜜と一緒に煮込んだ。

 「ふふふ、お前ら、大事なものを忘れてるぞ」

 そう言って先生はレモンを何個か取り出してきた。

 あ、そうだ、生で食べると、ちょっと生臭いような風味があったなあ。

 ひょっとして、この先生、いい人かもしれない。

 先生はレモンを何個か輪切りにしてその汁を絞り入れた。

 煮込んで出来上がり。

 レモンを入れたせいで、ちょっと酸味があって美味しくなった。

 食堂に運んでいくと黒足猫が喜んでいた。

 う~なごむ~。

 「うわ、ちょっと、あれ最強タケシ様よ、すごいわ」
 
 「料理も御つくりになれるの、素敵」

 女の子たちが柱の裏に隠れてコソコソ話してる。

 おいおい、人気者かよ。

 称賛の声がサラリーマンのオッサンの身に染みるぜ。
 普通に当たり前のことしてるだけなのにさあ。

 でも、最強タケシって誰がつけたんだよ、そんな名前。

 前からキコキコと三輪車を漕ぐ音がしてくる。

 「よお、最強タケシ!」

 慶ちゃんだった。

 「あ、どうも」

 むっちゃ恥ずかしいわ。

 そんなこんなしてる間に運動会の日になった。

 士官学校の運動会だけにすごい格闘技とかあるんだろうなあ。

 オレの出場するのはトラック一周競技。
 うわ、楽勝かよ、体力勝負なら全部オレの勝ちじゃん、悪いなあみんな。

 と思ったらパン食い競争だった。

 うはっ!パン食えねえ。

 結局ビリ。

 でも、パンの中身のジャムがマルベリーだったので、ちょっと嬉しかった。

 次、軍人将棋。

 なんだよ、軍人将棋って。

 オレは飛車。
 
 うはっ、評価高っ。

 オレの前に歩の茶虎が現れる。

 うわっ、評価低っ!

 まあ、楽勝だけどな、ごめんな茶虎。

 レフリーがやってくる。

 「対戦、ファイト!」

 ドン!

 オレたちの前に机がドンとおかれ、
 そこにけん玉が二つ並んでいる。

 は?

 「はい、けん玉ファイト!」

 はあああああああ?

 パコッ!

 茶虎が先に玉を乗せる。

 「勝者、茶虎あああああ!」

 「やったー!最強タケシさんに勝ったー!」

 茶虎がむっちゃ喜んでるからいいか。


 第三試合、料理対決。

 対戦相手は黒足猫。

 もう負けられねえ。

 種目、おふくろの味、みそ汁!

 え?

 でも負けられない!

 お味噌汁はダシで決まる。

 先にさっと鰹節を煮出して、昆布もさっと湯通しする。あんまり煮込むときぶ味がでる。
 本当ならシイタケと昆布を水だししときたかったが時間がない。
 少量のお酒と具に玉ねぎを入れて甘みをおぎなう。

 あと、鰹節の補強にブタの薄切りを刻んで入れる。

 人参と大根と里芋。

 あと、薄切りのこんにゃくと塩鮭を少々。


 これで豚汁の出来上がり!

 黒足猫はスタンダードなワカメと大根の白ダシお味噌汁。

 「勝者たーけーしー!」

 やったー!勝ったー!

 「さすが、料理王タケシ様!」 「キャー素敵ー!」

 なんか女の子たちが喜んでいる。

 これでよかったのか……。

 なんかあんまり勝てなかったけど、料理で優勝して料理王の称号とメダルを貰ってしまった。
 手書きでクレヨンで字が書いてあるけど、大事な宝物さ。

 体育祭のあとは文化祭だ。

 どうしよう、オダ・ケンクン魔法院のみんなと一緒に出し物がしたい。

 オレは急遽きゅうきょ行軍部というのを作って学級委員に申請を出した。
 やばいかな?ワンダーフォーゲル部とかにしとけばよかったかな?とか思ったけど、
 あっさり通った。さすが士官学校。

 当日はお神輿パレードがあるらしく、お神輿を作ることにした。
 近所の竹林を持った村人に頼んで、竹を伐採させてもらう。

 料金はタケノコの掘り出しと運搬。

 竹はいくらでも生えてくるので伐採してくれたほうが嬉しいんだって。

 竹を割って円状に骨組みして、さあ、何をつくろう。

 「タコがいいよ!」

 アメリカンカールが叫んだ。

 何かみんな同意。

 紙を貼って、足をつけて、針金でくねくねにして、真っ赤な絵の具を塗って。

 なんか、すごく懐かしくて、涙が出そうになった。

 その日は、学校の教室に泊まることになった。

 夜になっても、みんな興奮して眠れなくて、ロウソクの明かりをつけていたら、大きな蛾が
 入ってきて、
 オソロシアが「可哀そうだから外に出してあげよ」と言って外に出したのに、
 またロウソクに寄ってきて、最後はロウソクに当たってジュっといって死んだ。

 「あ~あ、バカだなあ」

 オソロシアが悲しそうな顔をしていた。

 本当にバカだなあと思った。でも自分で当たりに行ったから仕方がない。

 「ねえねえ、メイド喫茶しようか、みんな美人だからお金儲かるよ」

 またアメリカンカールが言い出した。

 「いや、それは止めよう」

 オレは反対した。

 「なんでだよう、タケシだって美人のみんなのヒラヒラの衣装見たいだろ?」

 「いや、そりゃそうだけどもさ、そういう恰好イヤな奴もいるかもしれないじゃん。
 普通に、いつもの恰好で焼きそば屋とかしようよ。みんなが楽しい文化祭がいいから」

 「ちぇっ」

 アメリカンカールがちょっとふてくされた。

 でも、女の子みんなの気持ちを考えたかった。
 せっかくの文化祭、みんなが盛り上がっているのに、一人だけ、セクシーな恰好を
 したくないという子がいても、女の子は言い出しにくい。

 だからオレが言ってあげないと。うちの子たちはオレが守らないといけない。

 みんな教室の片隅で毛布をかぶってスヤスヤ寝ていた。

 一人だけ、男のオレが居たら、
 
 次の日は材料を買ってきて、近所で大木の丸太を買ってきて、斧っで四つに割って、
 真ん中から火をつけるようにする。

 スウェディッシュトーチ というらしい。

 使い終わったら割ってマキにすればいいし。

 その上にフライパンを置いて焼きそばを作る。

 と、思ったけどソースがない!

 急遽、ナポリタンスパゲティー屋になった。

 ケチャップもない!

 仕方がないので、野菜をすりつぶして野菜ジュースを作り、
 そこに、塩と香辛料を入れてソースを作った。

 茹でたパスタをそのソースで煮込んで野菜ソースパスタの出来上がり!

 ちょっとハムとかソーセージを刻んでいれたら味にコクが出た。

 お店は大盛況でいっぱい売れた。

 楽しかった。

 何年振りだろうこんな気持ち。

 こんな純粋な気持ち。

 学校に居たときは帰宅部でこんな気持ちは無かった。

 変に斜にかまえていて、一生懸命「青春だ!」とか言ってる連中を冷ややかな目で見ていた。
 それでいて、家に帰ってやることはオンラインゲーム。

 オンラインゲームでもパーティープレイは嫌いだった。
 おかげでオンラインゲームにもそれほどハマらなかった。

 オンラインゲームにハマる奴は、オンラインゲーム内での人間関係に
 捕らわれてしまって抜けられなくなっていた。
 まるで宗教のようだと思った。

 こんな事してたら人生ダメになると思っても、
 他の周囲の連中が「仲間を捨てるのか」とか言って足を引っ張って抜けられなくする。

 自分はリアル人生でも、そういう人間関係は冷笑してたから、そういう連中には
 近づかなかったけど。

 一人でゲームしてNPC相手に無双して、「オレはここで一番強いんだー!」
 と叫びながら悦にひたってた。

 ゲームがあれば、それでよかった、人なんて別にいらないと思ってた。

 それでも、ここにいると、本当の人間のぬくもりを感じる。

 パソコンからは温度が感じられない。

 でも、ここでは隣にいるオソロシアの体温を感じるんだ。

 生きていることを実感できる。

 人って温かいなあと思った。

 獣人だからかな。

  現世では本当にイヤな事があった。
 イジメもあった。
 イジメられすぎて精神的にちょっと病んでいた。


 だから、ここにきて本当によかった。

 ここはたとえ、死と隣り合わせでも天国です。

 出し物が終わると、みんなでお神輿パレード。
 
 わっしょい!
 わっしょい!

 楽しいなあ。

 女の子たちの甘い汗の匂いが漂ってクラクラした。

 幸せ。

 あ~夢の国だ。

 お神輿パレードが終わると、作ったお神輿を積み上げて、
 火をつけてキャンプファイアー。

 「も~えろよ、もえろ~よ~」

 みんなで火を囲んで歌った。
 

 オソロシアが隣に座って、オレにもたれかかって来た。


 オソロシアの温かいぬくもりが肩越しに伝わってくる。

 ああ、幸せだ。

 楽しい世界。

 ずっとこの世界に居たい。

 現世なんてまっぴらだ。

 ずっとこの世界に居るんだ。

 温かい燃えた匂いが鼻をくすぐる。

 何とも言えない、懐かしい匂いだ。


 この幸せのひと時は一生忘れない。

 ありがとう、

 神様。



 

 
 

 
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