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45話 魂の分岐点
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トツリバー村に近くなった。
森の中の道を駅馬車と馬に乗って進む。
伝令役のボンベイはすぐに引き返せるように馬に乗っている。
遠くのほうの木の枝になにかぶら下がっている。
風に吹かれてユラユラ揺れている。
なんだあれは。
子供の頭だった。
最悪だ。
もっと近づいてみる。
目玉はくりぬかれているものの、髪の毛の色、骨格、鼻、
楠若だとわかった。
オソロシアがビュンと飛び上がってぶら下がっている木の枝を切った。
一刻の猶予もないことは分かっている。
でも供養してやらないわけにはいかなかった。
手持ちの軍用スコップで山の斜面を掘ろうとするが、
木の根が張り巡らされていて掘れない。
クビを手で触ることはできない。
何か感染菌などの細工をしているかもしれない。
「くそがっ!」
「落ち着けタケシ」
オソロシアがオレの肩に手を置いた。
「すまん。可哀そうだが頭はここにおいて行こう。あとで回収する。
しばらく先に進むとかすかに、遠くの方からうめき声が聞こえる。
誰かがフラフラと歩いているのが遠目にも見えた。
しまった、茶虎を連れてくるべきだった。
「ボンベイ、すまないが至急茶虎を連れてきてくれ」
「承知しました!」
ボンベイが全速力で来た道を馬で引き返していった。
オレは馬車をいそがせ、フラフラ歩く人影に近づく。
近づくにつれ、血だらけだとわかった。
もっと近づく。
頭が割れて脳みそが飛び出している。
ゾンビだ。
もう助からない。
馬車の音を聞いてゾンビが振り返る。
「うおああああああああああ」
佐武伊賀だった。
「シャンティーリー燃やしてくれ」
「わかった」
シャンティーリーが火柱を立てて佐武伊賀だったものを焼き尽くした。
触れれば何か感染菌などの細工をしているかもしれない。
そのあとで、津田監物のゾンビも発見し焼却した。
しばらく行くと、バラバラになった鈴木孫八の肉片が落ちていた。
かなり抵抗して敵から怒りを買ったのだろう。
ゾンビにできないくらいバラバラにされていた。
これは、プルプル君の仕業ではない。
プルプル君が顔見知りにこんなむごいことをするわけがない。
それにこれはアンデット系の奴がやったことだ。
アンデット使いではなく、スライムのプルプル君にこれはできない。
オレは何度も頭の中で反復して考え方を整理した。
鈴木孫六の胴体が見つかった。
背中の皮がはぎとられている。
背中に貼られた召喚符を持ち去るためだろう。
他のメンバーもおそらく召喚符は奪われていることだろう。
オレ達は孫六の死体を焼却したあと、
楠若のクビのところに戻り、楠若の頭を焼却した。
申し訳ないが骨も回収できない。細菌系だけではなく、何か
魔法系のトラップが仕掛けられているかもしれないからだ。
オレはトツリバー村に向かい、リナにその詳細を説明した。
リナは落胆したが、払ったお金は遺族に渡してくださいと言った。
だが、仕事をしていないのに、そうするわけにはいかない。
オレはサイカギルドに行き、詳細を話し、死体を焼却した場所にも
サイカギルドの使者を案内した。
「ああ、孫六」
涙を流しながら使者の一人が骨を拾う。すると骨から毒ガスが噴射して使者は吐血して死んだ。
これで、これが完全な暗殺であることが立証できた。
サイカギルドはリナに代金を返却した。
サイカギルドの長、孫市は今回の事を激怒しており、犯人に5千万Pの賞金をかけた。
オレ達はレンジャー本部に帰る途中、茶虎を馬の後ろに乗せたボンベイと遭遇したが、
もうすべて遅かった。
最初から間に合わなかったのだ。
レンジャー本部に帰ると本部は血だらけになっていた。
本部に待機していたレンジャー部隊の約三分の一の精鋭が殺害されていた。
その時本部に居た者おそらく全員だ。
「アメリカンカール!アメリカンカール!」
オレは大声を張り上げて、アメリカンカールをさがした。
壁にナイフが突き立てられて、そこに何か書いた紙があった。
「アメリカンカールは連れていった。お前らも一緒に組もう」
そう書いてあった。
その下に知らない人には分からないグラマンの署名があった。
「あのバカめ、殺す」
オレはうめいた。
茶虎に魔法トラップが貼られてないか、ナイフ、紙を調べさせたあと、
その紙はシャンティーリーに焼却させた。
こんな事で疑われたり濡れ衣を着せられてはたまらない。
オレはその地図に書いてあった森に向かった。
そこは、ヨシノーのまだ先の山奥。
ハンドレットシェルキャッスルという城跡がある場所だった。
オレ達は完全武装で大決戦を覚悟で山を登った。
そして、しばらく行くと、視界が急に広がった。
そこには無数のゾンビとスケルトンとアークデビル、デスナイトの死体まで転がっていた。
すべてズタズタに切り刻まれている。
いったい何があったのだ。
大量のバケモノの死体の中で誰か一人立っている。
ゾンビか?
オレ達は警戒して近づいた。
アメリカンカールだった。
アメリカンカールはオレ達を見るとボロボロと涙を流した。
アメリカンカールはオレに歩みよろうとする。
「動くな!」
オレが厳しく怒鳴るとアメリカンカールはビクッとした。
「茶虎、トラップ確認」
「はい!」
茶虎はトラップを確認した。
「トラップありません」
「よし」
オレはアメリカンカールに走り寄って抱きしめた。
「あああああああああー!」
アメリカンカールは大泣きした。
「誰が助けてくれたんだ?」
「うううう、ハインツ、ぐすっ、ぐすっ、ハインツ」
アメリカンカールはしゃくりあげながら言った。
オレ達は城の中を探索した。
城の奥の玉座の辺りで真っ二つに圧し折られた
マモーナスの死体を発見した。
体から大量の茶色い蜜が流れ出していた。
待てよ!
オレははたと気づいた。
マモーナスは素早い。
通常なら相手に捕まって圧し折られるようなヘマはしない。
それがどうして捕まったのか?
それは、捕まっても糖を注入して気絶させる自信があったからだ。
しかし、エンドレスマウスを使って糖を全部吸収されたわけでもなく、
まだ体内に大量の糖が残っているのに、捕まってころされた。
糖の注入に失敗したのか?
なぜ?
糖は魔法ではなく物理なので、対魔法防御が完璧でも関係ない。
ではなぜ?
アンデット。
それ以外に答えはない。
アンデット!
いや、プニプニ君はスライムだ。
生きている、アンデットではない。
これはどういうことだ。
オレの頭は混乱した。
オレは必死に考えたが、ここではその答えは出なかった。
では、今回の一連の騒動を起こした犯人について考えよう。
今回の大殺戮事件は、おそらく、関西石膏連帯に依頼されたマモーナスの仕業だろう。
オレはアメリカンカールの処まで戻ってくる。
「相手がグラマンで良かったな。顔見知りじゃなかったら確実に殺されていた。
ところでグラマンは?」
「うううううう」
オレが尋ねるとアメリカンカールは泣きながら、近くに転がっている真っ黒な炭の塊を指さした。
「ああ、これか」
凄まじい有様だった。
オレは今回収集した情報、考察をレポートにまとめ、それをレンジャー隊長に渡した。
レンジャー隊長はそれを国王の元に送った。
この情報はナニワ民国やキシューとも共有された。
関西石膏連帯は、今まで大物政治家とつながっていたので、どんな横暴な事をしても
逮捕されなかったが、
今回ばかりは大量の逮捕者を出し、主催者も逮捕された。
しかし厄介な事が起こった。
ナニワ民国からの強い要請で、今回の事件に関して厳しい箝口令が敷かれた。
ナニワの士官学校出身者が問題に絡んでいた可能性が捜査の結果濃厚となったからだ。
しかも、その犯人を殺害したのがプルプル君であった場合、葛城土雲へのイジメ殺人事件の
問題も浮上するのであって、これはナニワ民国の威信を大きく傷つけかねない。
その結果、今回の大殺戮事件は、先にキシューの精鋭部隊と交戦した謎の武装集団であるという
結論がなされた。
犯人はまだ捕まっておらず、未だ逃走中であるという事になってしまった。
実際は、犯人を殺した連中は、自分のギルドの仲間を殺された復讐をしただけであり、
悪い事はしていない。もしトツリバー村を守ったシュピンネとテンプル騎士団と、プルプル君が
同一人物なら、彼は何も悪いことはしていないのだ。
ただ、気になることがあった。
マモナースが糖の攻撃を使ったにもかかわらず、彼にはそれが通用しなかった。
たとえスライムであっても糖の攻撃は効くはずだ。
ということは、アンデットである可能性が濃厚となってくる。
それはどういうことか。
プルプル君は狂犬のグランツと戦ってこれを捕食する時に大怪我を追ってしまったのでは
ないだろうか。
そして、死を悟ったプルプル君は自らをアンデットとして死んでしまった。
ただ、アンデットには問題があった。
アンデットは術者に使役される存在だ。
自分の意思、自分の自我がない。
死んだ人間をアンデット化させ、それに生きている時の自我を復活させる方法はただ一つ。
スライムを食べさせることだ。
オレは部活で下級生ができた事で、
事故が起こらないようにプルプル君に詳しく特性の聞き取り調査をした。
だからプルプル君がドラゴンを食べて最強になりたかったことや、
人間を食べて人間の形になりたかったことを知り、
人間は死刑囚であっても食べたら重罪であることを調べたり、
すでに死刑執行された犯罪者でもナニワ民国の法律では食べたら重罪であることも知った。
スライムに関する特性は全部プルプル君から聞いた。
スライムは捕食した相手の能力をトレースする能力がある。
よって本来最弱であるスライムが金属系の鎧武者や鎧騎士を捕食しつづけることによって、
ガチガチの強固なはぐれ系のスライムに変異したりすることもある。
人間を捕食すれば人間の知能も得るし、その人間の姿にもなれる。その人間の持っていた魔術も
使える。しかし、自我は元のスライムの自我のままだ。捕食された者の自我や意思が
受け継がれるものではない。
この特性を利用して、スライムを捕食させることによって、
元の人間の自我を復活し、形だけは蘇生したようにはできる。見せかけでは。
スライムが人間を捕食して人間の特性を得られるなら、魂のないアンデットがスライムを
食べることによって人間に戻れるのではないかとオレは疑問を持ち、
忍ちゃん先生にそれを聞いてみた。
変幻自在に形を変えられる人間型の忍ちゃん先生がそういう存在かもしれないと疑ったからだ。
だが忍ちゃん先生は水の精霊であり、まったく違う存在だった。
そして忍ちゃん先生から教えられた。
一旦死んだ人間の魂は死んだ段階から崩壊してゆく。
そして消えていく。
それを防ぐためには常に、その魂に精神エネルギーを注ぎ込み続けなければならない。
その方法は二種類ある。
常に感謝され、崇拝される事。
常に憎まれ恐れられ恐怖されること。
プラスであれマイナスであれ、精神エネルギーを吸収すれば魂の崩壊を防ぐことができる。
高次の魂は、たとえ己の魂が崩壊してもいいと覚悟しているので、
無駄に人間の気を引く、現世利益など与えない。
人をより尊い魂に導こうとする。
どうしても魂が崩壊したくない魂は、ついつい現世利益を与えてしまう。
もっと低い魂は、他人がどうなってもいいから精神エネルギーが欲しいので、
人と人が殺し合うような憎しみあうような方向に誘導して負の精神エネルギーを強奪する。
そこが神と悪魔の分岐点だ。
もう、人には戻れない。
プルプル君の場合は元からスライムなので、スライムを食べる必要性がない。
むしろ、人を捕食したことによって、そうした自我をもったアンデットとして
蘇生したのかもしれない。
これは、あくまでも仮説だ。
もし、この仮説が正しければ、プルプル君は正しい道、神としての道を歩もうとしている。
どうか、この方向性から足を踏み外しませんように。
オレは神様に祈った。
森の中の道を駅馬車と馬に乗って進む。
伝令役のボンベイはすぐに引き返せるように馬に乗っている。
遠くのほうの木の枝になにかぶら下がっている。
風に吹かれてユラユラ揺れている。
なんだあれは。
子供の頭だった。
最悪だ。
もっと近づいてみる。
目玉はくりぬかれているものの、髪の毛の色、骨格、鼻、
楠若だとわかった。
オソロシアがビュンと飛び上がってぶら下がっている木の枝を切った。
一刻の猶予もないことは分かっている。
でも供養してやらないわけにはいかなかった。
手持ちの軍用スコップで山の斜面を掘ろうとするが、
木の根が張り巡らされていて掘れない。
クビを手で触ることはできない。
何か感染菌などの細工をしているかもしれない。
「くそがっ!」
「落ち着けタケシ」
オソロシアがオレの肩に手を置いた。
「すまん。可哀そうだが頭はここにおいて行こう。あとで回収する。
しばらく先に進むとかすかに、遠くの方からうめき声が聞こえる。
誰かがフラフラと歩いているのが遠目にも見えた。
しまった、茶虎を連れてくるべきだった。
「ボンベイ、すまないが至急茶虎を連れてきてくれ」
「承知しました!」
ボンベイが全速力で来た道を馬で引き返していった。
オレは馬車をいそがせ、フラフラ歩く人影に近づく。
近づくにつれ、血だらけだとわかった。
もっと近づく。
頭が割れて脳みそが飛び出している。
ゾンビだ。
もう助からない。
馬車の音を聞いてゾンビが振り返る。
「うおああああああああああ」
佐武伊賀だった。
「シャンティーリー燃やしてくれ」
「わかった」
シャンティーリーが火柱を立てて佐武伊賀だったものを焼き尽くした。
触れれば何か感染菌などの細工をしているかもしれない。
そのあとで、津田監物のゾンビも発見し焼却した。
しばらく行くと、バラバラになった鈴木孫八の肉片が落ちていた。
かなり抵抗して敵から怒りを買ったのだろう。
ゾンビにできないくらいバラバラにされていた。
これは、プルプル君の仕業ではない。
プルプル君が顔見知りにこんなむごいことをするわけがない。
それにこれはアンデット系の奴がやったことだ。
アンデット使いではなく、スライムのプルプル君にこれはできない。
オレは何度も頭の中で反復して考え方を整理した。
鈴木孫六の胴体が見つかった。
背中の皮がはぎとられている。
背中に貼られた召喚符を持ち去るためだろう。
他のメンバーもおそらく召喚符は奪われていることだろう。
オレ達は孫六の死体を焼却したあと、
楠若のクビのところに戻り、楠若の頭を焼却した。
申し訳ないが骨も回収できない。細菌系だけではなく、何か
魔法系のトラップが仕掛けられているかもしれないからだ。
オレはトツリバー村に向かい、リナにその詳細を説明した。
リナは落胆したが、払ったお金は遺族に渡してくださいと言った。
だが、仕事をしていないのに、そうするわけにはいかない。
オレはサイカギルドに行き、詳細を話し、死体を焼却した場所にも
サイカギルドの使者を案内した。
「ああ、孫六」
涙を流しながら使者の一人が骨を拾う。すると骨から毒ガスが噴射して使者は吐血して死んだ。
これで、これが完全な暗殺であることが立証できた。
サイカギルドはリナに代金を返却した。
サイカギルドの長、孫市は今回の事を激怒しており、犯人に5千万Pの賞金をかけた。
オレ達はレンジャー本部に帰る途中、茶虎を馬の後ろに乗せたボンベイと遭遇したが、
もうすべて遅かった。
最初から間に合わなかったのだ。
レンジャー本部に帰ると本部は血だらけになっていた。
本部に待機していたレンジャー部隊の約三分の一の精鋭が殺害されていた。
その時本部に居た者おそらく全員だ。
「アメリカンカール!アメリカンカール!」
オレは大声を張り上げて、アメリカンカールをさがした。
壁にナイフが突き立てられて、そこに何か書いた紙があった。
「アメリカンカールは連れていった。お前らも一緒に組もう」
そう書いてあった。
その下に知らない人には分からないグラマンの署名があった。
「あのバカめ、殺す」
オレはうめいた。
茶虎に魔法トラップが貼られてないか、ナイフ、紙を調べさせたあと、
その紙はシャンティーリーに焼却させた。
こんな事で疑われたり濡れ衣を着せられてはたまらない。
オレはその地図に書いてあった森に向かった。
そこは、ヨシノーのまだ先の山奥。
ハンドレットシェルキャッスルという城跡がある場所だった。
オレ達は完全武装で大決戦を覚悟で山を登った。
そして、しばらく行くと、視界が急に広がった。
そこには無数のゾンビとスケルトンとアークデビル、デスナイトの死体まで転がっていた。
すべてズタズタに切り刻まれている。
いったい何があったのだ。
大量のバケモノの死体の中で誰か一人立っている。
ゾンビか?
オレ達は警戒して近づいた。
アメリカンカールだった。
アメリカンカールはオレ達を見るとボロボロと涙を流した。
アメリカンカールはオレに歩みよろうとする。
「動くな!」
オレが厳しく怒鳴るとアメリカンカールはビクッとした。
「茶虎、トラップ確認」
「はい!」
茶虎はトラップを確認した。
「トラップありません」
「よし」
オレはアメリカンカールに走り寄って抱きしめた。
「あああああああああー!」
アメリカンカールは大泣きした。
「誰が助けてくれたんだ?」
「うううう、ハインツ、ぐすっ、ぐすっ、ハインツ」
アメリカンカールはしゃくりあげながら言った。
オレ達は城の中を探索した。
城の奥の玉座の辺りで真っ二つに圧し折られた
マモーナスの死体を発見した。
体から大量の茶色い蜜が流れ出していた。
待てよ!
オレははたと気づいた。
マモーナスは素早い。
通常なら相手に捕まって圧し折られるようなヘマはしない。
それがどうして捕まったのか?
それは、捕まっても糖を注入して気絶させる自信があったからだ。
しかし、エンドレスマウスを使って糖を全部吸収されたわけでもなく、
まだ体内に大量の糖が残っているのに、捕まってころされた。
糖の注入に失敗したのか?
なぜ?
糖は魔法ではなく物理なので、対魔法防御が完璧でも関係ない。
ではなぜ?
アンデット。
それ以外に答えはない。
アンデット!
いや、プニプニ君はスライムだ。
生きている、アンデットではない。
これはどういうことだ。
オレの頭は混乱した。
オレは必死に考えたが、ここではその答えは出なかった。
では、今回の一連の騒動を起こした犯人について考えよう。
今回の大殺戮事件は、おそらく、関西石膏連帯に依頼されたマモーナスの仕業だろう。
オレはアメリカンカールの処まで戻ってくる。
「相手がグラマンで良かったな。顔見知りじゃなかったら確実に殺されていた。
ところでグラマンは?」
「うううううう」
オレが尋ねるとアメリカンカールは泣きながら、近くに転がっている真っ黒な炭の塊を指さした。
「ああ、これか」
凄まじい有様だった。
オレは今回収集した情報、考察をレポートにまとめ、それをレンジャー隊長に渡した。
レンジャー隊長はそれを国王の元に送った。
この情報はナニワ民国やキシューとも共有された。
関西石膏連帯は、今まで大物政治家とつながっていたので、どんな横暴な事をしても
逮捕されなかったが、
今回ばかりは大量の逮捕者を出し、主催者も逮捕された。
しかし厄介な事が起こった。
ナニワ民国からの強い要請で、今回の事件に関して厳しい箝口令が敷かれた。
ナニワの士官学校出身者が問題に絡んでいた可能性が捜査の結果濃厚となったからだ。
しかも、その犯人を殺害したのがプルプル君であった場合、葛城土雲へのイジメ殺人事件の
問題も浮上するのであって、これはナニワ民国の威信を大きく傷つけかねない。
その結果、今回の大殺戮事件は、先にキシューの精鋭部隊と交戦した謎の武装集団であるという
結論がなされた。
犯人はまだ捕まっておらず、未だ逃走中であるという事になってしまった。
実際は、犯人を殺した連中は、自分のギルドの仲間を殺された復讐をしただけであり、
悪い事はしていない。もしトツリバー村を守ったシュピンネとテンプル騎士団と、プルプル君が
同一人物なら、彼は何も悪いことはしていないのだ。
ただ、気になることがあった。
マモナースが糖の攻撃を使ったにもかかわらず、彼にはそれが通用しなかった。
たとえスライムであっても糖の攻撃は効くはずだ。
ということは、アンデットである可能性が濃厚となってくる。
それはどういうことか。
プルプル君は狂犬のグランツと戦ってこれを捕食する時に大怪我を追ってしまったのでは
ないだろうか。
そして、死を悟ったプルプル君は自らをアンデットとして死んでしまった。
ただ、アンデットには問題があった。
アンデットは術者に使役される存在だ。
自分の意思、自分の自我がない。
死んだ人間をアンデット化させ、それに生きている時の自我を復活させる方法はただ一つ。
スライムを食べさせることだ。
オレは部活で下級生ができた事で、
事故が起こらないようにプルプル君に詳しく特性の聞き取り調査をした。
だからプルプル君がドラゴンを食べて最強になりたかったことや、
人間を食べて人間の形になりたかったことを知り、
人間は死刑囚であっても食べたら重罪であることを調べたり、
すでに死刑執行された犯罪者でもナニワ民国の法律では食べたら重罪であることも知った。
スライムに関する特性は全部プルプル君から聞いた。
スライムは捕食した相手の能力をトレースする能力がある。
よって本来最弱であるスライムが金属系の鎧武者や鎧騎士を捕食しつづけることによって、
ガチガチの強固なはぐれ系のスライムに変異したりすることもある。
人間を捕食すれば人間の知能も得るし、その人間の姿にもなれる。その人間の持っていた魔術も
使える。しかし、自我は元のスライムの自我のままだ。捕食された者の自我や意思が
受け継がれるものではない。
この特性を利用して、スライムを捕食させることによって、
元の人間の自我を復活し、形だけは蘇生したようにはできる。見せかけでは。
スライムが人間を捕食して人間の特性を得られるなら、魂のないアンデットがスライムを
食べることによって人間に戻れるのではないかとオレは疑問を持ち、
忍ちゃん先生にそれを聞いてみた。
変幻自在に形を変えられる人間型の忍ちゃん先生がそういう存在かもしれないと疑ったからだ。
だが忍ちゃん先生は水の精霊であり、まったく違う存在だった。
そして忍ちゃん先生から教えられた。
一旦死んだ人間の魂は死んだ段階から崩壊してゆく。
そして消えていく。
それを防ぐためには常に、その魂に精神エネルギーを注ぎ込み続けなければならない。
その方法は二種類ある。
常に感謝され、崇拝される事。
常に憎まれ恐れられ恐怖されること。
プラスであれマイナスであれ、精神エネルギーを吸収すれば魂の崩壊を防ぐことができる。
高次の魂は、たとえ己の魂が崩壊してもいいと覚悟しているので、
無駄に人間の気を引く、現世利益など与えない。
人をより尊い魂に導こうとする。
どうしても魂が崩壊したくない魂は、ついつい現世利益を与えてしまう。
もっと低い魂は、他人がどうなってもいいから精神エネルギーが欲しいので、
人と人が殺し合うような憎しみあうような方向に誘導して負の精神エネルギーを強奪する。
そこが神と悪魔の分岐点だ。
もう、人には戻れない。
プルプル君の場合は元からスライムなので、スライムを食べる必要性がない。
むしろ、人を捕食したことによって、そうした自我をもったアンデットとして
蘇生したのかもしれない。
これは、あくまでも仮説だ。
もし、この仮説が正しければ、プルプル君は正しい道、神としての道を歩もうとしている。
どうか、この方向性から足を踏み外しませんように。
オレは神様に祈った。
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「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【書籍化決定】ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
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